111日目(異世界)前編
「おい、本当にお前らは引かないのか?」
「そうだね、僕はやめておくよ。
【体術】だけで勝てる気がしないからね」
「私もまだまだ【昇仙拳】の修行不足だからな」
ショーンの問いに、クラール、フヨウが答える。
今からクジで代表戦の対戦相手を決めるところだ。
「このクジは特殊な素材でできていまして、【昇仙拳】を使い、気を流せば、このように光ります」
リャンリュウさんがクジに気を流して見せてくれる。
棒の先に大将という文字が光る。
「対戦希望者は、4本のクジのいずれかに気を流してください」
クジは5種類あり、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将になっているようだ。
大将はリャンリュウさんなので、大将のクジは含まれていない。
ちなみに、副将がウーリュウ、中堅がロウリュウ、次鋒、先鋒は他の先輩門下生だ。
誰とあたっても、僕では勝てないだろう。
そして、ウーリュウはショーンとの戦いを望んでいるようだが、ウーリュウのクジを引けるとは限らないよな。
まぁ僕は【昇仙拳】を使うことができないので、参加すらできないのだが……
……ん?
いや……
まてよ……?
「リャンリュウさん、僕も一応クジ引いてみてもいいですか?」
「構いませんが、【昇仙拳】が使えないと気を流すことができませんよ?」
「ちょっと試したいことがありまして……」
「?
ではどうぞ」
僕はリャンリュウさんからクジを選んで一本受け取る。
いけ!
【リカバリ】!
「「「おぉ!」」」
「なっ!」
「おいおい……」
きたぞ!
やっぱりだ。
気はSPみたいなものだって話だったからな。
ダメ元でSP回復の【リカバリ】を使ったら光った。
副将の文字が光る。
対戦相手はウーリュウだ。
「おい! 貴様!
そんなのは無効だ!」
ウーリュウが僕を睨みつける。
彼からすれば、僕など眼中にないし特に戦いたくもないのだろう。
「ウーリュウ、副将の文字が光ってしまった以上、無効にはならないですよ」
「しかし……」
ウーリュウはよっぽど僕とは戦いたくないらしい。
というより、ショーンだってウーリュウと戦いたかったはずだ。
僕はショーンに向き直る。
「ショーン、ごめん……」
「お前って本当に空気読まねぇよな……
なんだか気が抜けちまって戦う気にもなれねぇよ……」
みんな苦笑いだ。
本当に申し訳ない。
ショーンはショーンでウーリュウ以外と戦う気は無いらしい。
結局クジを引いたのは僕だけだった。
「どうします?
今なら棄権できますが、一度試合が始まってしまえば、きまりですので私でも簡単に止めることはできませんよ。
本当に戦いますか?」
「はい! もちろんです!」
「……クソ!」
ウーリュウが怒りに満ちた表情で僕を睨みつける。
「では、外の闘技場へ行きましょう。
身の危険を感じたら、すぐに降参してください」
僕たちは外の石畳のある闘技場へ行く。
「おい貴様……覚悟しろよ。
死ぬほど後悔させてやろう……」
◇
10メートルくらいの正方形の石畳がいくつもある。
いつもは修行で使っているが、試合でも使えるようだ。
ウーリュウとは5メートルくらい離れて向き合う。
「はじめ!」
バギッ!
…………!?
何が起きた?
!!
リャンリュウさんが開始の合図をすると同時に、視界が低くなる。
ドサッ!
「立て……」
「……ッ!!」
脚に激痛がはしる。
両脚が折れ、倒れたようだ。
「雑魚が……何が起きたかも理解できんか……」
僕は【オートヒール】と同時に【クイックヒール】を連発、骨折を治し、すぐに立ち上がる。
バギッ!
ぐら……
クソッ!
まただ……脚に激痛、また倒れている。
ドサッ!
「立て……」
「おいおい、容赦ねぇな……」
「師匠、止めたほうがよくないッスか?」
「いえ、決まりですので、もう少し様子を見ましょう」
ダメだ。
とても反応できる速度ではない。
僕はさっきと同じように回復をし、同時に【補助魔法】をかけておく。
【バイタルエイド】(HPアップ)
【プロテクト】(耐久アップ)
【アジリティエイド】(俊敏アップ)
【リヒール】(徐々に回復)
これで少しは……
バギッ!
「無駄だな……」
!!
ドサッ!
「立て……
身の程知らずが……
前衛の後ろで回復だけしていればいいものを、しゃしゃり出てきやがって……
せいぜい激痛とともに後悔するんだな」
確かに……
僕は何をしていた……?
ここしばらくは、前衛の後ろで【補助魔法】と【回復魔法】をしていた。
直接戦ったといえば、アーマータイガーと5分間だけだ。
「そうか……そうだな……」
僕はポツリとつぶやく。
ショーンやクラールのような優秀な前衛、中衛に頼り過ぎていた。
それでも、ジョブレベルは上がるし、後衛として【回復魔法】や【補助魔法】のスキルは上がっていく。
安全に、安心して戦っていたんだ。
そうじゃない……
そうじゃないだろう……
「おい、さっさと回復して立て。
それとも降参か?」
僕は再び回復して立ち上がる。
バギッ!
ウーリュウは腕を組んだまま、蹴りだけで完全に同じ場所を攻撃してくる。
ドサッ!
同じところに攻撃がくるとわかっていても、反応できない。
力の差がありすぎる。
完全になめられている……
【鉄壁:Lv0(New)】
新しいスキルの習得だ。
しかし、今の僕はSPが0だから使うことはできない。
再び回復をして立ち上がる。
バギッ!
「クズが……
わざわざ対戦を邪魔しておいてこのザマとはな……」
ドサッ!
【ハイリカバリ:Lv0(New)】(SP回復)
また新しいスキルだ。
SPを回復しろってことか。
嫌だね……
ここまでSP枯渇状態で頑張ってきたんだ。
意地でも使うもんか……
僕は回復と同時に、【パーセプション】で空間を把握する。
ウーリュウが速すぎるので、【空間魔法】で対応するしかない。
バギッ!
クソッ!
さっきよりは動きが把握できるが、身体を反応させることができない。
ドサッ!
【ハイプロテクト:Lv0(New)】(耐久強化)
まただ。
凄い……
「さて、あと何回骨が砕ければいい?」
「師匠!
そろそろやばいッスよ!
止めたほうがいいッス!」
「ロウリュウ、よく見なさい……
彼の……狭間さんの目……
あれは……先代の目によく似ています……」
バギッ!
ドサッ!
昇仙山に……
SP枯渇状態に……
ウーリュウという格上の強敵に……
僕が……
僕の身体が……
過酷な状況に適応しようとしているのか……?
【ハイアジリティエイド:Lv0(New)】(俊敏強化)
ウーリュウ……
キミは……キミは最高だ。
「フフ……フフフ……」
「チッ!
痛みで気が狂ったか?」
素晴らしい……
あぁ……素晴らしいよ……
僕は新しく習得した【ハイプロテクト】【ハイアジリティエイド】の【補助魔法】を使い、回復しながら立ち上がる。
立ち上がった瞬間、するどい蹴りがくる。
ドガッ!
僕はウーリュウの蹴りによってふっ飛ばされる。
数メートル吹っ飛び、倒れそうになるが、ぐるりと受け身を取り立ち上がる。
「ほぉ……」
ウーリュウがはじめて感心したようにこちらを見る。
「防御……したッス」
「先代は、追い詰められるほど力を発揮していました。
まさか彼も……」
さぁ……ウーリュウ……
もっと……もっと魅せてくれ……