119日目(異世界)中編
ポータルを使い、アポンミラーノへやってきた。
ポータルの入り口にいる兵士さんに、ギルドカードのチェックをしてもらう。
以前イヴォンさんと一緒に役所で書き換えてもらったので、問題なく通過できる。
まずは街全体の把握だな。
騎士団の宿舎と、役所には一度来たことがあるだけで、それ以外は全くわかっていない。
【空間魔法】の【パーセプション】を使って、手っ取り早く街全体を把握したいところだが、今MPがほとんど無い。
地味に歩いていくしか無いだろう。
領主様が住んでいる街だけあって、結構栄えている。
古い街並みだが、通路がほとんど石畳だ。
直線が多く、考えられて街づくりがされたんだろうと思われる。
アインバウムよりも規模が大きいので、街全体を把握するために地図がほしいところだ。
道具屋へ行って街の地図でも買いたいところだが、その道具屋がどこかわからない。
本当に何も考えずに来てしまったな。
だれかと一緒に来るか、アインバウムで地図を買ってくればよかった。
確か、麻痺薬と睡眠薬が少し残っていたな。
ギルドへ納品しつつ、道具屋の場所を聞いてみるか。
ギルドなら一度行ったことがあるので、大体の場所がわかる。
◇
「麻痺薬、睡眠薬の納品に来ました」
「あぁ、そいつはどうも……」
ギルド受付へ納品に来た。
この人も筋肉が凄い。
ロン毛のオールバックとムキムキの筋肉が特徴的だ。
しかし、受付がムキムキである必要性がよくわからないな……
揉め事が起こったときに、力ずくで止めるんだろうか。
ギルドカードを見せると、目を見開いて驚く。
「おい、お前さん、MPがSだな……
今日は納品だけか?
パーティーを組んだり、治療所で働く気はねぇか?」
そういえば、ギルドカードには大まかなステータスが表示される。
僕のMPは既にSになっている。
かなりいびつなステータスだからな。
「すみません……
今日はMPが無くて、納品だけでお願いします」
「そうか……今度はMP残して来いよ」
ぶっきらぼうな態度だったけど、納品後に無事に道具屋の場所が聞けた。
道具屋は街に2箇所あるらしい。
冒険者御用達の道具屋はすぐ近くにあるので、まずはそこに行ってみる。
◇
おぉ……
でかいな。
カルディさんの道具屋の3倍くらいは大きい。
売っているものを確認していく。
日常生活に使うものも少しあるが、それよりもポーション類や、野営装備が中心にある。
魔石を使った商品があるな。
野営のときに便利な光る筒、水の魔石もある。
食器や調理器具も少しあるが、野営のための食器がメインだ。
食器は木製、調理器具は鉄製か?
食器はいいが、調理器具はちょっと重いな。
これなら、アルミを加工したほうが軽いはずだ。
アルミって調理器具とか食器にできるのかな?
明日自室で調べてみよう。
そしてやはりポーションは瓶に入っている。
日用品はほとんど置いていないな。
とりあえず、街の地図を買って次の道具屋へ行こう。
◇
ここの道具屋は、さっきよりも小さい。
日用品を扱っている道具屋のようだ。
食器は木製のものと、陶器のものがあるな。
陶器のものは【土魔法】の製品だろうか。
ガラス製品もある。
ガラス製品は結構なお値段だ。
ん〜……
ガラス製品は、買うには高いが、売るとしたら販売価格よりも安くなるよな。
ちょっと微妙だ。
ガラス製品にMPを使うなら、魔石の補充、生成に使ったほうがお金が稼げるだろう。
そうなると、【土魔法】の【創造】を強化しても、金銭的な利益は微妙だ。
今度は調理器具を見てみる。
鉄製だな。
銅のものもある。
あと、よくわからない結構なお値段のやつもあるぞ。
なんだこれは……?
淡い青色の鍋を見つける。
ガラスケースに入っているため、手に取ることはできない。
「それには魔物の素材が使われております」
カウンター越しに店主が話しかけてくる。
「そうなんですか。
もしかして、軽くて丈夫なんですか?」
「えぇ、もちろんですよ。
その上、火の魔石が使われております。
ですから、そちらの鍋一つで、加熱料理が可能なのです」
「なるほど……それは高そうですね」
値段が書いていない。
店主と交渉ということか。
まぁ相場を確認しに来ただけだからな。
しかし、魔物の素材を使ったものであれば軽くて丈夫なんだろう。
アルミ製品の調理器具をと思ったが、魔物素材で、しかも魔石が組み込まれている製品には勝てそうもないな。
まぁ鉄製や銅製よりも軽いので、ちょっと高いくらいの値段になる可能性はあるな。
そうだ。
それよりも、容器を見に来たんだった。
水差しや、水筒は木製や金属製が多いな。
金属の加工はかなりの技術だ。
異世界だと、【鍛冶師】のスキルがあるから、細かい加工が可能なんだろう。
これだと、日本のゴミ捨て場から持ってきて需要がありそうなのは、やっぱりペットボトルくらいか……
◇
夕食まで少し時間があったので、装備品も見ておく。
装備品は、やはり魔物素材でできているものが多く、高価だ。
金属製のものもあるが、そこまで高くはない。
つまり、【錬金術師】の【金属精錬】はそれほどお金になりそうもない。
まぁ【鍛冶師】のジョブが無いので、装備品はまだ作れないわけだし。
【金属精錬】については、【魔導合成】(魔石の合成)と【魔導命令】(魔石の生成)を習得するためと割り切ったほうが良いだろう。
いろいろ見て回ったが、今の僕の場合、やっぱり教会で仕事をするのが効率が良いな。
あとは、ペットボトルを持ってきて、カルディさんに見てもらおう。
ちょっと遅くなってしまったが、まだ夕食には間に合う。
帰るか……
ドガッ!
!!
ズザァーッ!
不意打ちをくらって吹っ飛ぶ。
「なっ!」
「……………………」
気づけば4人に囲まれている。
相場を調べてウロウロしていたら、街外れに来てしまったようだ。
マズイな……
MPが少ししか回復していない。
「お金が目的ですか?」
「大人しくしていろ……」
ジリジリと距離を詰めてくる。
金を出せっていうわけじゃないのか?
僕はジョブを【魔闘家】に変えておく。
俊敏を上げておく必要がある。
今の僕のMPでは4人相手に勝てそうもない。
全力で逃げよう。
ザッ!
全力で駆け出す。
「……!!」
【魔影装】を使ったので、俊敏が一気に上る。
MPがすぐに切れ、通常の状態になるが問題無い。
4人を振り切って街なかに行けばいいんだ。
「俊敏ブーストか?
一瞬だけのようだな」
げ……
目の前にもう一人いる。
まだいたのか。
ドガッ!
「少し痛めつけてやれ」
ドガッ!
バキッ!
クソ……
彼らは弱くない。
冒険者で言えばベテランくらいの実力だろう。
【魔影装】をフルで使えば、なんとかなるだろうが、MPが枯れている僕では太刀打ちできない。
「無駄な抵抗だとわかったら、大人しくしろ」
「……………………」
ガチャ!
手錠と足かせをつけられる。
さらに目隠しだ。
どうやら金銭が目的ではないようだ。
僕を拉致することが目的だったのか?




