陰陽師の女の子 2
「こんなところに何の用で来たのか、聞いてもいいかしら?」
「ん? それはお前らがよく知っているんじゃないのか?」
「国外退去処分にでもあった?」
カオルが言うと、神谷は大きく笑い飛ばした。
「いいジョークだ。だが、違うな。俺は人探しで来たんだ。多分お前らもだろ? カオルだけならまだしも、ラディまで来て二人がかりだ。おそらく、目的の人物は同じだろうな」
「隠しようが無いだろうから腹割って話すわ。お前たちはその子を見つけてどうするつもり?」
「殺す」
表情を変えずにそう言った神谷を前に、カオルのこめかみからは汗が一筋流れた。
「冗談だよ。お返しのジョークだ。そんなに焦るなよ、なぁ、カオル」
コートのポケットに入れた手を上に向けて、神谷は笑った。
「会ってみてだが、今のところ命にまで興味はない。だが、必ず会って我々ファクトリーにまで来てもらう必要があるんだ。どうだ? お前らの目的と相反するか?」
「あぁ、がっつり相反してるな。悪いが止めさせてもらうぞ」
「どうするつもりだ? まぁお前らが何しようとも、俺はお前らがここに来ているのも、目的が相容れないものだというのも予想していた。だから、お前らのしやすいようにしてやるよ」
「……なに?」
神谷の発言の直後、遥かに遠くで爆発音が響いた。そして連鎖的に爆発音が続き、ラディはその音が滑走路で起きているのに気がついた。
「先輩! これ、滑走路の方で爆発が起きてますよ!」
「な、なに!?」
「さすが、耳がいいな。当たりだよ」
「やめろ、神谷!」
カオルが叫んだが、神谷の口元から笑みは消えなかった。
「いいや、まだダメだ。まだ、色々邪魔なものがあるだろ?」
次はさっきよりも近くで爆発音が聞こえ、振動で建物が大きく震えた。成田の第二ターミナルが爆発しているのが遠目に見えた。
「やめろ、神谷! ここには多くの人がいるんだぞ!」
「だからこそ、吹き飛ばすんじゃないか。いろんなものが無くなれば、お前らも戦いやすいだろ? 人を巻き込むのが嫌だから戦わないというのなら、俺がその汚れ役を担ってやるってことさ」
カオルとラディがいる第一ターミナルの一部が爆発した。二人の目からも飛び散る粉塵がかすかに見えた。人々の悲鳴と怒号、燃え上がり崩れ始めた建物を見て、カオルは戦慄した。
「さぁ、ここが仕上げ──「させない!」「なにっ!?」
神谷が声高らかに宣言したその瞬間、巨大な風の刃が彼をめがけて突き抜けた。新庄も間一髪で避け、その風の発生元を探した。
「お前がこの爆発の犯人だな! 許せない、覚悟しろ!」
ブレザーの制服を着た女の子がそう言うと同時に、神谷に向かって駆け、右手に持つスマートフォンを操作した。その画面には札が写し出されていた。
「くらえ、炎弾!」
手のひらを前に突き出し、その手の先から炎の塊が噴き出し、神谷めがけて発射された。
しかし直撃寸前のところで神谷の前に新庄が立ちはだかり、その炎の塊を拳で打ち消した。
「ぐっ……これは……」
しかしとっさの行動で拳を保護せずに打ったために、彼女の手は焼けていた。
「神谷様、ここは一旦引いたほうが……。まさかターゲットがこれほどとは」
「そうだな。また準備をしてからお目にかかるとしよう。……これで包め」
「神谷様……」
神谷はハンカチを新庄に手渡し、彼女の前に出た。
「お前があの元綱の孫娘か。なかなかだ、そして正直侮っていたことを詫びよう。我々とともに来てもらうつもりだったが、今日はここで失礼するよ。大切な部下が手負いになったのでな。……カオル、また日を改めて」
そう言うと二人は煙に紛れるように姿を消した。
「ふぅ、なんとか引いてくれてよかった。……あ!」
思い出したように彼女は再びスマートフォンの画面を開くと、先程とは別の模様の札を表示した。
「舞え、玄武」
彼女の前にしっぽを生やした巨大な半透明の亀が現れ、のっそりと壁をから天井まで走り、火の付いたターミナルを消火していった。
そして亀が他の場所へ消えると、「よし!」といって女の子は腰に手を当てた。そして、スカートを翻してカオルとラディを振り返った。
「あ、先輩、この子ですよ」
「……だね」
ローファーの靴音を鳴らしながら軽快に二人の前に女の子がやってくる。そして二人の顔をニコニコと見た。
ラディが声を出す。
「私達、システムからあなたの迎えに来たんだけど……」
「やっぱりそうですよね、だと思った!」
彼女は更に笑顔を見せ、自己紹介をした。
「私、土御門京です。システムまで、よろしくお願いしますね!」




