139日目(異世界)②
『【補助魔法】でステータスが上がりすぎてるから、慣れるまで……』
僕はショーンとクラールに全ての【補助魔法】をかけ、慣れるまで時間がかかることを注意しようとする。
が……
ザッ!
ショーンはタイラへと踏み込む。
「【濁流槍】!!」
ザバァッ!!
水流を含んだ鋭い突きが繰り出される。
すごい……
僕は、ソーミルとの戦い、またここへ来るまでの魔物との戦闘で、【補助魔法】の上がりきったステータスに感覚を合わせていった。
数日の時間をかけて慣れさせていったのだ。
にもかかわらず、ショーンは一瞬で身体の感覚を【補助魔法】に合わせ、【濁流槍】を繰り出している。
「ほぅ……」
ガツガツガンッ!
しかし、タイラはそれを難なく片手剣で受け流す。
「先程とは練度が桁違いだな……【補助魔法】か?」
「【ホーリーアロー】!!」
ビュンッ!
ガギンッ!
クラールに関しても同様に、一瞬で【補助魔法】に対応している。
『おいケン!
【補助魔法】がぶっ飛んでるぜ!
負ける気がしねぇな!』
『こっちもだ。
数キロ先の的でも外す気がしないね!』
二人共さすがというしかない。
【補助魔法】込みだと、僕が近接攻撃に入る隙がない。
回復に徹するべきか。
「ダララララ!」
ガツッガガガガッ!
槍による鋭い突きと、魔弓による閃光の矢がタイラに降り注ぐ。
数十、数百もの針が全方位から迫っているようだ。
あれでは反撃などできようもない。
「ギュエンよ、どうやら鼠がもう一匹紛れているようだな」
「ほぉ……」
タイラも大概だ。
あの状況で、会話ができる余裕があるのか。
そして、タイラには【闇の衣】を看破されてしまった。
攻撃をいなしながらも、周囲を警戒する余裕まである。
ギュエンもタイラに言われ、あたりを見回している。
「お前は……まさか!!
ソーミルから逃げてきたのか?」
ギュエンも【闇の衣】を看破し、僕を見て驚いている。
「やっぱりソーミルはあんたたちの手下だったってわけね」
「ソーミルめ……とんだ失態だな」
「正確には、逃げたんじゃなくて、倒してきたんだけどね」
「ハ……貴様のような小僧に?」
ギュエンは兜の中で笑っているのだろう。
まさかソーミルが僕にやられたとは思っていないようだ。
僕は【ストレージ】から短剣を取り出す。
「これを見れば分かるだろ?」
「バカな……それは、ソーミルの」
「ほぉ……」
僕がソーミルの短剣を見せると、ギュエンとタイラの気がこちらへ向く。
そして、それを見逃すショーンではない。
「【清流槍】!!」
一瞬でタイラを通り抜け、一筋の水しぶきがタイラを攻撃する。
ガギンッ!
「っ……!!」
ここへきて、初めてタイラの表情が歪む。
余裕が無くなってきたのだろう。
「ハハハッ!
タイラ様、お戯れが過ぎますぞ」
しかし、それを笑い飛ばすギュエン。
こいつ、状況がわかっているのだろうか。
「【雪月斬】!」
バシュッ!
タイラの剣から半月型で青白い鋭い波動が出る。
バッ!
ショーンはとっさに距離をとる。
タイラの【雪月斬】により、地面に亀裂が入っている。
恐ろしい威力だ。
「良いではないか、ギュエンよ。
指輪の力にも慣れておくべきだろう?」
「しかし、本来の目的をお忘れなく」
タイラ、ギュエンともにいたって余裕だ。
僕たちの【補助魔法】込みの力を持ってしてもこの態度……
嫌な予感しかしないな……
「まぁそうだな……
この辺りにしておくか……」
「タイラ様、あとから来た一匹、私にいただけませんか?」
「ダメだ。
指輪に慣れるために、少しでも私が戦うべきだろう?」
「参りましたなぁ、私の身体がなまってしまいますぞ」
「……ふむ。
では、希望通りにその魔法使いをお前にくれてやろう」
「おぉ!!
ありがとうございます!!」
ギュエンはこちらへ向き直る。
こいつが僕の相手をするつもりか?
「おい、鼠共……
斥候兵の割にはよくぞここまで戦えたものだ。
褒めてやろう」
ジャキッ!
タイラは剣を天高く掲げる。
タイラの指から青白い光が輝いている。
ギュィイーーーン……
タイラの手に、強烈なエネルギーのようなものが集まっていく。
『なんだよアレ……』
『あり得ない……あれが人間のできることか?』
カタカタと小刻みに地面が揺れる。
凄まじいエネルギーだ。
タイラの掲げた指に、緑色の光が新たに加わる。
「血鎖の指輪は一つとは限らぬぞ?」
『マジかよ!!』
『フヨウは……兄も失っている……』
『ちょっと待って、もう一人分ステータスが上乗せされるってこと!?』
マズイ!
絶対マズイぞ!
「おい、小僧。
お前はこっちだ」
「ぇ?」
メキッ!
右半身に強烈な打撃を受ける。
ザァッ!
僕は吹っ飛び地面を滑る。
何があった?
僕は右半身の砕けた骨を回復しながら状況を把握する。
ふっ飛ばされた方向には、大盾を構えたギュエンがいる。
あの大盾に吹っ飛ばされたのか?
あいつは、ギュエンは重装備だ。
全身鎧に大盾、大剣を背中に背負っている。
あの装備で僕が気づけ無いほど、高速で突進してきたというのだろうか。
「ハハハ、どうした小僧。
ソーミルを倒したんだろう?」
ギュエンの左手がギラリと光る。
あの光は……タイラと同じ?
そう言えば……
ギュエンは新緑の覇者との戦いで、息子を亡くしたと言っていた。
まさか……
まさかこいつも……
自分の息子を……




