119日目(異世界)前編
「ぇ……全員ですか?」
「そうです。
よろしくお願いしますね」
イヴォンさんがニコニコと笑顔で言う。
今日もいつものように、魔石生成をした。
このあと、第三戦線で狩りをしようと思っていたのだが、今日は狩りにいかずにイヴォンさんに呼び出され、教会にいる。
横一列にずらっと並んでいるのは、貴族の子供たちだ。
いや、大人も混ざっているな。
僕が【呪術師】のジョブを習得したことで、【呪術】のステータス降下を習得することができた。
このステータス降下の【呪術】を使って、貴族の皆様に耐性をつけてほしいそうだ。
僕はイヴォンさんの指示通り、ずらりと並んだ貴族の皆様にかたっぱしから【バイタルブレイク】(HP降下)をかけていく。
「しかし、相変わらず父上は仕事が早いな……」
クラールが呆れながら言う。
「我々もここに並べば良いのか?」
「そうだね」
僕はフヨウに答える。
ショーン、クラール、フヨウも貴族と並んで、【バイタルブレイク】を受けていく。
「しかし、耐性強化ってのも暇だな。
ひたすら【呪術】を受けるだけだろ?」
ショーンがあくびをする。
おいおい、貴族の子どもたちよりも態度が悪いな……
まぁ実際暇で、やること無いみたいだけど。
しかし、凄い人数だ。
全部で40人くらいいる。
【バイタルブレイク】が一通り終わると、今度は【アーマーブレイク】をかけていく。
貴族の方々には、【HP降下耐性】や【耐久降下耐性】などの防御面でのデバフ耐性が人気らしい。
自ら戦うというより、普段守ってもらうわけだから、防御面が重要ということだ。
そんな感じで全員にひたすら【呪術】をかけまくっていると、一通りの【呪術】をかけ終わる頃には、最初の【バイタルブレイク】の効果が切れる。
それからまた【呪術】のかけ直しだ。
【マナブレイク:Lv0(New)】(MP降下)
【スキルブレイク:Lv0(New)】(SP降下)
【ヒットブレイク:Lv0(New)】(技降下)
【マジックブレイク:Lv0(New)】(魔力降下)
【呪術】をかけまくっていたら、他の【呪術】も習得できた。
これも修行の一つということだろうか。
しかし、作業感が凄いな。
いや、いいんだよ……
順調に新しい魔法も習得できているし……
今日のこの仕事で、お金も結構もらえる。
だけど、狩りをするわけではないのでジョブレベルは上がらない。
何より【魔闘家】のジョブレベルが0のままだ。
そして力や技といったステータスが極端に低いまま。
前衛ステータスが低いままだと、いざというときに足手まといにならないだろうか……
「しかし狭間さん……
素晴らしいMPですね。
これだけの人数に各種【呪術】を使っても、まだMPは残っているんですか?」
「いや、さすがにもうすぐ無くなります」
どうやらイヴォンさんが想定していたよりも、僕のMPが多かったようだ。
「それでは、こちらを使ってください」
「これは……?」
イヴォンさんから腕輪を渡される。
大きくきれいな宝石がいくつもはめ込まれている。
「付けてみれば分かりますよ」
「わかりました……」
呪われてないよな……?
カチャッ!
僕は腕輪を装着する。
おぉ!
これは!
MPが回復している!
「その腕輪は、マナブレスレットという魔道具でして、MPを保存することができるんですよ。
補充が必要ですが、その分MPを蓄えておくことができます」
「それは凄いですね!」
やばい!
一番欲しいヤツ!
これ一番欲しいヤツだ!
