111日目(異世界)中編
「やっぱりケンだな。
なんかやってくれると思ったぜ」
「バカな……先程まで反応すらできていなかったのだぞ」
「だけど、かろうじて防御できたって感じだ。
ここからだよ」
ショーン、フヨウ、クラールがつぶやく。
骨は……折れてはいないようだ。
しかし、ダメージがかなりある。
「さて、さっきのが偶然かどうか見てやろう」
バッ!
まただ。
また脚を狙って蹴りがくる。
【アジリティエイド】【ハイアジリティエイド】【パーセプション】でかろうじて反応ができる。
身体を反らし、脚を上げ、ギリギリでガードする。
ドガッ!
再びふっ飛ばされ、受け身を取る。
「まぐれではないようだ……
まぁ雑魚には変わりないがな!」
ドガッ!
さらに蹴りがくる。
一撃目の蹴りはなんとか防御できたが、吹っ飛んだ先にウーリュウが先回りしているため受け身が取れない。
ガッ!
蹴りの追撃をくらい上空にふっ飛ばされる。
「ハッ!」
メキッ!
僕は空中で踵落としを直撃でくらう。
バゴォォォン!
「がはっ!」
地面に叩きつけられ、血反吐がでる。
全身に激痛が走る。
まずいぞ……
内臓がやられた可能性がある。
【ハイバイタルエイド:Lv0(New)】(HP強化)
また【補助魔法】が一つ増えた。
【オートヒール】【クイックヒール】【ハイヒール】を【マルチタスク】で連発し、【ハイバイタルエイド】をかけていく。
恐ろしいほどのMP消費だ。
「ほぉ……まだ立ち上がるか」
ダメだ。
かろうじて防御体勢が取れていたが、連撃になるとどうにもできない。
新しく習得した【ハイバイタルエイド】も有効ではあるが、ウーリュウの攻撃に対応できるようになるわけではない。
HPが上がっただけではどうにもならない。
どうすれば……
僕は【空間魔法】の【パーセプション】で把握できる範囲を狭くしてみる。
「ハッ!」
ドガッ!
ガッ!
メキッ!
再び連撃をくらう。
一撃目を防御できても、二撃目、三撃目は直撃をもらい、再び骨を損傷する。
高揚しているせいか、痛みは徐々に感じなくなってきた。
しかしダメだ……
【パーセプション】の範囲を狭くしたところで、スキルレベルが低かった頃の状態、把握できる範囲が狭くなるだけで何も変わらない。
ただ範囲を狭めるだけでは意味がない。
違うな……
もっと、範囲を凝縮するような……
僕は【風魔法】で空気を圧縮し、キーボード操作をしていたときのことを思い出す。
「どうした?
MP切れか?
雑魚にしては、粘ったほうだな」
【パーセプション】の認識できる空間を圧縮しようとする。
ズズッ……ズズズ……
できる……
できるが、気を抜くと狭めた範囲がすぐに広がってしまう。
僕は立ち上がり、全神経を【パーセプション】に集中する。
「まだ粘るか……」
ガッ!
ガッ!
ガッ!
ズザーッ!
できた。
三連撃全てを防御し、ふっ飛ばされながらも、倒れずにすむ。
「ハハッ!
面白くなってきたな」
「ありえないッス……
こんな短時間で……」
ショーンが笑い、ロウリュウが驚く。
「…………………」
ウーリュウがこちらを睨みつける。
「おい、お前……前言は撤回だ。
どうやらただの雑魚ではないらしい」
「そりゃどうも……」
しかし、ギリギリだ。
もっと、もっと範囲を圧縮しなければ……
「どれ、少しだけ本気をだしてやろう」
やばいのがきそうだな……
ザッ!
ドガガガガッ!
なんとか連撃を防御し続ける。
脚だけではなく、拳による攻撃も加えてきた。
身体がミシミシと軋む。
防御していても、ダメージを受け続ける。
僕は【マルチタスク】をフル活用し、【パーセプション】で範囲を狭めつつ、防御を続け、さらに【オートヒール】が発動、【クイックヒール】も同時にする。
「ハハハ!
悪くないぞ!
