106日目(異世界)
「はぁ……はぁ……」
やっとだ。
やっと午前中に道場に到着することができた。
だけど、他の門下生はとっくに到着している。
ショーン、クラール、フヨウともに門下生たちと同じペースで走ることができるようになっているらしい。
一時間以上前に到着しているだろう。
そして、まるで食欲は無い。
むしろ吐き気がする。
序盤よりはかなり落ち着いたが、それでも走った直後は吐き気がある。
僕は水分だけを補給し、型の訓練に入る。
昨日自室で見た動画を参考にしてみる。
僕は息を吸いながら腰を落とし両腕を引く。
そして、下っ腹に力を入れて息を吐くと同時に拳を前に突き出す。
「スー……ハッ!」
こうかな?
いや、何か違う気がする。
やっぱりもっと腰を落とすのかな?
先程よりも、やや腰を落とす。
脚がきつい。
「スー……ハッ!」
違う気がするな。
ん?
そうだ!
僕は【空間魔法】で自分を外から認識する。
「スー……ハッ!」
そうか。
拳を出すときに、動画に比べて身体が動いてしまったんだ。
軸がぶれているのか……
他の門下生についても【空間魔法】で確認をしていく。
彼らは、どこか一本軸が通っているかのように安定している。
なるほど……
基本姿勢から、突きを出すとき軸を意識しよう。
そしてついでにショーン、クラール、フヨウの型についても【空間魔法】を使って細かく動きを見てみる。
おぉ!
すげぇ!
みんな軸がほとんどブレていない。
やはり、【体術】ではないといえ、前衛としての基本が身についているんだろう。
そして、クラールについては、門下生よりもきれいに型がきまっていると思う。
軸が全くブレていない。
まるでお手本のようだ。
というより、お手本にしてしまおう。
◇
「ほぉ……狭間さんも何かつかんだようですね……」
リャンリュウさんが言う。
この人は、見ただけでわかるのか……
「はい!
ですが、みんなに比べてまだまだです」
「仲間同士で切磋琢磨することはいいことですが、何も引け目を感じる事はありませんよ。
それぞれの得意分野があるわけですからね」
「はい!
ありがとうございます!」
まぁ型としては良くなっているんだろう。
だけど、それ以外何の手応えもない。
「これが気の流れってヤツか……?」
ショーンについては、昨日よりも【昇仙拳】を使いこなしているようだ。
拳の光が強くなっている。
「僕もなんだか拳に違和感が出てきたよ。
初日にショーンが言っていたことが、なんとなく分かる……」
マジかよ。
クラールも何かコツのようなものをつかんだらしい。
「……………………」
フヨウは険しい表情をしている。
僕と同じで何も感じていないのかもしれない。
◇
夕食の後、こっそり道場に来てみた。
このままでは、ショーン、クラールにどんどん差をつけられてしまうからだ。
「ハッ……!」
ん?
誰かいるな……
フヨウだ。
フヨウが昼間と同じ型の訓練をしている。
「やぁ、フヨウも型の訓練?」
「む?
ケンか。
そうだな……
ハッ……」
フヨウは会話しながらも型の訓練を続ける。
「キミもか?」
「そうだね。
このままだとあの二人に差をつけられてしまうから」
「そうか……」
無言のまま型の訓練を続ける。
朝の走り込み、午後の型の訓練で正直身体はきつい。
だけど、動けないほどではない。
「スー……ハッ!」
【空間魔法】で自分の動きを観察し、突きを出す。
薄暗い道場の中、呼吸と突きの音だけが響き渡る。
◇
限界だ……
立っていられない。
「フー……」
僕はその場にへたり込む。
フヨウは僕に目もくれず、訓練を続ける。
出会ったときからそうだが、彼女には余裕がない感じがする。
強くなるため、向上心があるのは悪くない。
だけど、時折思いつめたような表情を見せるんだ。
日本でのカミキさんは、よく笑う人だった。
日常のどうでもいいこと、そんな話をしただけでよく笑っていた。
フヨウとカミキさんの顔はよく似ている……というより、同じだ。
なのに表情が全く違う。
「どうしてそんなに強くなりたいの?」
僕は思ったままに聞いてみた。
「それをキミが言うのか?
私からすれば、魔法職のキミがこれほど訓練をしていることに違和感があるな」
「そうかな?」
「そうだな」
フヨウは相変わらず、無表情で型を続けながら話す。
僕の場合、日本で身体が動かないからな。
上位の【回復魔法】を習得するために強くなる必要がある。
あれ?
いやまてよ?
それなら、今の訓練は必要ないよな?
言われてみれば、魔法職の僕がこの訓練をしていることに違和感がある。
「なんだ?
言われて初めて気がついたのか?」
「……うん、そうみたい……」
「アハハッ!」
フヨウは型の訓練をやめ、その場に腰を下ろす。
笑った。
初めて彼女の笑顔を見た。
カミキさん……
カミキさんの笑顔と同じだ。
「そんなにおかしいかな?」
「いや、すまない。
ショーンが言う通り、キミはぶっ飛んだ人間のようだな」
「う〜ん……。
自分じゃよくわからないけど……」
「訓練で身体が限界なんだろう?
今日はこの辺にしておけばいい」
「いや、少し休んだらもうちょっとやるよ」
「そうか……」
その後、夜が更けるまで訓練を続けた。
狭間圏
【修道士:Lv0】
HP:324/319【修道士】:+5
MP:720/715【修道士】:+5
SP:0/236(↑+8)【修道士】:-30
力:28【修道士】:+2
耐久:85【修道士】:+2
俊敏:46【修道士】:+2
技:20【修道士】:+2
器用:37【修道士】:-30
魔力:73
神聖:123(↑+1)【修道士】:+2
魔力操作:106
【回復魔法:Lv74(↑+1) ハイヒール:Lv38(↑+1)】
【etc.(54)】