「ここでしばらく貴族の方々に、呪術耐性をつけていただくまではお貸しします」
「それはありがたいです。
使用できる魔法の回数が上がれば、レベルも上がりますし」
ぁ、MP回復が終わった。
だいたい50くらいか。
今の僕の最大MPは841だ。
1割にも満たないが、日本で毎日MPを補充できることを考えればかなり使えるよな。
「本来魔道具は貴重なもので、売買などはされないのですが、どうでしょう……
狭間さんがここの仕事を継続的にしてくださるなら、お売りしても良いですよ?」
「えっと……おいくらでしょうか?」
でもお高いんでしょう?って話だ。
普段売買されていないものなんて、どれだけお高いんだろうか。
「1000万です」
「そ、そうですか……」
うわ……厳しいな……
この前まで、全然お金なかったし……
今あるお金は17万セペタだけ。
【エリアヒール】の魔石生成が一つ8000、補充が3000。
【オートヒール】の魔石生成が一つ2万、補充が8000。
いずれも10回のものだ。
カルディさんのMPの関係上、魔石の生成には限界がある。
そして、今日の貴族の方々への耐性強化は一人1000。
40人だと4万だ。
麻痺薬、睡眠薬も多少はお金になるけど、ギルド納品になると、せいぜい1日2000くらいの稼ぎにしかならないだろう。
トータルで一日に稼げる金額は、7〜11万くらいだろうか。
この前家賃は払ったばかりだから、生活費はほとんどかからないが、1000万となるとどれだけ早くても3ヶ月か……
いや、でも待てよ……?
今までは、異世界で特に欲しい物が無かったから、生活のことしか考えていなかった。
教会にいれば、そこそこっていうより、かなりお金を稼ぐことができる。
だけど、異世界で稼ごうと思えばいろいろできるな……
「頑張って資金を貯めようと思います」
「おほほ、それでは教会での仕事もよろしくお願いしますね」
ぁ……
しまった。
まんまとやられたな。
教会での仕事を続ければって話だった。
狩りよりも教会の仕事を優先しなくちゃいけない。
◇
「おかげで耐性がついてきたよ」
「そうだな、私も耐性を習得できた」
貴族の方々もそうだが、クラールやフヨウ、ショーンも耐性を習得できたようだ。
「しっかし暇だなぁ。
ケンのMPも切れたし、今日は狩りに行くこともできねぇだろ?」
「そうだね、回復はできないよ」
時刻は昼を少し過ぎたところだ。
「まぁ回復無しだと、第三戦線とかは厳しいかもね。
今日は休みでいいんじゃない?」
「休みか……私はギルドにでも行ってみる」
フヨウはやる気満々だな。
ギルドの簡単な依頼なら、回復無しのソロで攻略できるんだろう。
「それじゃ今日はとりあえず解散だね」
「だな」
「了解した」
「また明日」
◇
しかし、MPが切れるとやることがない。
僕の場合、【魔闘家】の【魔影装】がなければ前衛として戦うのは厳しいだろう。
パーティーを組むのはもちろん、ソロでの狩りなんてできないし、効率が悪い上に危険だ。
そして、これからかなりの資金が必要になる。
今【ストレージ】にしまってあるマナブレスレットを是非とも購入したい。
そのために一つ考えがある。
それは、日本のゴミ捨て場から空のペットボトルを持ってくることだ。
マンションのゴミ捨て場から、それほど潰れていないペットボトルを異世界に持ってきてしまうのだ。
異世界では、水を持ち歩くのは木の水筒か、水の魔石、もしくは自分自身の【水魔法】だ。
そこまではまだいい。
だけど、ポーション類は基本的に瓶に入れている。
ペットボトルに入れたほうが便利だと思う。
あとは、類似品があるかだな。
僕は異世界でここアインバウムの街以外はほとんど知らない。
ただし、イヴォンさんのおかげで領都や第三戦線などにポータルを使って一瞬で行ける。
久しぶりにやることが無いし、領都アポンミラーノに行ってみよう。
あそこなら、ここよりも様々な道具があり、需要も多少わかるだろう。
誤字報告ありがとうございます。
また【錬金術師】のスキルは当初SP消費としていましたが、MP消費にしました。
修正したいところがかなりあるのですが、今は更新を優先させていただきます。
その割に更新が遅くて申し訳ございません……




