124日目(異世界)前編
「なんだ? 魔石ならやらんぞ」
「いえ、魔石はサワナ様がお受け取りください」
応接室には、サワナ様、僕、ショーン、フヨウ、クラールがいる。
昨日の狩りについて、クラールがサワナ様に聞きたいことがあるようだ。
僕もサワナ様には、いろいろと聞きたいことがある。
「昨日僕が習得した【天使の咆哮】についてなんですが、一度発動した後、全く発動できませんでした。
【魔弓士】のスキルについて何かご存知でしょうか?」
「【魔弓士】については、よく知らんな。
ただ、スキルについては想像がつく。
今はどうだ? 発動できるだろう?」
「はい、そうですね。
感覚的なものになりますが、今でしたら発動が可能だと思います」
「奥義だな」
「奥義……ですか」
「そうだ。前衛でも魔法職でも、強力なスキルがある。
昨日私が使った【インペリアルフレイム】もそれだな。
一度使うと、MPやSPがあっても、しばらくは発動はできん」
「なるほど」
「SP消費のスキルなら技のステータス、MP消費の魔法なら魔力のステータス、スキルレベルが高ければ高いほど、再発動までの時間は短くなる。
それは知っているな?」
「はい」
「私の場合、今日は【インペリアルフレイム】は使えん。
明日になれば使えるがな。
奥義の再発動までの時間は、その他のスキルとは桁違いだ」
「なるほど、では今日の狩りはお休みですか?」
そうだよな。
サワナ様が【インペリアルフレイム】を使えないから、昨日のような狩りはできない。
以前第四戦線で、狩りをしたときも魔法職の人たちのMPの関係上、2、3日は狩りを空けると言っていたし。
「私を誰だと思っている?
奥義が一つなわけが無いだろう」
マジか!?
昨日の【インペリアルフレイム】のような魔法をいくつも使えるってことか。
「ただし、昨日殲滅した辺りはたいした数の敵はいないだろうな。
あれだけの数を殲滅すると、再び湧くまである程度の時間が必要だ。
今日はもっと奥に進むぞ。
昨日より敵が湧くから、クラール以外にも奥義を習得しないと誰か死ぬかもな」
サワナ様がニヤリと笑う。
昨日よりも多いってマジか……
「成長しないと死ぬってことか……」
「望むところだ……」
ショーンとフヨウがつぶやく。
「あの、サワナ様。
サワナ様は賢者様ということですが、【回復魔法】は使えるんでしょうか?」
僕は気になっていることを聞いてみることにした。
「まぁな。
賢者様呼ばわりされるからには、一通りの魔法は使えるが」
「では、部位欠損を修復できるレベルの【回復魔法】についてご存知でしょうか?」
「ふむ……
そういえば、お前は別世界で身体が動かないという話だったな。
その回復か?」
「はい、昨日【グレイトヒール】を習得したのですが、それでも身体を動かすことはできませんでした」
「ほほぉ……【グレイトヒール】か。
それはかなり奥義に近いぞ。
一回使えばしばらくは使えんはずだ。
ちなみにだが、私が使える【回復魔法】は【グレイトヒール】【エリアグレイトヒール】さらに上位は【慈愛の息吹】だな」
「【慈愛の息吹】ですか!」
おぉ……
すごそうな【回復魔法】だ。
「そうだ。
【慈愛の息吹】は複数の回復と同時に、防御系の補助を与えることができる。
だが、部位欠損は無理だな」
「そうですか……」
マジかよ。
賢者様でも無理なのか。
「そうだな……
ちなみに、お前自身が習得するのはかなり厳しいぞ……」
「どういうことですか!?」
待ってくれ。
それは困る。
【昇仙拳】が習得できなかったのは仕方ない。
だけど、高位の【回復魔法】については絶対に習得したい。
サワナ様は僕の目を凝視する。
サワナ様の不思議な目が発動している。
「知りたいか……?」
「はい! 是非!」
「だが本質的なことだからな。
知ったところで解決はできんぞ?」
「それでも、お願いします!」
サワナ様が不敵に笑う。
「私には事情があって、常に【ポーション】などの回復アイテムが必要でな。
狭間、お前今日の狩りで、私が魔法を使う際には【薬師】にしろ。
それから狩り以外の時間は全て【薬師】のスキルを使え。
【エクスポーション】を10個作れたら、教えてやろう」
「わかりました!」
少しでも情報がほしい。
「ただでは教えてくれないんだな……」
ショーンがぼそりとつぶやく。
そして、サワナ様はそれを聞き逃さない。
「おい、お前、今日はこれを装備して戦え」
サワナ様はギロリとショーンを睨みつけると、何やら【魔力庫】から装備を取り出す。
胸元がざっくり空いたシャツ、それからブーメランパンツだ。
黒と紫という、どぎつい色の装備で、背中には黒い羽が大量についている。
……ダサい。
ダサい上に、半裸だ。
「な! なんだよコレ!?
こんなの装備して戦えるわけないだろ!?」
うん、当然のリアクションだ。
「ダメだ。許さん。
それから、その装備は見かけによらず、なかなかの耐久力だ。
さらにステータスも上がるぞ」
「マジかよ……
それにしてもクソだせぇな……」
「それを貸してやろう。
そして洗わずに返せ……」
「なんでだよ。
狩りの後だとかなり汚れるぜ?
サワナ様に失礼じゃないのか?」
サワナ様は頬を赤らめ、うっとりした表情をする。
「お前が……
お前が知る必要はない……
黙って従え。
いいか、絶対に洗うんじゃないぞ……」
「???
あぁ、わかったよ」
「「「……………………」」」




