122日目(異世界)後編
「おい、痛い目にあいたくなければ、大人しくしていろ」
逃げ場が無いように4人が僕の進路と退路を塞ぐ。
残りの3人は、僕が逃げたとき用に配置されているのだろう。
すげぇな。
アンティさんの言った通りだ。
一発でひっかかった。
異世界ってこんなに治安が悪かったのか……
それともこのヴァイツって街の治安が悪いのか。
このまま僕が大人しくして、アジトまで連れていってもらえば、アジトごと潰せるな。
ここは大人しくしていたほうが良さそうだ。
「がはっ!」
ドサッ!
賊の一人が倒れる。
ぇ?
アジト突き止めるんじゃないの?
バキッ!
ドサッ!
「ぐっ!」
ドサッ!
ドゴッ!
ドサッ!
僕を囲んでいた四人が、倒れる。
アンティさんだな。
「ケンちゃん、ナイスゥ!」
「ぁ、いや、まだ3人様子見てるヤツが」
僕は【パーセプション】で確認した情報をアンティさんに知らせる。
「それならもう倒したぜ」
「ぇ?」
マジかよ。
速すぎるだろ。
◇
とりあえず7人全てを拘束している。
これからアンティさんが尋問をするみたいだ。
「あの、殺すのはやめませんか?」
「ぁ、そっか。
ケンちゃん、そういうのダメなんだっけ?」
「はい……」
「ぇ〜……
とりあえず最低一人は殺さないと、まともな情報ゲットできないじゃん」
何人かは、アンティさんを見て、目が泳いでいる。
「なぁ……話すぞ……」
賊の一人が口を開く。
まだ何も尋問していないのだが……どういうこと?
「あんた、賊殺しのアンティだろ?
話せば命は助けてくれるのか?」
「いや〜微妙。
だってそれ、ホントかどうかわかんねぇじゃん。
いつもなら何人かはソッコー殺すんだけど……」
アンティさんが僕の方を見る。
「アンティさん、話すって言ってますし、とりあえず話を聞いてみるのはどうです?」
「ん〜……
とりあえず一人殺すのはどうよ?」
「いや、だから話を聞いてから考えましょうよ」
「ん〜……
とりあえず一人殺してから考えるのはどうよ?」
「ちょ……
ナイフ、ナイフ一旦離しましょうか」
アンティさんが今にも賊にナイフを突き刺しそうだったので、ナイフを遠ざける。
「今、2人【聖職者】を監禁してるんだ。
俺がその場所を教えれば、情報が本当だってわかるだろ?」
「それってお前ら全員知ってるんだろ?
てことは、6人は殺せるわけだよな?」
この人は、とりあえず殺すことしか考えていないのだろうか……
◇
「あの建物だな」
「この前もそうでしたが、結構普通の建物なんですね……」
僕はなんとかアンティさんを説得し、賊をギルドへ連れていった。
その後、賊が言っていたアジトに拉致されている【聖職者】さんの救出に来た。
ギルドからは、他の冒険者と一緒に攻略することを勧められたが、アンティさんが当然のように断った。
どうやら、相当な実力者でない限りは、アンティさんの足手まといになってしまうらしい。
僕も、おとりだから一緒に行動しているが、実際戦ったら足手まといになってしまう可能性がある。
なんにせよ、アンティさんが強すぎるのだ。
それから僕はアジト周辺に【パーセプション】を発動させる。
建物の中に3人、地下に2人いるぞ。
おそらく地下にいるのが拉致されている【聖職者】なんだろう。
「いますね。
中に3人……地下に2人です……」
「ぉ、ケンちゃんも分かるの?」
ケンちゃんもってことは、アンティさんも把握しているということか。
しかし、アンティさんは【空間魔法】を使えるようには見えない。
「はい、強さまではわかりませんが、中に3人いますね。
僕は【空間魔法】で分かるんですが、アンティさんは?」
「あぁ、俺?
俺は【索敵】だね。
あらら、罠もあるみたいよ?」
「罠まで分かるんですか?」
「まぁね。
てか、やっぱりぶっ殺しておけばよかったな。
アイツら罠のこととか言わなかったし。
見せしめに殺せば罠のこともしゃべったかも」
いやいや、しゃべってもしゃべらなくてもアンティさんの【索敵】で罠はわかるんじゃないだろうか……
「どうします?
