131日目(異世界)後編
「……………………」
フヨウは黙ったままだ。
「おい、これ美味いぞ。
あのデカイ魔物の肉が使われてんのか?」
ショーンが言う。
こういうときのショーンは助かる。
「た、確かに美味しいね!」
僕も会話にまざろうとする。
「そうだ。
おそらくエルダーライノの肉だろう。
一体からかなりの肉がとれるからな」
「マジかよ。
見た感じ肉硬そうだったぞ」
「おぉ!
やはりここにおられたか!」
デカイ声とともに、デカイ男が店内に入ってくる。
ギュエンさんだ。
「今日は、お疲れ様でしたな!
ご一緒してもよろしいかな?」
ギュエンさんてこんな人だったのか?
グイグイくるな……
「えぇ、もちろん構いませんよ」
イケメンによる爽やかな許可がおりる。
ドガッ!
ギュエンさんは座ってもでかい。
椅子とテーブルが小さく見える。
「あぁ、肉類のメニュー全て頼む」
なんと大雑把な注文の仕方だろう。
「いや、皆様、本日は素晴らしい動きでしたな!」
ギュエンさんは上機嫌に話をする。
「いや、ショーンやクラールの普段の動きはあんなものではない」
「ほほぉ……では遠慮していたと?」
この話の流れってあんまり良くないよな……
「【呪術】で耐性を強化しながら戦っていたんだそうだ」
「なんと!
そのような状態で……」
「ギュエンさんだってまだまだ本気じゃないだろ?」
ショーンが言う。
「ほほぉ……お見通しですか」
え?
そうなの?
「しかし、そうなると目標の魔物は相当な強さなのではないでしょうか?」
クラールがギュエンさんに質問をする。
目標の魔物というのは、フヨウの父親とお兄さんを殺した魔物だろう。
これだけの戦力を揃えて挑むわけだ。
たしかに強そうだ。
「……そうですな」
ギュエンさんの声のトーンが下がる。
「……………………」
ギュエンさんの顔が引き締まり、僕たちは無言になる。
フヨウも表情が険しくなる。
「あの日……タイラ様、ヨウガ様、ラヨウ様、そして私と倅が魔物の討伐に向かいました」
ヨウガ様、ラヨウ様っていうのはフヨウの父と兄だろう。
それから、ギュエンさんには息子がいるのか。
「新緑の覇者……マヤシィナの森を支配するドラゴンです。
そのドラゴンが、マヤシィナ付近にやってきました。
我々人間が、戦線で限界領域、すなわち人間が住める領域を増やすように、魔物も自分たちの領域を増やそうとしてきたのかもしれません。
しかし、ヤツを倒せば、この辺境マヤシィナの領土が広がります」
「……………………」
僕たちは、黙ってギュエンさんの話を聞く。
このあたりの魔物は強い。
その支配者なら、相当だろう。
「凄まじい戦いでした。
戦いの末、討伐することはできなかったものの、新緑の覇者をもとの領地まで追い返すことができました。
しかし、兵の大半が喰われ、フヨウ様の父であるヨウガ様、兄であるラヨウ様が亡くなり、そして私の倅も……」
「……………………」
ギュエンさんの息子さんもそのときに……
「お待たせしました」
ウェイターが大量の肉を持ってやってくる。
「おぉ、それではいただきましょう!」
ギュエンさんがパッと明るくなる。
さっきまでの雰囲気で食事をするのは確かに気まずいけど……
「それで、ギュエン殿。
なにか用件があるのでは?
まさか、昔話をするためだけにここへ来たのではあるまい?」
「はっはっは!
