129日目(異世界)前編
今日の夕方にはマヤシィナに出発をする。
その前に、僕は空の魔石をいくつか購入しておく。
「狭間様ですね?」
魔石販売店の店員シスターに言われる。
魔石販売店は、宝石店のようであまり落ち着かないんだよな。
「はい」
「それでしたら、イヴォン司祭をお呼びします」
ぇ?
そうなの?
僕はシスターの指示に従って、奥の部屋に入る。
魔石販売店にはいくつか仕切りがあり、個別に接客をしている。
部屋というほどではない、接客用のブースのようなものだ。
高級な商品を扱うわけだから、こういう仕様になる。
しかし、僕が通されたのは、そのブースの奥にある接客用の部屋だ。
高級な魔石を買う人が通されるところだろう。
「少々お待ち下さい」
魔石返せって言われるかもな……
すでにイヴォンさんから魔石はいくつか借りている。
日本で魔法の補充ができるということを打ち明けたら、魔石を貸してくれたのだ。
しかし、サワナ様からポーション作成を支持されていたため、最近日本での魔石の補充はほとんどしていない。
ポーション作成の必要も無くなったので、また魔石の補充を再開するのも良いかもしれない。
お金もほしいし……
「やぁ狭間さん、お待たせしました」
少しの間待っていると、イヴォンさんが部屋に入ってくる。
「おはようございます、イヴォンさん」
僕が挨拶をすると、イヴォンさんはニコリと微笑む。
手にはなにやら、大きな革製の鞄を持っている。
ゴトッ!
イヴォンさんが、鞄をテーブルの上に置く。
旅行のときに持っていくような大きさだ。
ガチャッ!
かばんを開けるといくつもの魔石が入っている。
しかも、一つ一つが結構大きい。
「これは……?」
「今回の件は、クラールから聞いていますね?」
「マヤシィナの件……ですよね?」
「はい、ちなみにこの部屋での話は聞かれることはありません。
安心してください」
「わかりました」
「まぁただの偵察ですから、それほど危険はないと思います。
ですが、万一がありますからね……
今回はこれらの魔石をお貸ししますよ。
ちなみに、今貸し出している魔石もそのまま持っていてください」
「おぉ……ありがとうございます」
僕は魔石を【魔力庫】と【ストレージ】に収納していく。
「【回復魔法】と【空間魔法】がメインですね。
いざというときは、回復と逃げに徹してください」
「わかりました」
偵察ってことだからな。
防御型の魔石のほうが都合がいいんだろう。
◇
僕とショーン、クラール、フヨウはポータルを使いマヤシィナへやってきた。
フヨウが辺境の地と言っていた通り、かなりの距離があった。
いくつもの街のポータルを経由してやってきたわけだ。
ちなみに、ポータル使用許可は無制限にでているわけではない。
回数に制限があるもので、とりあえず往復分だけを確保した。
特に僕は他の三人よりもギルド貢献度が低いため、必要な分をギルドから購入した。
ちなみに購入費はイヴォンさん持ちだ。
「んで、俺達はフヨウに付いていけばいいのか?」
「そうだな。
私から領主のタイラ様に紹介したほうがスムーズだろう」
マヤシィナは高温多湿の場所で、街の周りは大きな樹木がいくつもある。
熱帯雨林まではいかないと思うが、日本より温度も湿度も高そうだ。
その割に、街の建物に木はあまり使われておらず、石造りの建物がほとんどだ。
「領主様に会うとか、ちょっと緊張するな……」
この異世界に来て、あまり偉い人には会っていない。
一番偉いのは、サワナ様だろうか。
賢者様とはいっても、偉い人って感じではないからなぁ……
「お前、緊張とかするの?」
ショーンが聞いてくる。
失礼な……
「僕だって偉い人と会うときは緊張くらいするよ。
偉い人となんて、話をした記憶もないし……」
「ケンが緊張する様子はあまり想像できないな……」
クラールまで……
「ケン、大丈夫だ。
タイラ様は武闘派の領主様だ。
作法などはたいして気にしないだろう」
フヨウがフォローしてくれる。
「だろうな。
それはフヨウを見てればよく分かるぜ」
ショーンがまたフヨウに余計なことを言う。
「フ……
ショーン……君は気をつけたほうがいい。
くれぐれもサワナ様からもらった変な装備で謁見するなよ?」
「おいおい……嫌なことを思い出させるなよ。
あんなのは二度と装備しねぇよ……」
「今のはショーンが悪いね……」
しばらく歩くと、大きな橋が見える。
その奥に大きな建物。
城だ。
うへぇ……
辺境とか控えめに言ってたけど、城でかいよ……
というか、これは堀なのか?
城の敷地へと大きな橋がかかっているが、その橋はどうやら城の周りの堀を渡るためのもののようだ。
僕はひたすらキョロキョロとしながら、フヨウについていく。
ショーンは相変わらずで、頭の後ろで腕を組みながら歩いている。
クラールはやっぱりどこにいても目立つな。
王子様が自分の城へ帰ってきたようだ。
◇
「タイラ様!
フヨウ、只今戻りました!」
フヨウは大きな声をだすと跪く。
僕たちもフヨウに続き跪く。
えっと、こうでいいのかな……?
「よく来てくれたね、フヨウ」
領主様は、思ったより若い。
おそらく30代だろう。
くっきりとした顔立ちで、眼光が鋭い。
青紫色のツヤツヤした美しい髪が腰くらいまである。
好みが分かれるイケメンといえばいいだろうか。
歌舞伎俳優にいそうな顔立ちだ。
武闘派という話を聞いていたので、もっとゴツい人を想像していたけど、どちらかといえば、細身だろう。
「それで、後ろの者たちは?」
「はっ!
修行を共にした仲間です!
今回の討伐に同行したいとのことです。
よろしいでしょうか?」
タイラ様は僕たち三人をゆっくりと眺める。
「ほぅ……
なかなか強そうだね……
そういうことなら歓迎だ。
それ相応の報酬もだそう」
「ありがとうございます」
クラールが応える。
「とりあえず、今日はこちらで食事をして休んでくれ」




