147日目 異世界
目覚めると、豪華な部屋にいる。
あれ……ここは……?
異世界……教会の僕の部屋だ。
そうか、異世界に来れたんだな……
身体は若干寝起きのだるさがあるけど、問題なく動く。
とりあえず、みんなに会いに行こう。
◇
「とりあえず目覚めて安心したよ」
クラールがさわやかな笑顔でこちらを見つめてくる。
僕が女性だったらイチコロだな……
「で、あのあと何があったんだよ?」
ショーンは不機嫌そうに言う。
「俺達だけを【転移】で飛ばしたんだろ?
お前が病み上がりじゃなきゃぶん殴ってるぜ……」
そうだった。
僕一人であの場に残ったことについて、怒っているんだろう。
「ちゃんと説明するよ……
けど、その前に」
僕はショーンに近づく。
彼の右腕をとる。
肘から先が無い。
「おい……」
ショーンは僕を制止しようとするが、僕はそれを無視する。
「【ホーリービジュア】」
部屋中が一気に大きな光に包まれる。
光が徐々にショーンの腕、肘の先に集まり腕と手を形作っていく……
「おいおい……」
「これって……」
◇
教会の部屋、防音の結界がほどこされた豪華な客間には、僕とショーン、クラール、イヴォンさん、カルディさんがいる。
僕は、【狂戦士】についても包み隠さず全てを話した。
「【狂戦士】か……」
「私も聞いたことがありませんね」
クラールやイヴォンさん、カルディさんでも知らないらしい。
それも納得できる。
普通【狂戦士】に一度なったらHPが尽きるまで殺戮をして絶命する。
僕だって日本にいけなければそのまま死んでいただろう。
「この国が拷問を禁止しているのも、【狂戦士】の影響かもしれませんね」
カルディさんが言う。
「それが原因なのかはわからないけど、拷問が禁止される前の国はいくつか滅んでいるからね」
「ばか言うなよ、国が滅ぶってぶっ飛びすぎだろ」
クラールの話にショーンが反応する。
「いや、あのタイラを圧倒したんだ。
十分にありえるだろう」
「………………」
「それで、フヨウは?」
僕はフヨウについて聞く。
「それが……」
◇
教会の別室へ来る。
大きなベッドが置いてあり、フヨウがいた。
「よかった、無事だったんだ」
「なぁケン、さっきの【ホーリービジュア】ってやつ、フヨウにやってくれないか?」
ショーンが言う。
なぜ?
「いや、【ホーリービジュア】はもうフヨウには使ってあるよ?」
「フヨウは、あれから目覚めていないんだ」
クラールがこたえてくれる。
僕は【パーセプション】で確認をする。
フヨウはたしかに生きている。
「あれ……?」
しかし、なにか違和感がある。
「指輪だ……指輪から生命力が……」
指輪にまだ生命力が残っている。
【ホーリービジュア】では、指輪とフヨウの間の生命力を回復したにすぎないのだろうか?
「狭間さんも気づきましたか」
イヴォンさんが言う。
「おそらく【ホーリービジュア】で一命をとりとめたのでしょう。
しかし、目覚めるには至っていません。
我々には、もう少し様子を見るか、狭間さんの【ホーリービジュア】に頼るしかないようです」
「そうですか……
でも【ホーリービジュア】は奥義なので、一度使ったらしばらくは使えません。
それに……」
僕としては感覚でわかる。
「フヨウには一度【ホーリービジュア】を使っています。
感覚的な話ですが、フヨウには使おうと思ってもおそらく発動しないと思います」
「「「……………………」」」
「それで、どうすんだ?」
ショーンが言う。
相変わらず切り替えが早いな。
「まぁ待ってれば、ケンのように目覚めることもあるかもしれないけど……」
「いや、このまま待ってるってのも性に合わねぇな」
クラールの言葉をショーンが遮る。
「既に、情報は集めています。
でしょう、カルディ?」
「えぇ、私もその指輪、調べさせてもらいましたよ」
イヴォンさんとカルディさんが言う。
「おぉ、で、なにか分かったのか?」
「いえ、私もこのような魔道具は見るのは初めてです。
ただ、王都に行けば何かわかるかもしれません」
「そうですね。
まさに今の狭間さんにはちょうど良いかもしれません」
カルディさん、イヴォンさんに言われる。
「え?
僕ですか?」
「そうです。
教会としては残念ですが、【ホーリービジュア】を習得した狭間さんは、もはやここに留まっている段階ではありません。
王都にいる知り合いを助けてあげてください」
「はぁ……」
「私が手続きをしておきましょう。
その間に狭間さんはできるだけ【挑発耐性】を鍛えたほうが良いでしょうね」
「だろうな。
【狂戦士】ってやつが発動すれば、俺達じゃ太刀打ちできないんだろ?
