109日目(異世界)前編
「なぁ……あれって……」
「アーマーパンダ?」
「だろうね……」
「……………………」
僕たちは今日も四人で竹林に来ている。
アーマータイガー討伐による【昇仙拳】の修行だ。
そして、竹林の奥にいるのは恐らくアーマーパンダ。
外皮はアーマータイガーよりもさらに硬く、力、俊敏ともに相当高いらしい。
リャンリュウさんからは、事前に説明を受けていた。
竹林の魔物は基本的に、アーマータイガーだが、稀にアーマーパンダが出るという。
遭遇したら逃げるか、全員で本来メインの武器を装備し、僕が後衛に徹するように言われている。
さすがにまだ僕たちの【体術】で倒すのは厳しいだろう。
大きさはそれほどでもない。
だけど、アーマーパンダの名の通り、外皮が鎧のようになっている。
アーマータイガーよりもさらに光沢があり、完全に金属の鎧に見える。
手足と肩、目の周りと耳が黒くなっており、その他の部分は白銀に輝いている。
確かにパンダだ。
竹林にいると、一発でわかる。
「どうする?」
「そりゃ、倒すだろ。
面白そうだし」
「だよね。
てことは、僕は後衛かな?」
「……ちょっと待ってほしい」
ストップをかけたのはフヨウだ。
どうしたのだろうか。
「私一人で戦わせてくれないだろうか……」
「おいおい、ありゃ上位種だぞ。
アーマータイガーだって弱くはない。
一人は無茶だろ」
「だからだ。
あれなら私の攻撃も通じないだろう」
「なるほどね、確かにそれなら【昇仙拳】を習得できる可能性はある」
クラールは納得する。
「けど危険じゃない?」
「だろうな……でなければ意味がない」
僕の問いに、フヨウは当然のように応える。
「…………頼む」
フヨウは僕たちに頭を下げる。
「てかさ、前々から思ってたんだけど、焦りすぎじゃねぇか?」
「たしかに、ここに来てまだそれほど経っていないね。
フヨウならしばらく修行をすれば【昇仙拳】の習得は可能だと思うよ」
ショーンとクラールはフヨウに言う。
「何か強くならなければいけない理由があるの?」
「…………そうだな」
「じゃ、俺は構わないよ。
だけど、あとでワケを教えろよな」
「僕も。 ただし、危なくなったら助けるよ」
「助かる……ありがとう」
ぇ……
ショーンもクラールも承諾し、フヨウがお礼を言う。
正直僕はちょっと、いや、かなり戦いたい。
「ケン、すっごい戦いたそうだね」
「お前さ、空気読めよ……」
「ぇ……?」
クソぉ!
僕だって【昇仙拳】習得できてないのに……
「わかった……それじゃ一通り【補助魔法】かけていくね。
それから【回復魔法】は僕に任せて」
「ケン、本当にすまない」
僕の顔がひきつっていたんだろう、フヨウが僕に頭を下げる。
僕は【バイタルエイド】(HPアップ)【プロテクト】(耐久アップ)【アジリティエイド】(俊敏アップ)をかけていく。
さらに、【リヒール】(徐々に回復)もかけておこう。
「ではいくぞ!」
ザッ!
フヨウは踏み込み突進とともに拳を突き出す。
ガギンッ!
あたりに金属音が響き渡る。
「モ?」
アーマーパンダがフヨウに気がついたようだ。
にしても、ダメージが入ったようには見えない。
さすがのフヨウでも通常攻撃ではダメージを与えられないようだ。
「ンモゥッ!」
アーマーパンダが鋭い爪を振り下ろす。
速いぞ!
ザシュッ!
フヨウはとっさに腕でガードするが、ガードした腕から血が飛び散る。
結構なダメージがありそうだ。
「………………」
僕は後方から無言で【ハイヒール】をうつ。
「モモモッ!」
今度は連続で爪を振り下ろす。
ふざけた鳴き声だが、相当な速さだ。
ガッ!
ザシュッ!
ザシュッ!
フヨウは三連撃の一撃目だけを腕でガードし、後の二撃は直撃をもらう。
「フンッ!」
カウンターだ。
二発くらったのはわざとだろう。
地面に足を踏み込み、しっかりと力の入った拳がアーマーパンダに直撃する。
ガギンッ!
