147日目(日本)
マヤシィナで戦ってから一週間経つ。
あれから一度も異世界で目覚めていない。
異世界での出来事は夢だったのかとも思ったが、そんなことはない。
なぜなら、習得した全ての魔法が日本でも使えるからだ。
そして、異世界で目覚めないことについても心当たりがある。
【狂戦士】のジョブだ。
以前【狂戦士】になったときにも、異世界でしばらく目覚めることがなかった。
あのときは、一週間後に異世界で目覚めた。
そして、今日で一週間……
前回と同じなら、明日異世界で目覚めるはずだ。
一週間、病院での検査や、市役所での手続きをひたすらこなした。
僕が動けない間に、高校は終わっており、みんな卒業してしまった。
これまでほとんど学校を休んだことがなかったこともあり、僕も卒業させてくれたようだ。
これで高卒になるので、一応大学受験できる。
しかし、大学に行くには今の僕では学力がまるで足りないだろう。
いろんな手続きを終えて、やっと時間ができたし勉強するのもありではある。
だけど、今一番気になっていることがある。
僕がトラックに引かれた事故現場だ。
まずはあの場所に行ってみよう。
何かあるかもしれない。
◇
おかしい……
明らかにおかしい……
事故現場までは、100メートルくらいあるだろうか。
このあたりから、魔素が薄いのだ。
基本的にこっちの世界の人達は魔法が使えない。
そして、この世界には魔物も存在しない。
だから、魔力を使うこともなく、空気中の魔素が濃密なのだ。
だから僕もMPが常時全快で、相当な勢いで魔法を使い続けない限りは減ることも無い。
しかし、このあたりの魔素は薄い……
事故現場に近づけば近づくほどに薄くなっている。
ここまで来ると、魔素は無い。
ここにいてもMPは一切回復しないだろうと思われる。
!!
なんだあれは?
事故現場に近づくと、不自然な箇所がある。
不自然と言っても、見た目は変わらない。
さっきから【空間魔法】の【パーセプション】を使って、周囲を確認しながら進んでいるのだが、交差点付近に歪みのようなものを感じるのだ。
……なんか、ヤバそうだよな。
僕は慎重に少しずつ近づいてみる。
!!
マズイ!
MPが減っていく!
僕はとっさに距離をとる。
あの歪み……
あれが、周囲の魔素を吸い込んでいるんだろうか……
仮に僕のMPが空になったところで、死ぬことは無いと思うが……
嫌な感覚があるな。
もっと近づいてみるか?
ブー……ブー……
!!
スマホの振動がある。
なんだ、おばさんからか。
身体がビクついてしまった。
「もしもし」
「どうしたの?
声が変よ」
僕は、びっくりして声が裏返ってしまったようだ。
とりあえずこの場を離れよう。
「いや、なんでも無いよ。
着信大きくしすぎて驚いただけ」
「そう?」
「それより、なにかあったの?」
「あのさ、兄さんが亡くなったときにあなたに相続があったのよ。
未成年だから、私が対応したんだけど」
そうなんだ。
そういえば、父さんが死んだのは僕が小学校に入ったばかりだったからな。
あんまり覚えていないし、相続のことなんてよくわからないな。
「それで、兄さんは私と兄弟だから、いろいろできることがあったんだけど、義姉さんのほうは、あなたが相続したのよ」
「母さんの?」
「そうね。
義姉さんのほうは、実家が栃馬県だったじゃない?」
「あ〜そうだったかも」
確かに、母さんは実家が北関東の山奥だったような……
「それでね。
あなた、その実家相続してるのよ」
「え?