奇襲をかけますか?」
「ぁ〜……」
アンティさんが半笑いで僕を見る。
「ケンちゃんさぁ、戦いたいんでしょ?
表情に出過ぎ」
「ぇ?
す、すみません……」
マズイな。
自覚は無いが、表情について言われるのはこれが初めてではない。
「なんとなくわかったわ。
ケンちゃん、殺すのは嫌とか言ってるけど、根っこの部分でヤバいのかも」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ……
俺と同じってことだな!」
アンティさんは、また馴れ馴れしく肩を組んでくる。
ん〜……
イマイチ納得がいかないんだが……
「んじゃ、ケンちゃんが突入してみれば?」
「いいんですか?」
賊はアンティさんの獲物っぽかったけど、いいなら僕も戦ってみたい。
「そのかわり、逃げたやつは俺が殺しちゃうけどね。
殺すのが嫌なら、逃げられないようにちゃんと倒してな?」
「わかりました!」
「んで、罠は入り口に一箇所、地下の階段手前に一つだな。
わかる?」
僕は【パーセプション】を使ってアンティさんに言われた場所を確認する。
確かに、ボウガンのようなものがある。
扉を開けると発動するタイプのようだ。
「わかります。
矢が飛んでくる罠ですよね?」
「だな。
多分だけど、麻痺とか毒があんじゃね?」
「わかりました。
扉を無視して、壁を破壊します」
「おぉ、勢いでいくのね。
いいじゃんか」
僕は【魔影装】を発動させる。
【魔影脚】!!
バゴォーン!
勢いよく、壁を吹き飛ばす。
「「「!!」」」
3人は僕に気づくとすぐに構える。
動作が速いな。
この前のヤツらよりも明らかに強い……
だが、不意打ちのアドバンテージは大きい。
【魔影脚】!
ゴギッ!
ズガァーン!
一番近くにいた賊の振り向きざまに、右から【魔影脚】が入り、吹っ飛ぶ。
とっさに右腕を入れて防御したようだが、骨を砕いた感触がある。
すぐには動けないはずだ。
ザッ!
さらに正面にいた賊の懐にもぐりこむ。
「クソッ!
コイツ速いぞ!」
賊は武器を構えたまま防御体勢になる。
【魔影連撃】!
ズガガガッ!
「オルァ!」
右隣の賊がナイフで突きを繰り出してくる。
ザッ!
僕はナイフをかわすために、一旦後ろへ引く。
「何者だ……こいつ」
「クソが!」
僕に攻撃してきた賊が一番俊敏が高いだろう。
【魔影連撃】をくらわせた賊のほうは耐久が高いか?
ダメージはあるが、致命傷ではない。
ガタッ!
ガラガラ……
「いってぇな……
骨がイカれてやがる……」
さらに最初に【魔影脚】でふっ飛ばした賊まで起き上がってきた。
不意打ちの利が消えたな。
ここからは3対1で戦う必要がある。
全員が刃渡りの大きいナイフを構える。
賊は、魔物と戦うよりも対人戦を重視しているのだろう。
こいつら全員それなりの俊敏がある。
【魔影装】が無ければ、倒すことはできないレベルだ。
となれば、一番ダメージが大きい、最初に攻撃したやつにターゲットを絞る。
ザッ!
僕は踏み込み、接近戦を仕掛ける。
「させるかよ!」
当然、他の2人がこちらに接近をし、それを許さない。
……が。
ブシュッ!
ブシュッ!
残念。
そっちには【風魔法】の【エアブレード】が仕込んである。
「こいつ!
魔法まで!」
今までの戦闘で攻撃魔法については想定していなかったのだろう。
奴ら全員の反応が遅れている。
キタッ!
さらに新スキル習得だ。
【魔影連脚】!
ゴギッ!
バキッ!
僕は突進を左足で踏ん張り、右足をぐるりと回転させ、賊の左脇腹にかかとがめり込む。
さらに、そのままの回転力を活かし、左足のかかとが賊の肩にめり込む。
【辻風】!