再び大きな金属音が響く。
さっきより強力な一撃だ。
「モ?」
ダメだ。
全くダメージがないな。
フヨウを回復しなければ。
僕は【ハイヒール】を連続で使っていく。
アーマーパンダの攻撃は強力だが、回復が追いつかないほどではない。
◇
しばらくの間フヨウとアーマーパンダの攻防が続いた。
「はぁ……はぁ……」
フヨウは疲労がたまっているようだ。
いくら【回復魔法】でHPが回復しても、攻撃を受ければ痛みもあるし、血の量が減る。
「おい! 大丈夫か?」
「はぁ……はぁ……大丈夫……だ!」
ガギンッ!
フヨウの拳がアーマーパンダの顔面に入る。
「モ?」
ドガッ!
アーマーパンダが振り払うと、フヨウが吹っ飛ぶ。
「くっ!」
「やばかったら言えよ!」
「もう少し……もう少し頼む」
「ケン、MPはどうだ?」
「まだ8割はあるよ」
「マジかよ……」
「前よりさらに増えてない?」
「おいフヨウ! ケンはまだまだいけるらしいぞ!」
「助かる!」
◇
ガギンッ!
ん?
音こそ普通の金属音だったが、薄っすらと拳が光ったように見えた。
「今のは……?」
「やったな」
「だね」
「おい! もういいか?」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
フヨウは限界のようだ。
返事をする体力が残っていないように見える。
「じゃあ一気に片付けちまおう。
ケン、【補助魔法】頼む」
ぇ?
僕も一回一人で戦ってみたいんだけど……
「ケン、ダメだよ。
アーマータイガーでギリギリ戦えてるんだから。
今はコイツを倒そう」
「はい……」
クラールにたしなめられる。
僕はしぶしぶショーンとクラールにも【補助魔法】を使っていく。
「なんだか、コイツを使うのも久しぶりな気がするぜ」
「そうだね。
実際はそれほど期間はあいてないんだけど」
そういうと、ショーンは槍、クラールは弓を取り出す。
「ウシッ! いくぜ!」
そう言うと、ショーンは踏み込み、槍による連撃をする。
スパッパパパンッ!
ぇ?
おかしくない?
さらに、クラールも【魔弓士】の矢を次々に放つ。
スパパパァンッ!
この音って……
【昇仙拳】だよな……
「ンモォォォゥゥッ!!」
アーマーパンダは苦しそうだ。
ダメージが一気に入っているんだろう。
◇
「ンモォォォゥゥッ!!」
ドサッ!
ほどなくして、アーマーパンダが倒れる。
「ねぇ、二人共【昇仙拳】使ってたよね?」
「まぁな。
まだ不慣れだけど、極めれば相当に使えるぞコレ」
「【昇仙拳】って【体術】じゃなかったの?」
「基本は【体術】だね。
ただ、武器での使用も可能だよ。
ケンも見ただろう?
ショーンの槍や僕の矢が光っているのを」
「うん。
あれって気?」
「そうだね。
【昇仙拳】の基本は気の扱いだ。
最初は拳、次に脚、慣れてくると武器に気を込めることができるみたい。
さらに僕の場合は威力が上がって、SP消費がやや減ってるよ」
「俺もそうだけど、槍の場合はリーチも少し伸びるぞ」
マジかよ。
めちゃめちゃ汎用性が高いな。
「しかし、もう武器をつかって【昇仙拳】ができるとはな……
一緒に修行をするのが嫌になるぞ……」
「確かに……」
フヨウがぼやく。
もっともだ。
「いや、これからだよ。
完全に【昇仙拳】を極めれば、音や光が無くなり、さらにSP消費が抑えられるって話だからね。
それにフヨウ、【昇仙拳】と最も相性の良い武器は双剣だ」
「そうだな。
双剣は手数で有利な分、リーチで不利になる。
私には【昇仙拳】が必要だ」
「腹減ったな。
コイツの肉ってウマいのか?」
「さぁ……
どうだろう?
外皮は高く売れそうだよね」