実家を?」
「そうよ。
山奥で古い家屋だからたいしたことないけど、兄さんたちの口座から毎年固定資産税も払ってたのよ」
「そうなんだ。
全然知らなかったよ」
誰も使っていないのに、毎年お金を払うのはもったいないな。
「それで、いろいろ手続きするついでに、売っちゃえばいいかと思って」
「そんな山奥のところなんて売れるものなの?」
なんか、ワイドショーとかでそういう土地が余ってるってやってたよな。
誰が買うんだろう。
「どうだろうね。
知り合いの不動産屋に聞いてあげようか?」
「ん〜……
とりあえず、見てみたいな」
「そう?」
「うん、母さんが育ったところだからね」
「そうね。
義姉さんのものもあるかもしれないし、一度見てきなさい」
◇
そういうわけで、僕は今電車に乗っている。
あの事故現場も気にはなるけれど、今は近づかないほうが良い気がする。
もうすこし情報がほしいところだ。
そしてもちろん、駅や電車内で【補助魔法】を使いまくっている。
恐ろしい勢いでレベルが上がっている。
ただし、電車の中では制限があった。
同じ電車に乗っている人なら別の車両でもどんどん【補助魔法】を使うことができた。
だけど、電車で通過しているところに【補助魔法】をかけるのは無理だ。
電車の速さで通過したところの人たちに、【補助魔法】が使えたらレベルを上げられると思ったんだけど、流石に魔力操作のステータスが足りないらしい。
電車の進む速さが僕のステータスに対して速すぎるんだ。
けれど、それでも十分にレベル上げができる。
駅に停車すれば、そこで人が入れ替わるし、次の電車を待っている人たちにも【補助魔法】をかけまくることができる。
虫や動物と違って、人間に【補助魔法】を使うのにはそれほど神経を使わない。
昨日まで、病院やら市役所やらで手続きしているときも【補助魔法】を使いまくっていることもあり、日本人に影響のない【補助魔法】についてはほとんどカンストした。
【補助魔法】の強化については申し分ない。
だけど数々の【補助魔法】をカンストしたにも関わらず、新しい【補助魔法】は【ハイマナエイド】(MP強化)しか出てきていない。
これは、ジョブの関係だと思う。
【上級補助魔法士】がまだそれほど高いレベルではないからだろう。
そうこうしている間に駅に到着する。
無人駅だ。
僕以外に誰も降りる人がいない。
田舎ならではなのだが、ボタンを押さないと電車の扉が開かない。
すげぇ……
駅前なのに、なにもない……
あるのは、バス停と自動販売機が一つだけ。
自動販売機の後ろには、昔は商店だったような家屋がある。
今はただの住居だろう。
とりあえず、バスの時刻表を確認する。
マジか……
2時間待ちですか……
どうしようかな。
バスを待つなら、正直走ったほうが速い。
昇仙山で鍛えた持久力があれば、自転車くらいの速さで走り続けることはできる。
僕はスマホのマップで母の実家を探す。
事前に調べてあったのでおおよその場所はわかる。
マジで山奥だ。
衛星写真で見たけれど、木が生い茂っていて外観についてはいまいちわからない。
だけど、場所ならマップで確認できるからな。
えっと……
ここからさらに46kmか……
2時間待つなら走ったほうがいいな。
◇
僕はひたすらに走り続ける。
上り坂ではあるが、昇仙山を登ったときよりは遥かに楽だ。
身体が軽い。
つい一週間前まで寝たきりだったとは思えない。
えっと……
こっちだな。
山道の道路に分かれ道が現れる。
一つはトンネル。
もう一つは旧道だ。
僕は旧道のほうへと進む。
トンネルができる前までは、きっとこっちの道がメインで使われていたんだろう。
昼間なのに、若干薄暗いほど木々が生い茂っており、道幅も狭い。
これは対向車がいたらなかなかすれ違えないな。
車も人通りもまったくないので、走るペースを上げていく。
【魔影装】と【アジリティエイド】【ハイアジリティエイド】の補助を自分にかけていく。
景色の流れが一気に早くなる。
多分だけど、原付バイクくらいの速さは出ているんじゃないだろうか。
このあたりかな?
