99日目(異世界)
朝僕たちはポータルへ来た。
結構早く来たつもりだが、すでにフヨウがいた。
程なくして、ロウリュウとリャンリュウさんがやってきた。
「きっと来るだろうと思っていましたよ」
僕たちは、リャンリュウさんに軽くお辞儀をする。
リャンリュウさんがニコリと微笑む。
「厳しい修行になりますが、みなさんなら耐えられるかもしれませんね」
「では、ポータルから行くのはトイトイという町です。
そこから徒歩で昇仙山へ向かいます。
私は門下生の指導がありますから、先に行きます。
ロウリュウ、みなさんを案内して差し上げなさい」
「わかったッス!」
僕たちはポータルを通ると、トイトイという町に飛ぶ。
おぉ!
一気に中華っぽい町になったな。
なんというか、文明もちょっと前の時代というか。
魔石は共通で使われているんだろうか。
魔石が使われていれば、生活のレベルや様式自体は変わらないだろう。
「では、私は先に行ってきますね」
そう言うと、リャンリュウさんはスタスタと走り出してしまった。
なんだあれは……
猛烈に速い。
もう小さくなっている。
「おぉ……めちゃくちゃ速いね」
「師匠はあぁ見えてせっかちッス」
「……ありゃ相当つえぇぞ」
ショーンは走りを見ただけで強さがわかるのか……
まぁあの速さは尋常じゃないからな。
「それじゃ俺達も向かうッス。
最初は軽く走るんで、付いてきて欲しいッス」
僕たちはトイトイの町を背に走り出す。
◇
どれだけ走っただろうか。
町を出てからずっと同じ景色、荒野だ。
昇仙山というくらいだから、おそらく山に向かっているんだろう。
山なんて見当たらないんですが……
「……ぜぇぜぇ」
僕だけが疲れてきた。
「ケン、大丈夫かい?」
クラールが声をかけてくれる。
「そろそろ休憩をいれるッスか?」
「いや……もう少し大丈夫……」
異世界に来て、日本で普通に生活していたときよりはかなりステータスが上がっている。
今だって3時間くらい走りっぱなしだ。
1時間くらいしか走らないマラソン大会に比べれば、相当走れるようにはなっている。
ただ、この中ではダントツで体力が無いらしい。
「それじゃもう少し走るッス。
今日はできれば野営ポイントまで行きたいッス」
◇
「とりあえずこの辺りで休憩するッス」
「……ぜぇぜぇ……」
返事をしたいが、返事ができないほどに息切れしている。
「まぁケンは本来後衛だからな。
頑張って付いてきてるほうだろ」
「……ぜぇ……ぜぇ……ほんとに……申し訳ない……」
僕はなんとか呼吸を整える。
「それッス!
本来後衛って本当のことッスか?」
「そうだよ。
君も彼が治療室で回復をしているのを見ただろう?」
僕が息切れしているので、クラールが代わりに答えてくれる。
「いや、あり得ないッスよ。
だって手、爆発してたッスよ?」
「ぶっ飛んだ野郎だからな」
「はぁ……はぁ……ちょっと……水……飲むね……」
やっと少し話せるようになってきた。
僕は手から【水魔法】で飲水を出す。
「ゴクゴクゴクッ!」
かぁ〜!
染み渡るな。
「ふぅ……みんなも水が必要だったら言ってね」
「頼むよ」
僕はクラールたちに【水魔法】を使う。
ショーン、クラール、ロウリュウに水を与える。
フヨウはこちらを少し見ると、無言で振り返る。
喉は渇いてないんだろうか。
「キミは?」
「……結構だ」
なんだろう。
ちょっと棘があるよな。
嫌われてしまったんだろうか。
◇
それからさらに走り続ける。
キツイ……
部活動を思い出す。
でも、これから厳しい修行が待っていると思うと、いくらでも走れる気がする。
きついのに楽しみだ。
そのことが表情に出てしまったんだろうか。
「おい、ロウリュウ、ちょっと待ってくれ。
ケンが限界だ」
「……ぇ?」
「……ぜぇぜぇ、僕なら……まだいけるよ?」
「なるほど、こりゃ限界ッスね」
何を言ってるんだ?
まだまだ走れる!
行けるぞ!
「大丈夫、大丈夫!
さぁ!
走ろう!」
「お前、自分の顔見てみろよ」
「ケン、ほら鏡」
クラールが鏡を見せてくれる。
いつも【ストレージ】に鏡を入れているんだろうか。
クラールの手にある鏡を覗き込む。
!!
僕か?
