123日目(異世界)前編
「それでイヴォン、こいつらを鍛えるって?」
「えぇ、お願いできませんか?」
今応接室に、僕、ショーン、クラール、フヨウ、イヴォンさん、それから賢者様が来ている。
賢者様は、予想に反して若い女性だった。
水色の美しい長い髪、目鼻立ちがはっきりとしている。
猫目、というのだろうか。
大きくて少しだけ目尻がつり上がっており、特徴的でかなりの美人だ。
20代後半、アンティさんと同じくらいの年齢に見える……
雰囲気からすると、イヴォンさんと知り合いのようだ。
近々賢者様が戦線に来る、とイヴォンさんから聞いていたが、まさか直接教会に来るとは……
「……………………」
賢者様は、顎に手を当て、僕たち一人ひとりをゆっくりと見る。
これほどの美人と目を合わせる機会はあまりないので、やや緊張してしまう。
「ふむ、悪くない……
どれ、お前たち、自己紹介でもしてみろ」
「お久しぶりです、サワナ様。
イヴォンの息子のクラールです」
「ほぉ、イヴォンのガキか。
この前見た時は、女かと思っていたが息子だったか。
見た目はもちろんだが、声も悪くないな。
彫刻のような美しさだ」
どうやらクラールも賢者様を知っているようだ。
そして、賢者様はサワナ様というのか。
……だけど、ちょっと様子が変じゃないか?
「ショーンだ。
よろしく頼むぜ、賢者様」
「こっちもなかなかだな。
クラールとは違った良さがある。
ワイルドかつ清涼感があるのがたまらんな……」
サワナ様は、下唇をぺろりと舐める。
なんだかちょっとエロいのは気のせいだろうか……
「マヤシィナ出身のフヨウだ。
訳あって、できるだけ早く強くならなければならない……」
「ほぉほぉ……
女か……
この女も悪くないぞ……
少し冷たい感じがまたたまらんな……」
サワナ様の呼吸が荒い……
「ケンです。
よろしくお願いします!」
「ほほぉ、素直で従順そうなヤツだ。
これまた、悪くない……」
「さて、どうやって調教してやろうか……」
ぇ……?
なんか、今小声で変なこと言ってなかったか?
「私が言うのもなんですが、それぞれ才能はあるでしょう?」
イヴォンさんがサワナ様に言う。
「才能……?
あぁ、そっちか……」
そっち?
やっぱこの賢者様ちょっと変じゃないか?
今までのは何を確認していたのだろうか……
「どれ……」
サワナ様は再び僕たち一人ひとりをゆっくりと見る。
「ほぉ……
確かに才気に溢れているな。
お前、ダーハルトの息子か?」
「親父を知ってるのか?」
サワナ様はショーンのお父さんも知っているようだ。
「まぁな。
昔世話をしてやったことがある。
しかし、あんなゴツいやつの息子が、こんな爽やか野郎だとはな……」
ショーンのお父さんを世話するって、サワナ様はいったい何歳なんだろうか……
しかも見ただけで、知人の息子って普通はわからないよな。
なにかのスキルだろうか。
「そしてこっちは、力特化か……
しかし、まだまだ発展途上ではあるな……」
サワナ様はフヨウを見て言う。
見ただけでステータスがわかってしまうっぽい。
やっぱり鑑定系のスキル持ちだろう。
「おいイヴォン……
お前の息子、濁ってるぞ……
よくわからんな。
お前何かしたな?」
「さすがはサワナ様。
ちょっと事情がありまして……」
「まぁいい……
お前は昔から何枚も手札を隠し持っているしな。
今更一枚手札が増えたところで、なんとも思わん」
2人は僕たちには理解できない会話をしている。
クラールのステータスは、サワナ様には見えないってことだけは理解できる。
サワナ様は僕の目を凝視してくる。
大きな目だ……
「……おい。
なんだコイツは……?」
サワナ様は、そう言うと、鋭く僕を睨みつける。
「おい、イヴォン。
コイツはなんだと聞いている」
「はい?
うちのフリーの職員です。
魔石の補充、生成、それから貴族の方々への耐性付与をしていただいてます」
サワナ様は眉間にシワを寄せる。
ガッ!
両手で僕の頭を掴み、顔を近づける。
ち、近い……
大きな瞳が目の前にある。
不思議な目だ。
瞳の中にある尖った棒状のもの数本が、時計の針のようにぐるぐると回っている。
ドサッ!
サワナ様は僕の頭から手を離し、ソファーに大きく座り込む。
「ダメだ。
わからん……
こんなヤツは初めて見た」
「ほほぉ、サワナ様でも初めてですか……」
「…………?」
まさか僕が異世界人だから、鑑定スキルが使えないとか?
「まずステータスがいびつだ。
MPだけが特化してあるようだな」
「そうなんです。
教会としてはとても助かっていますよ」
ステータスは見られたってことだよな。
じゃぁ何がおかしいんだろうか。
「あとは、なんだかよくわからんジョブがあるな。
お前、珍しいジョブを持っているだろう?」
「【魔闘家】でしょうか?」
「あぁ、多分それだな」
「賢者様は、ステータスとジョブが見ただけでわかるんですか?」
「まぁな。
ただし、はっきりとはわからん。
ジョブは色みたいなもんで判断してる。
だから、【魔闘家】とか初めて見るジョブに関してはよくわからんな」
なるほど、そういうことか。
「それはいい。
お前、まだおかしなジョブがあるだろう?」
「えっと……」
ヤバい。
【狂戦士】のことだろう。
「ひどく汚ねぇな……
どす黒く濁ってるぞ。
なんだこれは……」
「一度だけ出たジョブがあるのですが、
僕にもよくわかりません。
一度出て以来、もう出てこないのです」
僕は正直に話す。
実際によくわかっていないのだ。
「ここまではいい……
珍しいジョブを持ってるってだけだ。
だけど、こいつ魂が2つあるぞ」
ぁ〜……
それは、日本と異世界でってことだよな。
「それについては、私からお話ししましょう」
イヴォンさんが言う。
異世界と日本については、説明済みだし、イヴォンさんに説明をしてもらったほうがいいだろう。
◇
「なるほどな。
こいつのMPが異常に高いのはそういうことか。
がめついイヴォンには、うってつけだな」
「ほほほ……」
イヴォンさんはいつものように笑う。
「いいだろう。
面白そうなガキばかりだな。
きっちり鍛えてやろう……」
ゾワ……
何故だろう。
背中に鳥肌が立つ。
僕の直感が賢者様はヤバい人だと感じているのだろうか。