フヨウ様にはかないませんな!」
ギュエンさんはガツガツと肉を食べる手を止める。
「フヨウ様のご友人として、頼みがございます」
どうやら、用があるのはフヨウではなく僕たちのようだ。
「なんでしょう……?」
「実は今、このマヤシィナに違法に補充された魔石が入ってきているのです」
マジか。
それって僕が監禁されて、補充させられてたみたいなヤツだよな……
ギュエンさんが話を続ける。
「こちらとしては、それらしい動きは察知しているのですが、なかなかしっぽがつかめない状態でしてな。
できれば、討伐前にそういったものは解決しておきたい」
なるほど、大規模な討伐の前に国内の盗賊なんかは処理しておきたいのだろう。
「そこで、だ。
もし何か魔石についての情報を得ましたら、こちらに教えていただきたい。
なんなら討伐していただいても結構です。
昼間の狩りでもそうだが、フヨウ様のご友人とあれば、確かな実力なのだろう」
「なぜ我々に?」
確かに、これはマヤシィナの領主や、ギルドが請け負うべきことだ。
「失礼ですが、あなた方だけに頼んでいるわけではございません。
ギルドも騎士団も動いているのです。
ですから、なにか小さな情報でも得られれば、お伝えいただきたい」
「なるほど、そういうことでしたら、こちらに断る理由はありません」
「それから……」
ギュエンさんはやや小声になる。
「少し妙なこともありまして……」
「……………………」
ゴト……
ギュエンさんが青紫色の魔石を置く。
この色の魔石は知らないな。
なんの魔法だろう。
「失礼、これで周りに音は聞こえません」
へぇ……
便利な魔法だな。
だけど、今の僕は【コール】が使えるから、能力的にはかぶってしまうか。
「その賊なのですが、新緑の覇者に使役されている可能性があるのです」
「魔物が人を使役する……?」
クラールが険しい表情をしている。
「えぇ、あくまで噂です。
賊に一度捕まり、脱出できたものの話では、そういった会話が少しあったという情報ですな。
ただし、捕まった際には様々な状態異常を受けていたようです。
意識が朦朧としていた中、会話を聞いただけなので信憑性はやや低いのですが……」
「なるほど……」
◇
『それで、どうするんだ?』
『どうするもなにも、情報があったら教えるっていうだけだ。
僕たちは特に動かなくても問題はないだろう』
『何もしないの?
もしかしたら、僕なら捕まえられるかもしれないんだけど……』
僕たちは食事のあと部屋に戻ってきた。
今は【コール】を使って会話中だ。
『本当か?』
『ケン、どういうことだい?』
『この前、アンティさんと賊を捕まえたんだけど、同じ方法なら可能性はあるよ』
僕は、この前囮になり、アンティさんと賊を捕まえた経緯を説明する。
『まず、狩りの後にギルドに麻痺薬や睡眠薬なんかを納品するんだ。
そのときギルドカードのチェックがはいるんだけど、今はMP切れだってことを言っておく。
最大MPは多いけど、今はMP切れで何もできないって話をすれば、賊にとってはカモに見えるらしいんだ。
その後適当に食事をして、フラフラ酔ったフリしながら帰れば、賊に狙われるかもしれない』
『なるほどな』
『そうか……ケンはステータス上は前衛としての能力は低く見えるからね』
『それで、どうするクラール?』
『……………………』
沈黙がある。
クラールは考えているのだろうか。
『実は、マヤシィナの動きが怪しいっていうのは、この魔石の件なんだ。
ケンとアンティさんのおかげで、回復職の人間を拉致していた賊たちが大量に捕まっただろう?
それで、調べていったら魔石がマヤシィナに流れてたって話だ』
『じゃあ、ここの領主は関係ないってことだな。
ギュエンさんだって困ってたし。
ケンの囮作戦を実行しても良いんじゃねぇか?』
『確かにそう……だけど……』
クラールは渋っているな。
『その賊とマヤシィナが完全に無関係とは言い切れないな……
それに魔物が人を使役するなんて話、聞いたことがないよ』
『だったら尚更その賊をとっ捕まえて吐かせればいいだろうが』
『それもそうか……』
『よし、ケン。
明日囮作戦を実行しよう!』
『了解!』
狭間圏
【錬金術師:Lv39】11
HP:328/355【錬金術師】:-27
MP:354/967【錬金術師】:+118
SP:144/472(↑+1)【錬金術師】:-27
力:48【錬金術師】:-19
耐久:107【錬金術師】:-19
俊敏:65【錬金術師】:-19
技:40【錬金術師】:-19
器用:100【錬金術師】:+98
魔力:86(↑+1)
神聖:143(↑+2)
魔力操作:154【錬金術師】:+49
【回復魔法】Lv98+1
【ハイヒール】Lv54+1
【エリアヒール】Lv36+2
【グレイトヒール】Lv7+1
【コール】Lv25+2




