139日目(異世界)①
ダッダッダ!!
今日も魔物の数が少ない。
おかげで、道中を走り続けることができている。
昇仙山で修行していた頃よりも、かなり走れるようになったな。
このペースなら、息切れすることも無い。
あれは、騎士団の野営跡だ。
一旦休憩するか。
【水魔法】による水分補給と、エルダーライノの肉を頬張る。
日に日に肉の量が増え、【魔力庫】と【ストレージ】を圧迫している。
【魔導解体】や【魔石生成】のおかげで、かなりの体積を圧縮できてるが、それでも肉が増えてくるな。
まぁ明らかに一人で食いきれる量じゃないし。
美味い……
美味いんだけど、飽きてくるよな。
「グオォォォ!!」
!!
なんだ?
大きな鳴き声が聞こえる。
ここからじゃよく見えないな。
僕は【パーセプション】を発動する。
ダメだ。
距離が遠すぎるのか?
近くには小型の魔物や小動物しかいないな。
明らかに鳴き声の主ではない。
【遠方認知】では、自分が指定した位置のことしかわからない。
先程の声だけでは正確な方向はわからないな。
ザッ!
僕は大木の上に登る。
猿の魔物たちと戦ったくらいの高さ。
ここでは、木々が茂っていて周りの様子まではわからないな。
ザッ!
更に上方へ登っていく。
木のてっぺんまで登ると、更に大きな木へと飛び移る。
あれは……?
遠くの空に、飛行している魔物が見える。
ドラゴンだ……
あれが新緑の覇者か?
僕は目視で正確な方向をとらえると、【遠方認知】を発動させる。
デカイ!!
巨大なドラゴンだ!!
ドラゴンの周りで爆発がおきている。
魔法か?
攻撃を受けているようだ。
マヤシィナの騎士団だろう。
あそこにショーンやクラール、フヨウがいるはずだ!
急ぐぞ!!
僕は日本で補充した【転移】の魔石を使いまくる。
◇
!!
なんだ?
おかしい……
【空間魔法】がうまく機能しないのだ。
マヤシィナの地下に監禁されたときと同じだ。
これは【結界魔法】か?
【空間魔法】から【魔影装】による空間認知に切り替える。
やっぱりだ。
【魔影装】ならきちんと発動する。
それほど広い範囲ではないが、周りの状況を把握できる。
僕の後方、今進んできたところに見えない壁が存在する。
これが結界か?
光の反射が不自然な壁がある。
この外側なら、【空間魔法】を使うことができるんだろう。
僕は手を伸ばし、反射が不自然な壁に手を伸ばす。
ぐっ……
あれ?
手が止まってしまう。
マジかよ。
物質を完全に通さない結界なんてあるのか……
「グオォォォーー!!」
地響きが起きるほどの鳴き声が聞こえる。
一体何が起きてるんだ?
結界内で【空間魔法】が使えない以上、目視と【魔影装】で対応するしか無い。
ドスン!!
今度は地響きだ。
地響きにより、身体が小刻みに揺れる。
これ……絶対やばいやつだよな……
僕は【闇の衣】の魔石を取り出し、使っていく。
ドラゴンと戦闘中なら、これで気付かれにくくなるはずだ。
鳴き声の方向に行ってみよう。
鳴き声や地響きから、それほど距離は離れていない。
今の僕なら、【補助魔法】で確実にみんなの戦力になれるはず!!
ダッダッダッ……
全力疾走で、辺りを駆け回る。
あれは……?
ドラゴン……新緑の覇者か?
ギンッ!
ガギンッ!
金属がぶつかり合う音が聞こえる。
戦っているのか!?
「うおぉぉぉ!!」
ボォォ!
バリバリ!
フヨウが双剣に炎と雷をまとわせ戦っている。
「ハハハ、良いぞフヨウ!
それでこそ、修行をさせた甲斐があったというものだ!」
相手はタイラ様?
フヨウ相手に余裕だ。
すべての攻撃を片手剣でいなしている。
タイラ様の後ろには、大剣を地面に突き刺し、そこに両手を置いているギュエンさん。
そのギュエンさんの後ろには騎士団の方がずらりと整列している。
ショーンとクラールはどこだ?
!!
いた!!
ショーンは倒れている。
気絶しているんだろうか?
ザッ!
僕はショーンにかけよると、魔石を使い回復していく。
『おい、ショーン!!
何があったんだ!?』
バシャッ!
さらに【水魔法】でショーンの顔に水をかけていく。
『ケン、ケンなのか!?』
僕は【コール】の魔法でショーンに話しかけると、応えたのはクラールだ。
【コール】は僕と、クラールとショーンで発動中だ。
「ん……?」
ショーンが気絶から目覚める。
『とりあえず、魔石を渡しておくよ』
目覚めたショーンに回復の魔石をいくつか渡しておく。
『ケン!
どこだ!?』
『ショーンの近くだよ。
【闇の衣】っていう認識されにくい魔石を発動中だ』
いた!
周りを見渡すと、クラールがいる。
右肩を怪我しているな。
ザッ!
僕はクラールに駆け寄り、回復の魔石を使っていく。
さらに、魔石もいくつか渡しておく。
『ケン、助かるよ』
『これどういう状況?』
『最悪の状況だよ……』
クラールの表情にいつもの余裕が無い。
『手短に話す。
フヨウの父親を殺したのはタイラだ。
さらに、タイラはフヨウの父の全ステータスを魔道具の指輪にして、全て受け継いでいる。
つまり、達人二人分のステータスってわけだ。
その力で戦争をおこそうとしている』
二人分のステータス?
そんなのありなのか?
さっきからフヨウの全力をすべて片手でいなしているタイラ。
表情からも、余裕がうかがえる。
本当だとすれば、凄まじいステータスになっているはずだ。
『そりゃ、かなりマズイね……』
『クソ……やられっぱなしでいられるかよ!!』
ショーンが起き上がり槍を構える。
『ダメだショーン!
よく見ろ、まともに戦って勝てる相手じゃない』
ガギンッ!
タイラはフヨウの攻撃をいなし、さらにフヨウを吹っ飛ばす。
ザァッ!
「く……よくも……よくも……父上を……」
フヨウは双剣を握りしめ、目に涙をためている。
「よくぞ短い期間でここまでの力を得たものだ……」
ガッ!
タイラは剣の柄でフヨウのみぞおちを攻撃する。
「がはっ!」
ドサッ!
一撃だ。
一撃でフヨウを気絶させている。
『クソ、フヨウがやられちまったぞ。
どうすんだよ……』
『結界のせいで逃げるのも難しい……』
『あのさ、要するにタイラは敵ってことだよね?』
『そうだな……』
『戦おう……』
僕は、ショーンとクラールに全ての【補助魔法】をかけていく。
『な!!』
『おい、なんだコレ!?』
『みんなと離れている間に【補助魔法】の修行をちょっとね』
『これが……【補助魔法】?』
『すげぇな……まるで別の身体みてぇだ』
『フヨウを助けよう』




