101日目(異世界)前編
今日も朝からひたすら走る。
気のせいだろうか……
かなりきつい。
「……ぜぇ……ぜぇ……」
おかしい。
一昨日に比べ、昨日は走れるようになっていた。
疲労によりも体力がついたことで走る能力が上がったことが大きい。
それなのに、今日はまるで走ることができない。
体力強化よりも疲労のほうが大きくなってしまったんだろうか。
「……ぜぇ……ぜぇ……」
なんとか山の麓までたどり着いた。
……………………
山を見上げると、絶望感が襲ってくる。
ひたすら石の階段が見える。
「……まさか、この上?」
クラールも同じ感想のようだ。
「そうッス。
それより、みんな凄いッスね。
ここまで走って異常は無いッスか?」
「いや、何かおかしい……」
フヨウが顎に手を当て言う。
「体力の減りが早いな。
昨日よりも、疲労がある」
「確かに、僕もそれを感じてるよ」
フヨウとクラールは言う。
僕も同じ感想だ。
「……はぁ……はぁ……そう、だよね」
「そうか?」
ショーンだけはなんとも無いようだ。
「いやいや、その程度の変化ってのは凄いッスよ。
この先は昇仙山ッス。
体力の減りが早くて、なによりもSP回復が遅くなるッス」
「それは初耳だな」
「噂は本当だったんだね」
フヨウは知らなかったようだが、さすが博識のクラール。
なんでも知ってるな。
「この山を登ると、体力的にさらにきつくなるッス。
道場に着けばわかるッスけど、慣れるまではSPが完全に回復しなくなるッス」
「おいおい、回復しなくなるってマジかよ」
ここからさらにきついのか……
「だいたい、みんなここにたどり着く頃にはヘトヘトなんスよ。
何も感じないって人は、初めて見たッス」
ロウリュウはショーンを感心したように見る。
「体力が尋常じゃないってことだね」
「そういうことッス」
クラールにロウリュウが応える。
「まぁ何でもいいだろ。
さっさと行こうぜ」
ショーンはあくびをしながら言う。
彼にとっては、ここ数日はお散歩くらいだったのだろうか。
くそぉ……
僕だって体力を鍛えてやる。
◇
今度はひたすら階段を登る。
「……ぜぇ……ぜぇ……」
きっつい……
異世界補正が無くなったようだ。
異世界転移する前に戻った気分。
ただのきつい運動以外の何ものでもない。
「だいたいこのあたりからSPが回復しなくなるッス。
ここからは歩いて登るッス」
「……ふぅ、さすがにそのほうが良さそうだね」
クラールにも疲労が見え始めた。
フヨウも額に汗がにじみ出ている。
ロウリュウとショーンはなんとも無いようだ。
「なんだってSP回復がない場所で修行なんてすんだ?
技を鍛えられないだろ」
「SP回復がない場所だからって師匠が言ってたッス」
「なんだそりゃ」
「なんでも体内でSPを調整することが自然に身につくとかなんとか……
詳しいことは師匠に聞いて欲しいッス」
「まぁ特殊な場所であることには間違いなさそうだね」
「……はぁ……はぁ……」
僕は話に入れる余裕が全く無い。
とにかく頑張ってついて行こう。
◇
「……はぁ……はぁ……」
なんとか夕方には山の中腹くらいまで来られたようだ。
「見えたッス。
あれが道場ッス」
階段の先には大きな門が見える。
長かったな。
やっと修行ができる。
門から入ると、大きな石畳のスペースがある。
小さな小学校の校庭くらいはありそうだ。
ここで修行をするんだろうか。
奥に建物が見える。
屋根は赤く、瓦だろうか。
一階建てだが、横に長い。
中華っぽくも見えるし、沖縄にあんな建物があったような気もするな。
外には誰もいないな。
もう日が暮れるし、今日の修行は終わっているのだろうか。
「こっちッス」
建物の中に入ると、大きな部屋になっている。
道場だ。
体育館の半分くらいの大きさだろうか。
そういえば、こっちに来て靴を脱いで建物に入るのは初めてだな。
木製の床が少しひんやりとする。
外には人の気配が無かったが、中は少し暖かく、奥に人がいそうな気配がある。
「師匠に連絡してくるッス。
ちょっと待ってて欲しいッス」
ロウリュウはそう言うと、スタスタと中に入っていく。
「しかし、だだっ広いな」
「門下生はどこにいるんだろうね」
「別の場所に寮みたいなのがあるのかな?」
バゴォーン!
突然大きな音が響き渡る。
全員が音のなる方へ視線を向ける。
ロウリュウが吹っ飛ばされたようだ。
「がはっ!」
流血している。
「この恥晒しが!
負けた上に、そいつを門下生として連れてきただと?」
奥から男が出てくる。
背は小さく、目つきが鋭い。
160cmも無いんじゃないだろうか。
おかっぱのような髪型をしている。
服がロウリュウと同じってことは、門下生だろう。
ガスッ!
男はロウリュウを蹴り飛ばす。
「ぐっ!」
なんなんだ。
いきなり修羅場じゃないか。
男は僕らの方を一通り見る。
なっ!
突然こちらに突進してくる。
すごい速さだ。
ギリギリ目視できる。
ブワッ!
旋回しながら飛び上がる。
バゴッ!
ショーンに向かって蹴りを放つ。
おそらくものすごい威力だ。
ここまで風圧がくる。
ショーンはとっさに腕で防御をしたようだが、そのまま身体ごと吹っ飛ばされる。
ザッ!
ズザァーッ!
ショーンは身体を滑らせながら、体勢を整える。
「おい!
貴様、こんな雑魚に勝ったくらいでいい気になるなよ」
「は?」
「ち、違うッス!
俺に勝ったのはショーンじゃないッス」
なんだろう……
穏やかに修行ができる気が全くしないんだけど……




