139日目(異世界)⑥
フヨウは……フヨウはいつも真剣に修行をしていた。
少しでも強く、仇を討つために頑張っていたんだ。
こんな……こんな事が許されて良いのか?
やりきれない怒りと悲しみが湧き上がってくる。
「ふざけるなぁ!」
怒号とともに飛び込んで行ったのはショーンだ。
『ダメだ!
今のアイツに近づいちゃいけない!』
クラールが【コール】でショーンに呼びかける。
タイラは片手剣でショーンの突きを薙ぎ払う。
ズバァー!
一振りだ。
たったの一振りで、辺りが吹き飛ぶ。
ショーンの槍は当たったのか?
それすら今の僕には認識することができない。
かろうじて分かるのは、ショーンがふっ飛ばされ、その先にクラールがいることだ。
ドガッ!
ショーンはクラールに衝突する。
早く回復をしなければ!
!!
腕が……
ショーンの腕が槍ごと吹き飛んでいる。
魔石で傷口が回復はしている……
しかし、腕が生えることは無い……
クソ……このままじゃ……全滅だ。
タイラは自分の力に満足しているのか、
自分自身の身体をゆっくりと見渡している。
追撃はしてこない……
『ケン!
聞いてくれ!
僕のさっきの【次元の矢】で結界に穴が空いている』
!!
マジか!
僕は【空間魔法】の【パーセプション】を発動させる。
できる!!
完全に空間を認識することができる。
『これなら【転移】が使える』
『頼むケン!
僕が持っている魔石よりもケンの【転移】のほうがおそらく遠くまで転移できるはずだ』
確かに……
僕は【転移】を使おうとする……
近くには、フヨウが……
フヨウの亡骸があった……
先程のタイラの斬撃の衝撃でここまで来てしまったのだろう。
このまま逃げていいのか……?
仲間を殺され、何もできずに……
僕は【魔力庫】へとフヨウを収納する。
もはや生物ではないフヨウは僕の【魔力庫】へと収納されてしまう。
!!
あれは……
あれは……フヨウの……?
【パーセプション】を使ったことで、タイラの指輪から大きな生命力を感じることができる。
間違いない!
指輪から感じられるのは、フヨウの生命力!
フヨウの命だ!
もしかしたら、指輪があればまだ救えるかもしれない!
あれが……
あれが発動すれば……
タイラから指輪を奪うことも……
戻ってこれないかもな……
それでもいい……
可能性があるなら……
『クラール……』
『どうした?
早く【転移】を』
『あのさ、短い間だったけど今まで楽しかったよ……』
『……?』
『僕は皆みたいに、才能はないかもしれないけれど、一緒に修行ができて楽しかったんだ』
『ケン……なにをするつもりだ……?』
『こんな形でお別れになってしまうけれど、ショーンやカルディさん、イヴォンさんにも同じように伝えてほしい……』
『待て!』
『ありがとう……』
僕はショーンとクラールにだけ【転移】を使う。
突如として消えたクラールとショーンに対して、タイラとギュエンは驚いている。
「バカな!
【転移】か?」
「しかし、タイラ様、この小僧が残っていますぞ」
ギュエンは僕を指差し、タイラに言う。
「置いていかれた……というわけでは無さそうだな。
小僧、お前が【転移】を使ったのか?」
「そうだ……」
「何故自分も一緒に【転移】しなかったのだ?」
「さぁね……
僕を拷問すれば、分かるかもしれないよ?」
「ほぉ……時間稼ぎ、といったところか。
いいだろう。
闇雲に探すよりも、貴様に転移先を聞いたほうが効率が良さそうだ」
タイラは顎に手を当て、不敵に笑う。
「フヨウからは素晴らしい力を得た。
戦闘において、【昇仙拳】や【雷属性】は驚異的だ。
そして、【炎属性】は戦闘よりももっと効果的に使える場面がある……」
ザッザッ……
「なんだか分かるか?」
タイラはゆっくりと僕に近づいてくる。
「炎による拷問だ……」
◇
「ぐああぁぁぁああ!!」
全身が焼ける……
痛みは斬撃や打撃の比ではない。
「あぐ……ぁ……」
喉も焼けただれ、声を出すことができなくなる。
「これで三度目か。
果たしてどれだけ理性を保つことができるかな?」
【オートヒール】が発動し、魔石の【ハイヒール】それから僕自身の【グレイトヒール】と【ハイヒール】を使って回復をしている。
「か……は……」
【水魔法】を発動し、全身の水分を補う。
「タイラ様、こやつの精神力は異常と言っても良いですな」
「ほぅ……?」
「この状況で、自分自身を回復し、さらに水分まで補っています。
仮に訓練を受けていないものが、一度でも焼かれれば、回復する気力など出てこないでしょう」
「それは好都合だな……
我も【炎魔法】には慣れておらん。
存分に訓練ができる、というわけだ」
そう言うと、タイラは僕の脇腹に剣を突き刺す。
「ぐっ……」
ボワッ!
突き刺された剣から炎が僕の全身を焼いていく。
「がぁあああああああぁぁぁあ!!」
ゴゴゴゴ…………
きた……
ゴゴゴゴ…………
まるで、重い重い扉が、ゆっくりと開いているように……
ドサッ!
僕は再び【回復魔法】を連発していく。
MPも魔石もまだある。
【水魔法】で水分の補給をする。
「こいつ……正気か……?」
どうやら、また笑っていたらしい。
ブスッ!
再び剣が脇腹に入る。
ボワッ!
「ぐあああああぁぁぁぁあ!!」
ゴゴゴゴ…………
薄々気づいてたんだ……
ソーミルにやられている間も……
「があぁぁああああ……ぁ……」
ゴゴゴゴ…………
もう近くに来ていたんだろう……?
ゴゴゴゴ…………
ガッシャン!
僕の中で……なにかが猛烈に組み合う……
バックン……
バックン……
心地の良い心臓の鼓動……
これだよ……これ……
ブチッ!
「な!」
「ん?」
「ぐぬぁあああああぁぁあ!」
ギュエンが叫び声を上げる。
自分の腕を見て……
「あはははは!!」
オレは大剣ごとヤツの腕を引きちぎってやった。
実に……実にいい気分だ……
スパッ!
奪った大剣でギュエンの頭を切り落とす。
ドサ……
ゴロゴロ……
胴体は倒れ、頭がこっちに転がってくる。
オレはギュエンの頭に片足を乗せ、タイラの方へ向き直る。
「オイ……」
タイラは驚いた表情でオレを見る。
あぁ……
たまんねぇ……
たまんねぇよ……
オレはタイラに剣を向け、ギュエンの頭を踏み潰す。
ブシャッ!
ギュエンの頭は果実のように弾け飛ぶ。
「ゲス野郎……てめぇはミンチだ」




