120日目(異世界)前編
目覚めると、拉致された小部屋にいる。
「キミ、凄いね……」
同じく拉致された【聖職者】さんだ。
「凄い……ですか?」
「こんな状況で熟睡してたからさ。
さっきあいつらが魔石を持ってきたよ。
ほら、見てごらん」
僕は彼が指差した方向をみる。
箱には空の魔石が大量に入っている。
あの魔石に【ヒール】と【ハイヒール】を補充しろってことか。
「あいつらがいくら怒鳴り散らしても、全然起きないんだね」
「そうだったんですね」
「心配しなくても、彼らは今日はもう来ないよ。
見張りはいるかもしれないけどね。
明日また魔石の回収に来るよ」
「なるほど……」
よし!
MPは全快だ。
とりあえず【パーセプション】で周辺確認だな。
やはりここは地下のようだ。
扉を出ると右に階段があり、上は普通の家っぽい。
上には3人いるな。
さらに家の周辺も確認する。
ぇ……?
ここ普通に街はずれじゃん。
どこかの森とか、そういう離れたところのアジトに連れ込まれたのかと思った。
しばらく荷台に乗って連れて行かれたと思ったけど、そう思わせるためだったのか。
よし!
バキッ!
バキッ!
ガキッ!
僕は【魔影装】で手錠と足かせを壊す。
鎖をちぎったあとに、繋がれている部分も拳で破壊し、手足から完全に取り去る。
「ぇ……ちょっと、何やってるの?」
僕の前に捕まっていた、【聖職者】さんが驚いている。
「とりあえず脱出してみようと思います」
「いや、まずいよ……
多分、見張りもいるよ?
それに魔石だけ補充していれば、ご飯も普通に与えられるし、ギルドの人が来るまで大人しくしていたほうがいいって」
「大丈夫ですよ。
今見張りは3人だけですし、仮に5人いても問題無いです」
「無理だって……
昨日君のギルドカードを少し見たけど、力が極端に低いじゃないか。
……でも、あれ?
君、今手錠壊したよね……?」
「力の低さはスキルでなんとかしてます。
もし僕がやられちゃっても、ここで大人しくしていれば危害は加えられないと思いますよ」
「……………………」
納得はしていないようだ。
よし、とりあえず扉の横を【土魔法】で掘ってしまおう。
ボロボロと土壁が削れていく。
「ぇ?
【土魔法】も使えるの?」
「はい、扉をぶっ壊すより、扉の横に穴を作ったほうが簡単そうですよね」
「ちょっと待った。
だとしたら、脱出の穴を作ったほうがいいんじゃない?」
「なるほど、そういうこともできますね……」
確かにこのまま【土魔法】を使って壁に穴を開け、階段をつくって外に出ることもできる。
脱出して助けを呼ぶのが安全なんだろう。
しまったな……
ヤツらをぶちのめすことしか考えが無かった。
外までの出口をつくって、【聖職者】さんだけでも逃したほうがいい。
バキッ!
バキッ!
バキッ!
バキッ!
僕は【魔影装】で強化した拳で、【聖職者】さんの手錠と足かせを破壊する。
「それじゃ、脱出ルートを作ります」
ズルズルと土壁が削れていく。
監禁されて穴掘りか……
なんだか懐かしいな……
当時よりも、【土魔法】のレベルも魔力も上がっているので、どんどん土が削れる。
そして消費MPも以前よりもかなり少ない。
「す……凄い……
君、メインは【土魔法士】なの?」
「いえ、【土魔法士】っていうジョブもあるんですね。
属性系は【風使い】しか持っていません」
各種属性特化のジョブがあるのか。
どれも強化したいなぁ……
◇
ただただ地上に向けた穴を掘る。
そろそろ地上のはずだ。
ズルズル……
やはりMP消費が抑えられている。
【土魔法】のレベルが低かった頃なら、地上まで穴を掘っただけでかなりの消費があったはずだ。
いつ使うかわからないスキルでも、鍛えておいて損は無いな。
ズルズル……
地上の光が見えた。
【土魔法】の良いところは、音をたてずに穴を掘れるところだ。
見張りの男たちに気づかれずに外に出ることができた。
僕は小部屋に戻り、【聖職者】さんに報告をする。
「地上までの出口ができました」
「……おぉ、それは凄い」
「穴を出て右にひたすら進めば、中心街にいけますよ」
「わかるの?」
「はい、街からそんなに離れていません。
出たらすぐに走って、ギルドへ向かってください」
「わかった、君、僕より体力ありそうだから、先に走って向かってて」
「いえ、僕はここに残ります」
「ぇ?」
「ですので、ギルドへの報告をお願いします」
「でも危険だよ……」
「大丈夫、大丈夫なんですよ……」
「ぇ……えっと……」
どうしたのだろう。
【聖職者】さんの顔がひきつっている。
また変な表情をしてしまったのだろうか……
「きっと大丈夫なんだね……
ありがとう、じゃあ僕は行ってくるよ」
そう言うと、【聖職者】さんは全力で走っていく。
少し時間を空けたほうがいいな。
【聖職者】さんがすぐに追いかけられたら、追いつかれる可能性もあるし。
◇
5分くらい経っただろうか。
僕は一通りの【補助魔法】をかけていく。
【パーセプション】で男3人の位置を確認。
3人ともテーブルを中心とした椅子に座っている。
酒でも飲んでいるのだろうか。
見張りといっても特にやることが無いんだろう。
僕は家の外から入り口の扉に近づく。
もちろん【魔影装】を発動。
【魔影脚】!
