93日目(異世界)中編
第四戦線は草原だった。
見晴らしが良く、気持ちがいい。
第三戦線は乾燥しており、暑苦しかった。
埃っぽかったし。
それに対して第四戦線はとても気持ちがいい。
魔物さえ出てこなければ人間が生活するのに適しているだろう。
「おぉ、いいところだね」
「そうだな」
ショーンもクラールも第四戦線は初めてのようだ。
僕と同じく周りをキョロキョロと見回している。
ポータルの近くにはテントがいくつかある。
ここには建物は無いのだろうか。
「あの一番大きいのがギルドじゃないかな?」
「しかし、見晴らしが良いな。
魔物が来たら一発でわかるんじゃないか?」
「そうだよね。
魔物が大量にいるって話だったけど、今は平和っぽいね」
冒険者らしき人たちも何人かいる。
「とりあえずギルドで情報を集めよう」
僕たちは一番大きなテントへ向かう。
ギルドの看板が出ているので、このテントがギルドで間違いないようだ。
中には20人くらいの冒険者達がいた。
第四戦線にいるということは、全員がかなりの手練だろう。
「どうすんだよ?」
「どうするって今回無理じゃないの?」
「MP全快なのに……残念ね」
なんだか揉めているようだ。
「なにかあったのかな?」
「さぁな。
あそこで聞いてみればいいんじゃねぇか?」
ショーンが親指でクイッとカウンターを指す。
「そうだね。
行ってみよう」
受付にはキレイな女性がいた。
ギルドなんて男ばっかりだと思っていたのに珍しいな。
というより、よく見ると周りの冒険者も女性が多い。
こんなのは初めてだ。
「なにかあったんですか?」
「今から狩りに行く予定だったみたいよ?」
「だった?」
「あぁ、釣り役の斥候が負傷しちゃったってわけ。
【回復魔法】である程度治ったみたいだけど、あそこまで酷いとしばらくは安静って感じよね」
「なるほど、そうだったんですね」
釣り役?
狩場で釣りってどいうことだ?
ショーンとクラールはわかっているようだけど、よくわからないな。
「あなたたち、ちょっとギルドカード見せてもらえる?」
「あぁ、構わないぜ」
僕たちは受付の女性にギルドカードを渡す。
「あぁ、三尾を倒したルーキーね」
僕は新人だが、ショーンやクラールもここだと新人にあたるのだろうか。
「前衛と中衛、後衛の三人ね。
バランス良さそうね。
どう?
あっちに参加してみる?」
「今参加できれば効率はいいね。
ショーン、釣り役ってやったことある?」
「あぁ、何度かあるけど、大した狩場じゃなかったぞ」
えっと、釣り役ってなんだろう。
僕だけ置いてけぼりだ……
「あんたたち!
ここのルーキーが三尾討伐した奴らだよ!」
受付の女性が、こちらの許可なしに冒険者達に大きな声で言う。
「おい!」
ショーンが慌てる。
「なんだって!?」
「あら、可愛い坊や達ね……」
冒険者達がざわつく。
「やぁ、それは本当か?」
体格の大きな盾戦士が声をかけてくる。
30代だろう。
重厚な装備にいくつも傷がついている。
歴戦の戦士っぽい感じがでているな。
「えぇ、つい先日討伐しました」
「それはすごいな。
どうだろう。
僕たちのパーティに参加してみないか?」
彼がリーダーだろうか。
女性ばかりのパーティだと思っていたが、前衛の戦士は全員男性だな。
「こちらとしては、ありがたいのですが釣り役が不足しているんですよね?」
「そうだ。
負傷してしまってな。
既に傷は回復しているのだが、しばらくは起きないだろう」
「なぁ、本格的な釣り役って【盗賊】とか【斥候】の役割だろ?
俺は【流水槍術士】だぞ」
「【挑発】系のスキルはあるか?」
「あぁ、【挑発】は持ってるぜ」
「そうか。
軽い狩場から試せば問題ないだろう。
どうだ?」
僕たちは顔を見合わせる。
クラールがうなずく。
「わかりました。
参加させていただきます」
「そうか、よかった。
では説明をさせてもらおう。
俺はリーダーのガインだ。
よろしくな」
「おい!
今日の狩りができそうだ!
少々の変更があるが、柔軟に対応してもらいたい!」
テント内がざわつく。
「金髪の坊やが可愛いわぁ……」
「あら、あのツンツン坊やも悪くないわよ」
「あんな坊やたちで大丈夫かしら」
「あぁ、すまんな。
狩りの特性上魔法がメインになるからな。
女性が多いんだ。
若い君達には刺激が強いかもしれん」
「いえ、問題ありません」
クラールが爽やかに答える。
「「…………………………」」
問題が無いのはクラールだけだ。
僕とショーンは正直やりにくい。
「こっちに来てくれ」
「はい」
僕たちはガインさんについていく。
「ここ第四戦線は見ればわかる通り平野だ。
北へ行けば、第三戦線。
西、東、南の順に魔物が強くなる。
今日は初めてだし、西の狩場へ行く」
見渡す限りの平野で、方角がよくわからないな。
以前ノーツさんが使っていた【方位】のスキルがあればわかるんだろうか。
「それから君たちの魔法やスキルについて教えてくれ」
僕たちはそれぞれの魔法やスキルについてガインさんに説明をする。
「なるほど。
戦力としてはありがたいな。
キミのメインは槍のようだが、ステータスとしては釣り役でも問題ないだろう」
「あぁ、やってみるよ」
「それから【魔弓士】のキミは全体攻撃をメインに使ってくれ」
「はい、わかりました」
「キミは【エリアヒール】がメインだな」
「了解です」
「では、陣形について説明しよう」
「ここは安全地帯でな。
西へ行けば徐々に魔物が増えてくる。
ある程度魔物が出る場所まで行ったら、陣形を組む。
陣形は単純だ。
俺たち盾戦士が前面に出て、後ろに弓などの中衛、魔法メインの後衛が一箇所に固まる。
そして、釣り役が周辺を走り回って【挑発】を使い倒す。
ある程度魔物を引っ張ってきたら、陣形の前面、盾戦士の後ろへ来てもらう。
あとは【盾戦士】も【挑発】系スキルを使い続け、魔法で集中砲火。
釣ってきた魔物を一掃するわけだ」
「なるほど」
「確かに効率はかなり良さそうだな」
マジかよ。
それって釣り役かなり危なくないか?
「それで、回復役のキミは前衛にひたすら【エリアヒール】と【補助魔法】を頼む。
余裕があれば、攻撃魔法を撃っても構わない。
単体よりも範囲攻撃魔法が有効だ」
「わかりました」
「それから万が一だが、前線が崩れたら全力で逃げろ。
【転移】の魔石をいくつか所持しているから大丈夫だとは思うがな」
「わかりました」




