39日目(異世界)
本日2回目の投稿です。
1話目まだの方はそちらからどうぞ。
僕は朝から道具屋へ来ている。
日本で【回復魔法】を続けたが、身体が動かせるようにはなりそうにない。
そのことをカルディさんに報告した。
「なるほど、やはりそうでしたが……」
「やっぱり神聖が低すぎるんでしょうか」
「そうだと思います。
同じ【マイナーヒール】でも、神聖によって回復量と早さがまるで違いますからねぇ」
「では、【マイナーヒール】でも神聖が上がれば動く可能性はありますか?」
「う〜ん……どうでしょう……
【回復魔法】には、下位から順に【マイナーヒール】【ヒール】【ハイヒール】があります。
さらにその上にはいくつかの【回復魔法】があるらしいのです。
神聖を上げつつ、上位の【回復魔法】を取得して試していくしかないと思いますよ」
らしい、ということはカルディさんでも知らない【回復魔法】があるということだろう。
「【回復魔法】だけでも結構あるんですね。
向こうの世界の道具ですが、お待たせしてしまって申し訳ないです」
「いえいえ、大丈夫です。
むしろ、一週間ちょっとで【回復魔法】を習得したんですから。
今日もギルドで【回復魔法】を使うと良いでしょう」
「ぁ〜……そのことなんですが……」
僕は昨日地雷扱いをされて、MPを消費しきれなかったことを話した。
「なるほど、そうなるでしょうねぇ」
「何かいい方法はありませんか?」
「無視です」
「ぇ?」
「前後のプレッシャーは無視します。
本来ステータスは、痛みや危険と共に上がっていくものです。
場合によっては、命の危険もあります。
それを治療所での回復だけで上げるわけです。
ですから、その程度のプレッシャーなど無視してください」
カルディさんは、いつもと違ってやや厳しめの口調だ。
確かに、街にいながら安全にステータスを上げられて、お金ももらえる。
こんなウマい話は無い。
特に僕の場合は、毎日MPが全快するわけだから贅沢な話だ。
「その通りですね。
わかりました。
プレッシャーは無視して回復し続けます!」
「では、今日からはこちらを使ってホーンラビットを倒してください」
「短剣ですか?」
カルディさんから短剣を渡される。
刃渡りが10cmくらいの短剣だ。
短刀といったほうがいいかもしれない。
「えぇ、【回復魔法】を習得しましたので、現状魔力を上げる必要性が減りました。
ですから、ホーンラビットは魔法で倒す必要はありません。
短剣を使って倒せば、俊敏と力が上がります。
今度は【盗賊】のジョブを目指しましょう」
「なるほど、わかりました」
しかし、【回復魔法】取得には魔力が必要なのに、【回復魔法】自体は神聖依存なんだな。
「基本的にはもう魔力は必要ないんですか?」
「いいえ、【回復魔法】の回復量は神聖に依存ですが、【回復魔法】の発動時間は魔力に依存します。
つまり、神聖が上がれば回復量が上がり、魔力が上がれば一回の【マイナーヒール】が素早く撃てます」
なるほど、完全な神聖依存ではないのか。
「ですから、今後も必要ではあるんですが、現状俊敏と力のほうが重要です。
【盗賊】のジョブの習得もそうなんですが、もう少し力が上がれば、ホーンラビットの角の切断が自分でできるようになり、解体加工の作業効率が上がります」
「なるほど、お金を稼ぐ手段が増えれば、ホーンラビットの数を増やせるし後々効率が上がっていくわけですね」
カルディさんがうなずく。
「武器は短剣で最低のものになります。
ステータス上げが目的ですので、何度も攻撃してください」
「わかりました」
本日のホーンラビットも鬼の形相でこちらへ突進してくる。
もうかわすことは慣れてきた。
短剣で攻撃するタイミングもパンチと同じだ。
むしろ、素手よりもリーチがあるから攻撃しやすい。
さらに、パンチと同じように身体の回転を意識しながら攻撃すると、よりダメージを与えられる。
午前中にはホーンラビットを倒してしまう。
今日は昼から治療所に行ってみよう。
「おぅ、カルディんのとこの兄ちゃんか」
「はい、昨日はありがとうございました。
今日もよろしくお願いします」
ムキムキのスキンヘッド受付だ。
名前はドグバさんというらしい。
「まぁ気にすんなよ。
それにお前、カルディが認めてるってことは将来有望なんだろ?」
「ぇ?