僕はマップを確認する。
げ……
電波が無い……
記憶だとこのあたりなんだけど……
僕は走るのをやめ、あるきながら道路を確認する。
僕はしばらくあるき続ける。
無い……
脇道なんて無いぞ……
少し開けたところに出る。
こういう細い道路には、所々にすれ違えるスペースが設けられている。
一度座って休憩をしよう。
僕は【水魔法】でグビグビと水を飲む。
電波は……
無いな……
◇
ひたすら走り、電波のあるところまで出る。
脇道のところを確認する。
とっくに通り過ぎたところだ。
マジか……
あのへんに脇道なんてあったか?
とりあえず、スクリーンショットで画像を保存をしておく。
◇
あ……
僕は魔法が使えることに気づく。
相変わらず脇道は見つからないが、【空間魔法】を使えばいいんだった。
【パーセプション】で周囲の状況を確認する。
……あれか?
狭い道路に獣道がある。
これか?
なんというか、昔は道だったのだろうか。
雑草が生い茂っており、人が通るような道ではない。
頑張れば通れる、くらいだろうか。
ん〜……
【エアブレード】で雑草をぶった切っていけば、ある程度人が通れるようにはできると思うが……
ちょっと【パーセプション】で様子を見よう。
獣道の奥の方を確認する。
どこまで行っても獣道だ。
ちょっと雑草が減ってくるか?
一度【転移】で飛んでみよう。
【転移】!
◇
薄暗いな……
ここから【エアブレード】を使って進んでいこう。
僕は【エアブレード】で雑草を切り倒しながらどんどん進んでいく。
切り倒した雑草を豪快に踏みながら進んでいく。
雑草は根元付近から切り倒しているが、切られた雑草は地面にツンツンと出ている。
普通の日本人なら、もう少し整地しながら進まないと怪我をするだろう。
だけど、今の僕には関係ない。
というより、異世界人であればある程度耐久があるので、この程度なら強引に進んでいく。
進めば進むほど、薄暗くなっていく。
こんなところに家なんかあるのか?
徐々に竹林も増えてくる。
薄暗いのはコイツのせいだろう。
!!
あった。
1mくらいの朽ちかけた土壁が見える。
獣道の先には、小さな門がある。
門といっても、腰くらいの高さの木の扉があるだけだ。
隣には錆びきっているポスト。
土壁や、門は低いので、奥まで見えるが、結構広くないか?
田舎の家って結構広いもんな。
ギィ……
門から少し開けている。
今は雑草が生い茂っているが、整備すればいい感じの庭になるだろうか?
右奥には、大きな平屋。
木製の雨戸で締め切ってあり、灰色の瓦屋根がある。
あれがメインの家屋だろう。
左手前には、小屋がある。
倉庫だろうか?
さらに左奥には蔵。
おそらくこの蔵が一番古いだろう。
時代が感じられる。
決めた……
ここなら誰の目も気にせず修行ができる。
いずれここで生活できるようにしよう。
狭間圏
【上級補助魔法士:Lv29】
HP:381/406【上級補助魔法士】:-25
MP:1264/1195(↑+84)【上級補助魔法士】:+69
SP:513/513(↑+11)
力:66【上級補助魔法士】:-15
耐久:130【上級補助魔法士】:-15
俊敏:70【上級補助魔法士】:-15
技:59【上級補助魔法士】:-15
器用:109
魔力:89
神聖:154(↑+1)
魔力操作:192(↑+7)【上級補助魔法士】:+49
【水魔法】Lv47+1
【風魔法】Lv96+1
【エアブレード】Lv74+1
【補助魔法】Lv213+10
【ハイマジックアシスト】Lv★43
【ハイホーリーエイド】Lv★43
【ハイコントロールエイド】Lv★43
【ハイマナエイド】Lv4+4 New
【呪術】Lv53+22
【マナブレイク】Lv★14
【スキルブレイク】Lv★+16
【マジックブレイク】Lv★+18
【ホーリーブレイク】Lv★+15
【コントロールブレイク】Lv★+26
【空間魔法】Lv95+3
【パーセプション】Lv108+5
【遠方認知】Lv53+3
【マルチタスク】Lv142+4
【自己強化】Lv39+10
【不屈】Lv32+7
【鉄壁】Lv40+7
【ホーリービジュア】Lv1+1




