93日目(異世界)前編
「武闘大会ですか?」
「えぇ、今月も王都で開かれるようです。
うちの教会からも一人出しておこうと思いまして」
今日は朝からイヴォンさんに呼び出され、応接室へ来ている。
武闘大会ってショーンが優勝したってヤツだよな。
毎月開かれるのか。
しかしなんで教会から?
「あぁ、大会に選手として出場するわけではありませんよ。
回復要員です」
「なるほど、そういうことでしたか」
てっきり出場するのかと思った。
まぁちょっと出てみたい気はするけど、前衛のステータスはほとんど育っていないからな。
出場してもすぐにやられてしまいそうだ。
「毎月行われる武闘大会では、いくつかの教会から回復要員が出向します。
教会は基本的に街から優遇されていますからね。
その分、領主へ魔石を優先的に売ったり、武闘大会など回復要員が必要な場合は人員を派遣しなければなりません」
「そうなんですね」
「それからギルド貢献度も合わせて上がります。
今狭間さんの貢献度はいくつですか?」
「4ですね」
ギルド貢献度とは、ギルドカードの裏に記載されているものだ。
ランクのような意味合いもあり、どれだけギルドに貢献したかが数値でわかる。
ちなみに今の僕の貢献度は4。
ダブルヘッド討伐の要請クエストで1、第三戦線での狩りで1、ボスの三尾を倒したことで2上がった。
各戦線は魔物を一定以上倒し、それを素材とともにギルドに報告するだけで貢献度が上がる。
戦線で魔物が殲滅できれば、人間の生活領域が広がるため、ボスを倒すだけでなく狩りをするだけであがるんだ。
「今回の武闘大会は4日間あります。
予選が2日間と本戦が2日間ですね。
報酬は通常通りですが、4日間で貢献度が1上がるのはなかなか効率が良いと思いますよ。
新人には割のいい仕事ですし、狭間さんならMPが途中で尽きることはないでしょう」
「そうですね。
第三戦線での修行も一区切りできましたし、是非参加させていただきたいです」
「それはよかった。
予選は明後日からですので、それまでは今まで通り【オートヒール】の魔石生成と補充を中心にお願いします」
「あの、ちなみにですが、回復要員として参加しつつ、選手として出場することは可能なのでしょうか」
「そうですね。
今までそういったお話は聞いたことがありませんが、禁止はされていませんので可能だと思います。
参加するんですか?」
「どうでしょう。
参加はしてみたいですが、前衛のステータスは育っていないのですぐに負けてしまいそうですよね」
もし参加するとすれば、俊敏が圧倒的に足りないよな。
まぁ優勝者のショーンに少し話を聞いてみよう。
◇
その後いつも通り騎士訓練所で【オートヒール】の魔石生成をする。
「【ホーリーアロー】!」
「ぐっ!」
ついでに【光耐性】も上げておきたいので、クラールに【ホーリーアロー】でHPを削ってもらう。
僕は魔石を握りしめ、痛みに耐える。
「……はぁ、はぁ。
何か、この前より威力上がってるよね?
こっちも【光耐性】が上がってるのに、ダメージが増えてるよ」
「そうだね。
昨日三尾を倒したことで、ステータスが結構上がったから」
「なぁ、お前本気で武闘大会に出る気か?」
「やっぱり無理かな?」
武闘大会について、ショーンの意見を聞いてみた。
「まぁなぁ……
お前の自爆技あるだろ?
【フレアバースト】だっけ?
あれがあれば、力の低さはカバーできるだろうが俊敏はどうにもならないぞ。
攻撃が当たらないんじゃないか?」
「やっぱりそうだよね」
対人戦はやはり俊敏が重要なのだろう。
ジョブを斥候にしたところで、僕の俊敏はたかがしれている。
「ぁ、そうだ。
そういえば昨日【風刃】っていう【風魔法】を習得したんだよ。
試してみるか」
新しく習得した技はなんとなくだが、どんなものだかわかる。
特に三尾戦では、なぜかはっきりと認識できた。
ショーンやクラールもいきなり使いこなしていたしな。
【風刃】については、おそらく【エアブレード】の上位技だと思う。
「【風刃】!」
シャッ!
やっぱり【エアブレード】と同じだ。
ただし、効果範囲がやたらと広い。
【エアブレード】が1mくらいの幅だが、【風刃】は3mくらいの幅がある。
奥行きも【風刃】のほうが【エアブレード】よりもあるな。
魔物が密集していれば、範囲攻撃としても使えるか。
便利は便利そうだけど、幅と奥行があると、自室で強化するのが難しいな。
外に向かって連発すれば、なんとかいけるか?
!!
ぁ、これいけるかも。
対人戦でも工夫をして戦えば、低い俊敏をカバーできるかもしれない。
「ちょっと考えたんだけど、試していいかな?」
「ん?
あぁ、なんかわかんねぇけどやってみろよ」
◇
「どうかな?」
「おぉ〜……
ケン、考えたね」
「いや、たしかに勝てるかもしれねぇけど、ちょっと卑怯じゃないか?」
「いや、戦略的だよ。
僕はこういう戦い方は好きだな」
「なんだかなぁ。
武闘大会ってのはもっとこう……技と技ってのか?
そういうのを競い合うんだよ」
「それは前衛の戦い方だろう?
ケンは自分のスキルとステータスを活かした戦い方をしただけだ。
少なくとも、ギルド関係者や冒険者からは評価されると思うよ」
「まぁな。
んで、どうすんだ?
出場すんのか?」
「そうだね、これでどこまでいけるか試してみたいよ」
「予選は明後日からだろ?」
「そうみたい」
「まずいね、時間がほとんどない。
すぐに狩場で仕上げたほうがいいよ。
今日も第三戦線に行こうか」
「おぉ、ありがとう。
付き合ってくれるの?」
「もちろんだ」
「今はやることねぇしな」
◇
その後僕たちは第三戦線で狩りをした。
どうやら、ボスを倒したことで雑魚の湧きが減ってしまったようだ。
第三戦線での狩りは、ギルド貢献度を上げることができる。
その理由の1つとしては、魔物の数が減るからだ。
狩場では、魔物は湧き続ける。
けれど無限ではない。
狩り続ければ徐々に減っていくし、ボスを倒すと明らかに湧きが減る。
それを繰り返すことで、魔物が出現しなくなり、人間が生活できる領域が広がるんだ。
だから第三戦線での狩り、特にボスを倒すとギルド貢献度が上がる。
だけど今回は微妙だ。
魔物が少ないので、【斥候】のジョブの上がりが悪い。
「やっぱり魔物が少ないね」
「昨日ボス倒したばっかりだからな」
「第四戦線ってどうなんだろう?」
「どうだかな。
聞いた話だと、魔物自体はそこまで強くないらしいぞ」
「そうだね。
ただ、多人数でいかないとどうにもならないらしいよ。
3人パーティでは厳しいと思う。
かといって第五戦線以降は、王国が指揮するレベルだからね。
第四戦線の様子だけ見てみる?」
「そうだね。
どんな場所なのか知りたいし」
「じゃ、行ってみるか」
申し訳ありません。
プロットの細かいところにやや迷いがあり更新が遅れました。
今後ともよろしくお願いします。




