92日目(異世界)前編
「いるね、明らかに大きいのが一体……」
「三尾ってやつだね……」
僕たちは第三戦線奥の狩場に来ている。
これ以上近づくのは危険なので、こっそり僕の【パーセプション】で様子をみる。
大きな反応が一つ、これが三尾、この狩場のボスだろう。
尻尾が3本生えている大きな炎狐だ。
「しかしケン、いつの間に【空間魔法】なんて習得したんだよ」
「最近だよ。
まだ【パーセプション】しか使えないんだ」
「いや、充分だよ……
それで、他にもいる?」
「うん、おそらくだけど全て炎狐だね。
1、2、3、……全部で11匹だ」
「やっかいだな。
いや、爆弾小僧がいないだけまだマシか……
クラール、さばけるか?」
「いけるよ、時間はかかるけどね。
ボスはショーンに任せる」
単純な作戦だ。
ショーンは三尾と一対一。
クラールが雑魚を殲滅し、僕が回復と補助。
危なくなったら、クラールが【転移】の魔石を使って200m後退、その後全力で逃げる。
ちなみに朝【ポーション生成】をしておいた。
各自ポーションを持っている。
といっても、ポーションは戦いの最中では使えない。
気休めだ。
それから、一人2個ずつ【オートヒール】の魔石を持っている。
準備万端だ。
「よし、行こう。
ケン、補助を頼む」
僕はクラールにうなずき、【プロテクト】【バイタルエイド】をかけていく。
「行くぜ!
【清流槍】!」
ショーンが一体だけいる大きな炎狐に突っ込み、いきなり大技を使う。
バシュッ!
不意打ちだったこともあり、完全に一発入る。
「【アイスアロー】!」
クラールもそのタイミングで【アイスアロー】を炎狐に撃ち込む。
奴らがこちらに気づき、一斉に攻撃を始める。
【炎魔法】だ。
ボワッ!ボワッ!ボワッ!
1匹倒したところで、残りの炎狐は10匹もいる。
次々に【炎魔法】を撃ってくる。
「【ハイヒール】!【ハイヒール】!【ハイヒール】!」
僕は【マルチタスク】で【ハイヒール】を連発する。
こちらの回復速度を上回る勢いで【炎魔法】がくる。
「クソッ!
こいつ素早いぞ!」
ショーンが巨大な炎狐に槍を放つが、直撃は免れている。
さらにショーンの攻撃をかわしながら、鋭い爪で攻撃をしている。
炎狐とは違い、物理攻撃もガンガンにやってくるようだ。
「【ハイヒール】!【ハイヒール】!【ハイヒール】!」
バックン!
バックン!
心臓の鼓動が激しい。
これが強敵との戦い……
僕の回復速度を上回る【炎魔法】のため、徐々にHPが減る。
しかし……
「【アイスアロー】!」
クラールが確実に炎狐を仕留めていく。
ショーンと三尾が一進一退を繰り返している間に、確実に数を減らす。
「【ハイヒール】!【ハイヒール】!【ハイヒール】!」
僕の回復が間に合わず、同時に【オートヒール】が発動する。
そのタイミングで、敵の攻撃速度を僕の回復速度が上回る。
炎狐が残り5匹になった。
「よし!
いけるよ!
僕の回復のほうが早い!」
「【アイスアロー】!
あと4匹!」
「いいぜ!
こっちもタイミングがつかめてきた!
【濁流槍】!」
バシュシュシュシュッ!
ショーンが水しぶきとともに三尾に【濁流槍】を繰り出す。
よし、このままいけば押し切れる!
ダッ!
その瞬間、三尾が距離をとる。
「コォォォオオオン!」
三尾の雄叫びと共に、周りに40cmくらいの炎がいくつも浮かび上がる。
「おい!
なにか来るぞ!」
ショーンも一旦距離を取る。
僕は構わず回復、クラールは炎狐の殲滅をしながら警戒をする。
「まずいぞ!
最悪だ!」
浮かび上がった炎がうずまきながら、炎狐に変わっていく。
せっかく減らした炎狐がまた8匹ほど出現する。
「おいクラール!
どうする!?」
「まだいける!
戦おう!」
まだ【オートヒール】の魔石も残っている。
このままいくとジリ貧だが、その前に仕留めることができるかもしれない。
「【ハイヒール】!【ハイヒール】!【ハイヒール】!」
僕はとにかく回復を連発する。
クソッ!
気を抜くと集中が途切れ、回復が遅れそうになる。
集中だ!
一瞬でも回復が遅れたら、もう戦えないだろう。
「【アイスアロー】!」
再びクラールが炎狐を仕留め、数を減らしていく。
その間、【オートヒール】の魔石が消費され続ける。
そろそろ1つ分は消費されるだろうか。
「コォォォオオオン!」
「やべぇ!
まただ!」
かなりまずい!
さらに炎が浮かび上がり、8匹の炎狐が出現する。
「【ハイヒール】!【ハイヒール】!【ハイヒール】!」
頭が痛くなってくる。
明らかにキャパオーバーだ。
回復が追いつかないぞ!
「すまない!
もう少し!
もう少しなんだ!」
クラールが叫ぶ。
【転移】の魔石は使わないのだろうか。
何がもう少しなんだ?
「わかった!
おいケン!
踏ん張れぇ!」
「【ハイヒール】!【ハイヒール】!【ハイヒール】!」
炎狐の数は15匹くらいいる。
「まずいよクラール!
限界が近い!」
頭がさらに痛くなってくる。
思考が鈍るが、回復の優先順位を間違えられない!
「きた!
新スキルの習得だ!」
新スキル?
「すぅー……」
クラールは目を閉じ、大きく深呼吸をする。
ちょっと待ってくれ!
そんなことをやっている余裕はないぞ!
大きな弓を真上に構える。
彼が矢を引くと同時に、弓と矢が青白く光る。
……なんだ?
とても美しい光だ。
時間がゆっくり進むような錯覚に陥る。
くる!
何かくるぞ!
「【アイスレイン】!」
クラールがそう言うと、矢を放つ。
弓からは青白い矢が無数に天空に向かって伸びていく。
天空に伸びた矢は、放射状に散っていき、全ての炎狐めがけて飛んでいく。
ヒューン!
タタタタッ!
ピキピキッ!
全ての炎狐に矢が刺さり、凍っていく。
一瞬で全ての炎狐が殲滅された。