133日目(異世界)前編
ここは……異世界だな……
僕は目覚めたが、身体を微動だにしない。
まずは、【魔影装】で正確に状況を把握する。
どうやら僕は壁に貼り付けられているようだ。
手足は分厚い金属で壁に繋がれている。
昨日の簡易的な手錠ではない。
10cmくらいの厚さがある金属だ。
もちろん腕力でどうにかなるものではない。
昨日とは比べ物にならないほど厳重に固定されている。
そして、数メートル先には二人の男がいる。
昨日の細剣使い、それから短剣を使うソーミルとかいうヤツだ。
床には血が飛び散っている……
これって、多分僕の血だよな。
僕を起こすために、様々な攻撃をしかけたのだろう。
なるほど、異世界で攻撃を受けたとき、ダメージは両方の世界の身体にいくけど、日本では血が飛び散ったりしないわけだ。
「こいつ、どうするんすか?」
「さぁな、こんだけ痛めつけても起きねぇんだ。
待つしかねぇだろ」
細剣使いは、カイとか言ったかな?
カイとソーミルが会話をしている。
僕がまだ目覚めていないと思っているのだろう。
今のうちに、【金属精錬】で手足の分厚い金属に切り込みをいれておこう。
「いったいいつまで待てばいいんすかねぇ」
「さぁな。
ったく、寝ながら回復するとか不気味な野郎だ……」
「殺さなくていいんすか?」
「ダメだ。
こいつは相当なMPだぞ。
こいつ一人で、下手すりゃここの生産は一気に二倍以上になる」
「二倍ですか!?
そりゃ、殺すには惜しいすね……」
「だろ?
それに、そこまでの脅威は無い。
負けるなんてことはもちろん、逃げられることもねぇだろうな。
お前だって、不意をつかれなければ負けはしないはずだ」
「そうですけど、昨日こいつに武器取られてるんすよ……」
「あぁ、そうだったな。
好きなだけ拷問して取り返せ」
「へーい……
またちょっとぶん殴ってみますよ」
コツコツ……
カイが歩いて近づいてくる。
さっきの会話の間、【金属精錬】を使っておいた。
こいつらは、昨日僕が腕力で手錠を壊したと思っているのだろう。
そして今なら【魔影装】を使えば、手足を拘束する金属を破壊できるはずだ。
今のうちにすべての【補助魔法】をかけておく。
!!
【補助魔法】の効きが尋常ではない……
身体中から力がみなぎってくる……
「……ん?」
マズイ!
【補助魔法】に気づかれた!!
「ハッ!」
バキッ!
僕はすぐさま手足の拘束を【魔影装】で力任せに引きちぎる。
「なっ!」
【魔影脚】!
金属を引きちぎると同時に、脚を回転させ、カイの顎に【魔影脚】を打ち込む。
バッゴォォォオオオン!!
ガクッ!
カイは白目を剥き、床に倒れ込む。
すごい……
一撃だ……
蹴りのインパクトが異常だ。
昨日とは段違いのステータスになっている。
「なっ!
冗談じゃねぇ、手錠をいくつもぶっ壊しやがって……」
ソーミルが短剣を構えて近づいてくる。
「どういうカラクリだ?
昨日のてめぇの腕力じゃ絶対に壊せないはずだ」
「……………………」
まるで別人の身体……
力……
技……
俊敏 ……
すべてのステータスが飛躍的に上がっているのを感じる……
凄まじい……
妙な感覚だ……
「スゥー……」
僕は深呼吸をし、腰を深く落として構える。
ドカッ!
右半身を引き、右脚を力強く地面に叩きつける。
「だんまりか……
あれだけ痛めつけたのにな……ムカつく野郎だ」
ダッ!
ソーミルは踏み込むと短剣の突きを繰り出す。
恐ろしい速さだが……
バッ!
僕は身体をひねり、突きをかわす。
「そらよっ!」
ブワッ!
突きからの蹴り、昨日と同じだ。
短剣の突きをかわしたところに、強烈な蹴りだ。
僕は胴体に蹴りが直撃する寸前に、腕をねじ込む。
ドガッ!
身体が吹っ飛ぶが、体勢を崩さずに着地する。
大丈夫だ。
ダメージはあるが、戦える……
【補助魔法】を鍛えまくったおかげで、なんとか対応できる。
「……………………(なんだ?まぐれか……?)」
バッ!
すかさずソーミルが突進してくる。
さっきと同じ鋭い突きだ。
僕は再び身体をそらし、突きをかわす。
さらに、今度は逆方向から蹴り。
ガスッ!
ギリギリガードできる速度だ。
僕はふっ飛ばされながらも、体勢を崩さず距離をとる。
身体の違和感が著しい……
上がりすぎたステータスに感覚が追いついていないんだろうか?
「おい、どうなってんだ?
まぐれじゃねぇな……」
「……………………」
ギリギリガードできただけだ。
このままでは反撃できない。
できないが……
ザッザッガスッ!
するどい短剣の突きをかわし、蹴りもすべてガードする。
反撃する余裕はないが、すべてガードはできる。
「おい、昨日は本気じゃなかったのか?」
「さぁね……」
「ムカつく野郎だな……
殺されないとたかをくくってんのか?」
ビュッ!
短剣が僕の顔面をかすり、血しぶきが出る。
今まで一度も攻撃がこなかった急所を狙ってきたようだ。
「どうする?
おとなしくするなら、魔石補充の奴隷として扱ってやる。
このまま戦うなら手加減はできねぇ……
普通に死ぬと思うけど?」
バックン……
バックン……
心臓が……
胸の鼓動が高まる……
確かに、ここでヤツに従っておけば死ぬことは無いだろう。
時間が経てば、ショーンやクラールが助けに来てくれるかもしれない……
だけど……
昨日に比べ格段に上がったステータス。
この状況でどこまで戦えるか、試してみたい。
戦いたいという欲求を抑えられない……
「それは困るな……
殺さないように戦ってくれるのが一番ありがたいんだけど」
ソーミルのおでこに血管が浮き出る。
「ふざけた野郎だな、自分の立場がわかってんのか?
俺が本気じゃねぇこともわかってんだろ?」
ダッ!
ソーミルが再び踏み込む。
速い!
手加減は無しってわけか。
バッ!
ガスガスッ!
ドゴッ!
短剣での突きをなんとかかわし、蹴りもガードする。
しかし、全てをガードすることはできない。
何発か直撃をもらいながらも、回復してくらいつく。
ガスッ!
ドゴッ!
ガスッ!
ガスッ!
「ほらほらほら!」
ブスッ!
「ぐぁっ!」
左肩に短剣がめり込む。
直撃をもらってしまった。
「おいおい、さっきまでの減らず口はどうした?」
「ぐ……フフ……!」
ソーミルはグリグリと短剣をねじ込む。
肩から痛みがはしる。
しかし……
苦しい痛みではない……
この痛みが、僕の感覚を研ぎ澄ませていく……




