107日目(異世界)
今日は地獄の走り込みのあと、道場よりもやや上に登った竹林に来ている。
リャンリュウさん、ショーン、クラール、フヨウ、僕だ。
「今日から少し実践に入ってもらいます。
少々早いですが、あなた方なら問題ないでしょう」
「おぉ!
やっときたか!
ずっと素振りってのも飽きてきたよな」
「そう?
僕は型を意識した素振りも嫌いではなかったよ」
ショーンとクラールが言う。
意外だ。
クラールは、型の訓練のような地味な修行も嫌いではないらしい。
「……………………」
フヨウは相変わらず無言のまま険しい表情をしている。
強くなっていく二人を見て焦っているんだろう。
僕もちょっとわかる。
ショーン、クラールは天才だと思う。
技の覚えやステータス上昇が早すぎる。
一緒に修行をすると、どうしてもそれが気になってしまうんだ。
「今日は皆さんが道場で食べている、アーマータイガーを狩ってもらいます。
動きは素早く、さらに防御力が非常に高い魔物です。
外皮が鎧のようになっており、魔法はある程度効きますが、修行のため属性攻撃や魔法は禁止です」
マジか。
まぁ前衛の修行としてきているんだから、魔法で倒したら意味がないよな。
「さらに、【昇仙拳】をマスターするため、武器の使用も禁止します。
皆さんは武器を使えば、結構な手練ですからね。
本気を出せばすぐに倒せてしまうでしょう。
ですが素手の通常攻撃では、恐らくダメージは通りません」
「なるほど、さらに負荷をかけていくわけですね」
リャンリュウさんの説明にクラールがこたえる。
「そのとおりです。
SP枯渇状態、ダメージが通らない敵、これほど【昇仙拳】習得に適した環境はありません」
「なるほどね……」
「そして、【昇仙拳】を使えば、アーマータイガーのような外皮の硬い魔物も容易に倒すことができます。
まぁ見せたほうが早いですね。こちらです」
リャンリュウさんはそう言うと、見通しが悪い竹林をスタスタと進み出す。
「いました。あれです」
竹林の中に、大きなトラがいる。
全長は3メートル以上あるだろう。
アーマータイガーの名前通り、光沢のある、まるで鎧のような外皮に包まれている。
あれを素手で仕留めるのか……
「では、見ていてください。
いきますよ!」
キイィィィン……
リャンリュウさんの拳に光が集る。
僕が武闘大会で、ロウリュウにやられた技だろう。
気配に気づいたアーマータイガーがこちらに振り向く。
と同時に……
バツンッ!
打撃音というより、破裂音が響く。
目の前にいたリャンリュウさんが、アーマータイガーの横にいた……
ドサッ!
アーマータイガーの巨体が倒れる。
ちょっと……
速すぎてよくわからなかったんだけど……
「どうです?」
「なるほどな。
【昇仙拳】で気を拳に集めれば、敵の内部に攻撃可能ってことか」
「確かに、【昇仙拳】なら防御力の高い外皮は無視できますね……」
「ほぅ……」
ぇ?
そうなの?
「そうです。
(一度見ただけで、ここまで技の特性を理解するとは……)」
そうなんだ。
やばいな、僕だけ全然わかってないっぽい……
その様子が伝わったのだろう、リャンリュウさんが話しかけてくる。
「今日狭間さんは見学です。
まだ狭間さんは走り込みがクリアできたばかりですからね。
それに、後衛職のステータスではまだ厳しいですから、見学し、【修道士】のジョブレベルを上げておいてください」
「はい! わかりました!」
う〜ん……
本当は戦いたかったが、何も見えなかったし、仕方ないだろう。
完全な実力不足だ。
我慢するしかない……
「ほぉ……悔しそうだな……」
フヨウが話しかけてくる。
「う〜ん……
悔しいというより、もどかしいなぁ……」
「いやいや、試合で負けたときより悔しそうだよ?」
そうか。
そうかも。
僕はクラールに言われて気がつく。
「確かに……試合で負けたときより悔しいね。
修行できないってのは悔しい……」
「そりゃケンらしいな……」
「では、1人ずつやってもらいましょう。
そうですね、ショーンくんから」
「はいよ。
とりあえず試してみるか……」
「あっちにもう一匹いますね」
「ウスッ! じゃ、いくぜ!」
キイィィィン……
ショーンが自分の拳を見つめ、そこに光が集まっていく。
ザッ!
ショーンは素早く踏み込むと、アーマータイガーの硬い外皮に拳を打ち込む。
パツッ!
小さな破裂音が響く。
「グォォオゥ!」
アーマータイガーがよろめく。
効いているようだ。
なるほど、あれが【昇仙拳】の気を使った攻撃か。
アーマータイガーが体勢を立て直そうとするが、すかさずショーンが連撃をする。
ドゴッ!
パツッ!
ドゴドゴッ!
打撃音と小さな破裂音が響く。
素早い打撃の中に【昇仙拳】が数発入るような形だろう。
「クソッ!
なかなかうまくいかねぇな!」
「いやいや……
恐るべき飲み込みの早さです……」
リャンリュウさんが少し引いている。
いつもの余裕が無いようにも見える。
「ハッ!」
パツッ!
パツッ!
ドゴッ!
パンッ!
あれ?
破裂音の割合が上がっている。
「早いとは思っていましたが、ここまでとは……」
「グゥォオゥッ!」
アーマータイガーが苦しそうだ。
よろよろと体勢を崩しそうになる。
「トドメだ!」
パツンッ!