目の焦点が合わず、よだれを垂れ流している。
さらにニヤニヤと笑っている。
完全に薬をやっている人の表情だ。
「えぇ!?」
自分の表情に気がつくと、ぱっと元の表情に戻る。
「それさ、どういう感情なわけ?」
ショーンが呆れて聞いてくる。
「いや、苦しいんだけど、これから修行が待っていると思うと……」
「ははは……」
クラールが苦笑いしている。
◇
日が暮れる頃になんとか野営地に到着する。
「今日はここで野営をするッス。
このまま行けば、明後日には到着するッスよ」
「……はぁ……はぁ、申し訳ない」
僕が遅いので、今日はここで野営だ。
フヨウからの視線が痛い。
明らかに不満そうだ。
もっと進みたかったのだろう。
身体の節々が痛いので、【ハイヒール】を使っておく。
魔法は発動しているので、多少は効いているようだが、疲労は回復できないらしい。
疲労を回復する【回復魔法】ってのは無いんだろうか。
「クラールって後衛だよね?」
「う〜ん。
後衛っていうよりは中衛かな。
前衛ってわけじゃないけど」
「なんでそんなに体力あるの?
息切れしてないよね」
「息切れが美しくないからかな」
なんだそれ。
答えになってないし。
「ぁ、もしかして服に息切れ防止の魔石があるとか?」
「いや、そんな魔石は無いよ。
あったら大金を使ってでも欲しいね」
単純に体力があるということか。
ステータス的には耐久が影響していると思うんだけど。
肉体の疲労はあるけど、HPやMPが残ってるんだよな。
もったいないから使ってから寝たい。
「今日はMPが凄い残ってるんだけど、いつもの頼んでもいい?」
「今日もやるの?」
僕はクラールにいつもの訓練をお願いする。
「うん、少しでも耐久があったほうが明日走るのも楽になると思うし」
「今日は【光属性】の攻撃がいいかな?」
「いや、僕あれだけ【風魔法】使うのに、【風耐性】は持ってないんだよね。
だから【風属性】の攻撃を頼むよ」
「わかった。
ショーンはどうする?」
「もちろんやるぜ」
いつも訓練場でやる訓練を荒野でおこなう。
「じゃ、いくよ!
【旋風撃ち】!」
風をまとった矢が飛んでくる。
ぐるぐると螺旋状に向かってくるため、軌道が読みにくい。
ガツッ!
なんとか盾で受け止める。
ブシュッ!
が、【風属性】の効果だろう。
矢の周囲から、かまいたちのように風が全身を切り刻む。
盾に刺さった矢が消える。
【魔弓士】の矢は実体がない。
矢を用意しなくても、攻撃できるのが大きなメリットだそうだ。
SP消費が激しいらしいけど。
あとはできる限り回避の訓練も同時にしておきたいところだ。
できたら回避、できなければ盾で受ける。
俊敏、耐久、HPを同時に上げつつ【風耐性】を習得できれば理想的だ。
「おぉ!
面白いことしてるッスね!」
「お前もどうだ?
一日の終りにSPが余っているのはもったいないだろ。
クラール、いいよな?」
「問題ないよ」
ロウリュウは腰を落とし、構える。
「それじゃいくよ!」
「ハッ!」
矢に向けて突きを放つ。
するとクラールの矢が消滅する。
「驚いたな。
突きで矢を相殺するとは……」
「ぎりぎりッス。
本気を出されたら無理ッスね……」
「(本気じゃないのはわかっているのか……。
たいした使い手だな)
それじゃこのペースで撃つよ」
「なるほど、撃ち落とすのも面白そうだな」
ショーンも避ける動作から、槍で矢を撃ち落とす動作に変える。
僕は無理だ。
直撃を受け止める。
余裕があるときだけ避ける。
これ以外の回避行動は無理。
撃ち落とすとか、尋常ではない。
さらに今日は限界まで走ったため、動きがいつもより鈍い。
身体が思うように動かない。
「……………………」
フヨウは僕たちの訓練を無言で見ている。
「フヨウさんも一緒にどう?」
「私は結構だ。
馴れ合いに来たわけではない」
あらら……
なんだか言い方に棘があるよな。
やっぱり嫌われているんだろうか。
フヨウはそう言うと、スタスタと立ち去ってしまった。
狭間圏
【盾戦士:Lv★】
HP:439/309(↑+2)【盾戦士】:+130
MP:11/666【盾戦士】:-10
SP:6/168(↑+3)
力:28
耐久:83(↑+2)【盾戦士】:+65
俊敏:45(↑+1)【盾戦士】:-15
技:20
器用:28(↑+1)【盾戦士】:-20
魔力:70【盾戦士】:-5
神聖:117(↑+1)【盾戦士】:-5
魔力操作:92【盾戦士】:-15
【回復魔法:Lv66(↑+1) ハイヒール:Lv29(↑+1)】
【盾:Lv23(↑+1) ガード:Lv14(↑+1)】
【ストレージ:Lv44(↑+1)】
【毒薬生成:Lv17(↑+1) 毒草生成:Lv31(↑+3) 薬草生成:Lv19(↑+2)】
【etc.(46)】