バゴォォォオオン!
扉を【魔影脚】でふっ飛ばす。
「んぁ!?」
男たちが驚き、僕に背を向けていた男が一瞬遅れる。
僕に尋問していたヤツだ。
遅い!
【魔影脚】!
バギッ!
ズドーン!
椅子ごと男の脇腹を蹴り飛ばすと、豪快に吹っ飛ぶ。
「ぇ?」
ザッ!
体勢を低くし、左の男の懐に入る。
「なっ!」
【魔影連撃】!
ドガガガッ!
ぁ……
僕は連撃をすぐに止める。
3発目くらいで既に失神している。
「くそっ!」
不意打ちだったとはいえ、反応が遅すぎるな。
残りの一人が武器の手斧に手をかける。
ザッ!
【魔影脚】!
バギッ!
手斧の柄が【魔影脚】によって破壊される。
バゴッ!
そのまま【魔影脚】が男の顎に直撃する。
ガクッ!
ドサッ!
もう終わりか……
思ったよりも楽に勝てたな。
全く反撃されなかった。
……………………
昨日もMPさえあれば、5人いても楽勝だっただろう。
反省だ……
僕は男たちの状態を確認する。
三人とも失神しているようだが、最初に蹴り飛ばした男、僕に尋問していたヤツが重傷だ。
【魔影連撃】は一撃一撃はそこまで威力が高くない。
だから、2人目に倒した男は、軽く骨を折って失神しているくらいだろう。
それから3人目の男に関しては、手斧の柄で上手くガードができたようで、これまた失神だけ。
でも、最初の男、僕に尋問していた男が重傷だ。
脇腹に【魔影脚】を直撃したようで、内臓までやられているかもしれない。
使っておいてなんだが、【魔影脚】の威力がやばいな。
【魔影装】のブーストが乗っているので、結果【フレアバースト】なみの威力になっている。
しばらくすれば、【聖職者】さんがギルドの人を連れてきてくれるだろう。
その前にこいつらを拘束しておこう。
【パーセプション】により、部屋の中のものを確認する。
やっぱりあった。
こいつら、拉致監禁しているだけあって、手錠と足かせの予備がいくつかある。
ひとまず3人にはつけておこう。
それから、重傷の男は回復してあげよう。
このままだと死んでしまうかもしれない。
【ヒール】
完全回復する必要もないので、【ヒール】で最低限の回復をしておく。
あと2人はどこへ行ったのだろうか。
なにか手がかりがあるかもしれないので、もう一度【パーセプション】で辺りを確認する。
!!
……ぇ?
誰か……いる?
おかしい……
さっきもそうだが、人の気配なんて無い。
僕は【パーセプション】でもう一度確認する。
!!
いる!!
見えないが、確実にそこに一人いるぞ!
【魔影脚】!!
ガスッ!
「おっと……」
【魔影脚】をした瞬間に男が出現する。
完全にガードされた。
しかも、蹴りのインパクトが弱い。
こいつ、ガードしながらも威力を外へ逃したんだ……
「お前やるじゃん。
俺の【インビジブル】バレるの久々だわぁ」