大きな破裂音が響き渡る。
「ぉ、最後のはうまくいったな」
「参りましたね……
あなたにはすぐに教えることが無くなってしまいそうです……」
「へへ……」
ショーンは得意そうに笑う。
リャンリュウさんのリアクションを見ると、相当すごいっぽい。
ですよね。
僕なんて、まだなんの感触もないし……
「皆さん、ショーンくんの飲み込みの早さは異常です。
修行の目安には絶対にしないでください……」
ですよね。
あれで普通でしたら、僕のメンタルがやられてしまう。
僕たちは竹林を少し移動する。
アーマータイガーは、基本的に群れないのだろう。
また一匹だけでいる。
「では次はクラールくん、まずは素手で戦ってみてください。
倒せなくても構いません。
何か少しでも、感覚が得られればいいんです。
くれぐれも彼を参考にしないように」
彼というのは、ショーンのことだ。
「はい、わかりました」
キイィィィィン……
クラールの拳に光が集る。
サッ!
クラールはアーマータイガーに突っ込む。
パツッ!
パツッ!
パンッ!
パンッ!
パツンッ!!
破裂音が連続で続く。
「ぇ?」
「は?」
「なっ!」
あれってまさに【昇仙拳】じゃないか?
ショーンどころではない。
クラールは全部成功している……
昨日なんとなく感覚が出てきたとか言ってなかったか?
完全に使えるように見えるけど……
「ハッ!」
パツンッ!
おいおい……
そのうえ蹴りまで決める。
あれは脚に気を集めて攻撃ってことか?
「グオォォオオオ!」
ドスンッ!
アーマータイガーの巨体が倒れる。
「おい、やったな!」
ショーンとクラールは拳を合わせる。
「「「……………………」」」
僕、フヨウ、リャンリュウさんは唖然としている。
「【昇仙拳】って習得するまでに結構な時間がかかるんですよね?」
「えぇ……こんなことは初めてです……
彼は……クラールくんは、習得してさらに1年以上修行をしたかのように仕上がっています」
「ありがとうございます。
でも、威力はショーンよりだいぶ弱いですね」
「技の成功率はお前のほうが圧倒的だろ。
こういう技については、昔からクラールのほうが上手く使うんだよな」
「……あれ?
クラールって中衛って話じゃなかったっけ?」
「そうだよ。
だからショーンやリャンリュウさんのような威力は出てないと思う」
いやいや、下手な前衛より威力出てそうだけど……
「……………………」
フヨウは終始無言だ。
今日はずっと険しい表情をしている。
目の前であんなのを見せられたら、嫌になる気持ちはわかる……
「では……フヨウさん、やってみましょう……」
リャンリュウさんが気を取り直して、修行を続ける。
竹林の先には、また単独で行動するアーマータイガーがいた。
「ではいくぞ!」
フヨウはそう言うと、踏み込み突進する。
バゴッ!
ドガッ!
バキッ!
打撃音のみで、破裂音は無い。
【昇仙拳】は一切発動していない。
打撃による完全な通常攻撃だ。
バゴッ!
ドガッ!
バキッ!
「グオォォ!」
アーマータイガーが叫び、鋭い爪を振り下ろす。
ガッ!
フヨウは、片手でガードをし、素早く拳による反撃をする。
バキッ!
バキッ!
バキッ!
バキッ!
メキッ!
「おや……?」
リャンリュウさんが顎に手を当てる。
バキッ!
バキッ!
バキッ!
メキッ!
「これは……」
「グオォォウゥゥッ!」
アーマータイガーが苦しそうに声をあげる。
あれ?
【昇仙拳】が発動しているのか?
今までのような破裂音は全く無く、激しい打撃音だけが響く。
僕の目には【昇仙拳】が発動しているようには見えない。
バキッ!
バキッ!
バキッ!
メキッ!
ドゴッ!
ドガッ!
「グオォォウゥゥッ!」
ドサッ!
アーマータイガーが倒れる。
「おぉ!」
「……これは凄まじいですね……」
リャンリュウさんがまた感心している。
「フヨウも【昇仙拳】の習得ですか……」
参ったな。
結局僕以外の全員が【昇仙拳】を習得したことになる。
「……クソッ!」
あれ?
何故かフヨウは悔しそうだ。
「いいえ、違いますね。
彼女は完全に通常攻撃のみで、アーマータイガーを倒してしまったようです」
「えぇ!!」
倒れたアーマータイガーをよく見ると、これまでとは違い、外皮にひび割れがいくつも入っている。
武器無しではダメージが通らないんじゃ……?
「これも初めて見ました……」
リャンリュウさんは驚きを隠せないようだ。
「脳筋……」
ショーンがボソッとつぶやくと、フヨウが睨みつける。
「キミにだけは言われたくないな……」
狭間圏
【修道士:Lv32 (↑+32)】
HP:341/320【修道士】:+21
MP:7/722【修道士】:+21
SP:0/245(↑+7)【修道士】:-27
力:28【修道士】:+12
耐久:85【修道士】:+12
俊敏:46【修道士】:+12
技:20【修道士】:+12
器用:38【修道士】:-27
魔力:73
神聖:124(↑+1)【修道士】:+12
魔力操作:107
【回復魔法:Lv76(↑+1)ハイヒール:Lv39(↑+1)】
【etc.(55)】