それと、ケンがブチ切れやすい理由が分かった気がするぜ」
いや、僕はそんなにブチ切れたりしてないと思うんだけど……
「それじゃ僕たちも王都へ行く準備をしておかないとね」
「いいえ、クラール。
あなたとショーンは第六戦線で修行をしてもらいます。
王都に行ってもあなた方ができることはありません」
「そうなのか?」
「狭間さんには、回復メインで行ってもらいますからね。
王都へ行ってからは狩りは当分我慢してもらいます」
「はい……」
狩りはしたいが、魔道具についての情報のほうが重要だ。
王都がどんなところかわからないけれど、できることはやっていきたい。
◇
それから僕は一人で第3戦線へと来た。
イヴォンさんが王都への手続きをしてくれている間、【挑発耐性】を鍛えておかなければならない。
目的は爆弾小僧だ。
爆弾小僧は、第三戦線にいる丸い岩石の魔物だ。
直径30cmくらいの岩石に細い手足がついている。
つぶらな瞳に、大きな鼻の穴、額のあたりに小さな炎が揺らめいている。
見ていると猛烈にイラつく魔物だ。
しかも、怒りに任せて攻撃をすると、大爆発を起こす。
以前、こいつを倒すために、【挑発耐性】【炎耐性】の修行をしたことがある。
ただし、今回は倒すのが目的じゃない。
持ち帰れとのことだ。
僕は【パーセプション】で魔物の位置を一通り確認する。
これは非常に有効だ。
爆弾小僧を目視してしまうと、イライラが出てきて攻撃してしまう。
しかし、【パーセプション】による位置の把握では、やつの挑発を直接受けることがない。
とりあえず、僕は自分に一通りの【補助魔法】をかけて、【魔影装】を発動する。
爆弾小僧以外の魔物、レッドクロコダイルと炎狐の魔物を殲滅していく。
以前ここへ来たときには、完全に後衛で回復と補助をしていた。
だけど、今は違う。
フル補助【魔影装】なら僕一人で狩り尽くすことが可能だ。
基本的に狩りは目を閉じたままだ。
現在【挑発耐性】のレベルは19。
けれども、ソロ狩りで爆弾小僧を爆発させてしまう可能性は十分にある。
目視しないように戦ったほうが安全だろう。
僕は【魔影脚】【魔影風神脚】を次々に叩き込み魔物を殲滅していく。
【魔影風神脚】は風属性が付与されているが、ここの魔物に対してはそれほど有効ではない。
【魔影脚】よりも若干威力が高いくらいだ。
ただし、少しではあるが【魔影脚】にもクールタイムが必要であるため、【魔影風神脚】と交互に打ち込んでいったほうが殲滅力が格段に上がるのだ。
さて、爆弾小僧以外の魔物は殲滅できた。
僕は目を閉じたまま【パーセプション】で爆弾小僧の位置を確認。
【氷結】を打ち込んでいく。
【氷結】
【氷結】
【氷結】
【氷結】
【氷結】
クソ……
弱いな。
僕は魔法系のステータスがアップする【補助魔法】も使っている。
それでも、圧倒的に殲滅力が下がる。
氷系の魔法が【氷結】しかない。
この【氷結】自体がそれほど攻撃力が無い上に、【氷結】のスキルレベルも【水魔法】のスキルレベルも低いのだ。
【氷結】
【氷結】
【氷結】
【氷結】
【氷結】
幸い爆弾小僧は攻撃をしてこないので、他の魔物が出現するまでは【氷結】を撃ち込みまくってやろう。
◇
5匹いた爆弾小僧のうち、3匹を【氷結】で凍らせたまま絶命させ、【魔力庫】へ入れることに成功した。
最初の2匹については、凍らせて絶命させるところまではいけたのだが、【魔力庫】に入れる前に、ムカついて破壊してしまった。
爆発で多少はダメージをもらったが、既に【氷結】で倒しているため、本来の爆発よりも規模はかなり小さくなっていた。
さて、帰ろう……
◇
僕はカルディさんから野営のセットを購入し、東の森へ来ている。
ここは、特に魔物が出るわけでもなく、人がくるわけでもない未開の土地だ。
数年すれば、街がここまで広がってくるかもしれないが、今はなにもない。
以前リバースフロッグの嘔吐物で各種耐性を上げた場所でもある。
なぜここへ来たかというと、本日この場所で野営をするためだ。
教会で食事などをすませ、今日はもうやることが無い。
あとはコイツとにらめっこだ。
僕は【魔力庫】から凍った爆弾小僧を取り出す。
とりあえず目を閉じたまま、20mほど離れた場所に置く。
おぉ……大丈夫だ。
絶命した爆弾小僧なら20m離れていれば、ぶちのめすことはない。
ただ、結構イラつく。
あんなに離れているのに、ムカついてくるのだ。
「ふぅ……」
とりあえず僕は深呼吸をする。
慣れてきたら、少しずつ近づけていき、さらに数を増やしていこう。
狭間圏
【大司祭:Lv2(↑+2)】
HP:408/408(↑+2)
MP:39/1195【大司祭】:+210
SP:514/514(↑+1)
力:67(↑+1)
耐久:131(↑+1)
俊敏:70
技:60(↑+1)
器用:109
魔力:89【大司祭】:+104
神聖:154【大司祭】:+160
魔力操作:192【大司祭】:+54
【水魔法】Lv48+1
【氷結】Lv15+5
【回復魔法】Lv103+1
【グレイトヒール】Lv17+1
【ホーリービジュア】Lv2+1
【魔力庫】Lv127+1
【体術】Lv33+1
【魔影装】Lv46+1
【魔影脚】Lv14+1
【魔影連脚】Lv11+1
【魔影風神脚】Lv1+1
【マルチタスク】Lv143+1
【挑発耐性】Lv22+3