狭い部屋の中に【風魔法】の【辻風】を打ち込む。
賊の一人を切り刻み、家具が辺り一面舞い上がる。
視界が悪くなるが、僕には関係ない。
【魔影装】でもう一人の賊に近づく。
【魔影連撃】!
ドガガガガッ!
最初の数発こそガードされたが、そこからは滅多打ちだ。
ドガガガガッ!
数カ所骨が砕ける感触がある。
これ以上はヤバいな。
殺してしまう。
ザッ!
「ハァハァ……」
最後の1人は【辻風】の発動が終わると、血だらけで、立っているのがやっとのようだ。
「クソッ!」
ザッ!
逃げようとするが、僕が背後から【ウィンドスマッシュ】を使う。
バゴッ!
さらに自分の発動した【ウィンドスマッシュ】のあとを追うように突進し、【魔影脚】をぶちかます。
ズゴォーン!
「ふぅ……」
ダメージこそ受けなかったが、結構てこずったな。
「やるねぇ、ケンちゃん。
この前雑魚に捕まってたとは思えねぇなぁ」
「なんとか逃げられずに倒せましたね。
とりあえず拘束しましょう」
僕とアンティさんは賊を拘束する。
「……ケンちゃん。
わりぃ、約束守れそうもないわ」
アンティさんの様子がおかしい。
声がいつものトーンではない。
「え?
どういうことです?」
「コイツ……ギルドで見たことあんだわ」
「冒険者ってことですか?」
「そうだな。
冒険者が冒険者売ってたってことだ。
ギルドの情報が漏れるわけだよな……」
アンティさんには、いつもの軽い感じの笑みがない。
無表情だ……
「こういうヤツは絶対に許しちゃいかんのよ……
絶対にな……」
「……………………」
ヤバい……
無表情のアンティさん怖すぎる……
「……………………」
「……………………」
アンティさんは過去に何かあったのだろうか……
殺しは嫌だが、とても止められるような雰囲気ではない。
軽々しく、やめるべきだなんて言えない状況だ。
「ケンちゃん、ゴメンな……
嫌なものは見ないほうがいい。
ケンちゃんはさ、下に捕まってる【聖職者】2人をギルドへ連れてってやってくれよ」
「はい……アンティさんは……?」
「それさ、ケンちゃんは聞かないほうがいいよ……
それなりのことはするから……」
「……はい」
僕は罠を解除し、地下から2人の【聖職者】を助け出す。
「ケンちゃん、ありがとな。
こっからは、俺一人でやるわ。
組織的っぽいから、それ潰すまではギルドにも顔は出さないと思う。
ここまでの報酬はケンちゃんが持ってっていいぜ」
「いいんですか!?」
「ハハハッ!
そこは貰うんだな!」
「はい、今お金結構ほしいんで……」
「じゃ、ギルドへの報告頼んだ!」
「はい!
任せてください!」
僕はその場を後にした。
やっぱり殺しちゃうんだろうな……
もっと酷いこともするのだろうか……
狭間圏
【魔闘家:Lv12(↑+8)】
HP:364/348【魔闘家】:+16
MP:7/873(↑+1)【魔闘家】:+16
SP:3/393(↑+2)【魔闘家】:-28
力:42(↑+2)【魔闘家】:+7
耐久:105【魔闘家】:+7
俊敏:60(↑+1)【魔闘家】:+56
技:34(↑+3)【魔闘家】:+36
器用:77【魔闘家】:-28
魔力:78(↑+1)【魔闘家】:+7
神聖:131
魔力操作:132(↑+1)【魔闘家】:+36
【補助魔法】Lv76【ハイアジリティエイド】Lv1(↑+1)
【空間魔法】Lv66(↑+1)【パーセプション】Lv82【遠方認知】Lv8【文書】Lv44(↑+1)
【体術】Lv12(↑+2)
【魔影装】Lv22【魔影脚】Lv2(↑+1)【魔影連脚】Lv1(New↑+1)【魔影連撃】Lv2(↑+1)
【睡眠耐性】Lv12(↑+1)
【etc.90】