お前、ロウリュウより良いサンドバッグになりそうだな!」
ドガガガッ!
ガガッ!
バキッ!
ガガガッ!
メキッ!
ガガガッ!
ウーリュウは高速で攻撃を続ける。
速すぎる……
防御できなかった数発の攻撃が身体にめり込み、骨が砕ける。
回復しながら連撃に耐え続けなければならない。
【補助魔法】【空間魔法】【回復魔法】少しでも気を抜いて、どれか一つでも欠けてしまったらアウトだ。
下手すると死ぬかもしれない。
ドガッ!
ウーリュウの蹴りにより吹っ飛び、石畳をゴロゴロと転がる。
「フー……フー……」
呼吸が乱れる。
ボタ……ボタ……
鼻血が出る。
これは、ウーリュウの攻撃によるものではない。
【マルチタスク】のキャパオーバーだ。
同時に複数のことをしているため、頭が割れるように痛い。
高揚感で無くなった身体の痛みのかわりに、猛烈な頭痛がやってくる。
「師匠! やばいッス!」
「わかっています。
試合の決まりよりも命が大切です。
狭間さんはそろそろ限界でしょう」
クソ……
まずいぞ……
試合が止められてしまう。
「待って……待ってください!」
もう少しなんだ……
もう少しで何かがつかめそうな……
「もう少し戦わせてください!」
「………………」
「リャンリュウさん、俺からも頼むぜ」
ショーンも言ってくれる。
「ウーリュウ?」
リャンリュウさんが、ウーリュウに視線を送り、確認をする。
「俺や師匠が思っていたより、こいつは頑丈です。
死にはしないでしょう」
「では、あと3分間だけ戦うことを許可します。
それ以上は、状況がどうなっても戦いを止めますので」
3分か……
もっと……もっと集中するんだ!
ズズッ……ズズズ……
【パーセプション】の範囲をさらに狭める。
この闘技場、石畳のスペースくらいになってきた。
「ではいくぞ!」
ガガガガッ!
ドガッ!
「おい……クラール……」
「うん、防御率がどんどん上がってるね」
ガガガガガッ!
もっと……もっとだ……
ガガッ!
ガッ!
ガッ!
僕はウーリュウの手足から繰り出される連撃を防御し続ける。
このままでは、ジリ貧だ。
僕は【回復魔法】をやめる。
正確には、【ハイヒール】と【クイックヒール】をするのをやめ、自動で発動する【オートヒール】と徐々に回復をする【リヒール】のみにする。
【回復魔法】をやめたことにより、さらに【空間魔法】の【パーセプション】に集中し、その範囲を凝縮していく。
ズズッ……ズズズ……
ガガガッ!
ガガガガガッ!
ウーリュウの攻撃を完全に防御する。
「師匠……なんなんスか……あれ……」
「わかりません……
わかりませんが……まるで先代を見ているようです」
【パーセプション】の凝縮により、自分の周囲一メートルくらいがはっきりと認識できる。
あのウーリュウの素早い攻撃でさえ……
ガガガガガッ!
蹴りは【体術】では拳による攻撃よりも強力だが、その分モーションが大きい。
上段の回し蹴りのあとに大きな隙が生まれる。
それは、ウーリュウの俊敏があってもだ。
ズズズ……
僕は【パーセプション】を自分の身体の周囲に集中する。
まるで、魔力が……MPが自分の身体の周りにまとわりつくように……
ズズズ……
今だ!
ズバッ!
僕はウーリュウの上段蹴りを防御し、その反動でこちらから蹴りを繰り出す。
何度も何度も動画で見た、回し蹴りだ。
直撃は無い……
回避された……?
ババッ!
ウーリュウは後ろに数回バク宙をし、距離をとる。
ウーリュウの髪が数本、パラパラと落ち、頬から血が流れる。
「なっ!」
完全にかわされたわけではないな。
かすったか?
ウーリュウがこちらを睨みつける。
「………………
(バカな……この俺が、警戒している?)」
そうか……これだ……
これが足りないSPをMPで補うってことか……
カチャリ
【魔闘家:Lv0(New)】