そうなんですか?」
さすがはカルディさんだ。
ギルドにも認められてるっぽいな。
「カルディのやつ、道具屋のくせに何でも知ってるからな。
最低ステータスの普通のやつを連れてくるとは思えねぇ」
「はぁ……」
最低ステータスかぁ……
まぁ確かにMP回復だけは有利ではあるけど。
「昼間は人がすくねぇから、お前のクソみてぇな【回復魔法】でも昨日みたいなことはおきねぇと思うぜ」
「はい!頑張ります!」
気合を入れて返事をする。
今日はプレッシャーを無視だ!
治療所に入ると、回復側には3人だけ。
冒険者もまばらにしかいない。
治療所の混雑は、毎日夕方から夜がピークらしい。
それで、昼間は暇かというとそうでもない。
人数は少ないが、割と重症の人が来る。
昼間に街に引き返してくるのは、怪我で戻らざるをえないからだ。
「くそっ!
やっちまったぜ」
ベテランの冒険者だろうか。
歳は40代だろう。
「これで頼む。
300セペタだ。
相場よりちょっと安いんだけど、ドグバさんがあんたなら良いってよ」
「はい、大丈夫です。
しばらく時間がかかるので横になっててください」
今は空いているので、横になるスペースが十分にある。
彼は、大きく腫れ曲がった右腕を出す。
「【マイナーヒール】」
僕は、【マイナーヒール】を撃ち続ける。
◇
4時間位たっただろうか。
そろそろ治療所が混雑してくる。
僕のMPもほとんど無くなってきて、冒険者の傷もほぼ完治できたようだ。
「おぅ、安く済んで助かったわ。
また頼むぜ!」
「いえ、こちらこそお待たせしてしまって」
「まぁお互い頑張ろうや!」
肩をバンバンと叩かれる。
力が強くてやや痛いが、全く悪い気はしない。
なんだろう……
この世界に来て、初めて人の役にたったきがする。
残りのMPもほとんどないので、今日は混雑する前に帰ろう。
おや?
あれは?
帰り際に、昨日の少年たちのパーティとすれ違う。
「マジでクソ地雷は迷惑だよなぁ〜」
「おい、やめとけよ」
昨日の少年は僕に気がついたようで、聞こえるようにわざと大きな声をだしているようだ。
「だいたい、あの神聖と魔力はそこらへんのガキ以下だぜ?
なんで【ヒール】も使えねぇんだよ」
僕はカルディさんに言われたように、無視することにした。
「明日も来ます!
ありがとうございました!」
ギルドの人達へ挨拶をして帰る。
「チッ! クソ地雷が!!」
僕の挨拶にイライラしたようだ。
魔力と神聖が上がるまで、しばらくは仕方ないな。
今日は、ホーンラビットの短剣での討伐、【回復魔法】の使用ができた。
効率よくステータスを上げられたと思う。
僕はいつものように、宿屋で【水魔法】でMPを消費したあと【魔力操作】をしながらステータス確認をする。
狭間圏
【ーーーーー】
HP:32/32
MP:0/215
SP:2/2
力:11(↑+1)
耐久:5
俊敏:13(↑+1)
器用:7(↑+1)
魔力:13
神聖:7(↑+1)
【魔力操作:Lv9】【炎魔法:Lv4】【風魔法:Lv21 エアカッター:Lv7】【水魔法:Lv1】【回復魔法:Lv2(↑+1) マイナーヒール:Lv3(↑+1)】【体術:Lv1】【短剣:Lv0(New)】
なかなかの上昇だ。
【短剣】スキルも習得できたようだ。
明日も病室で【回復魔法】を鍛えよう。