ラオ
新幹線の中。彼女は外を見る。景色は早く流れすぎていたし、それをゆっくり眺めるほど体力的に余裕はなかった。もちろん目を凝らせば見えるのだろうが、あえてそんな疲れることはしない。
彼女、ラオはもうすでに自分の体力が何かしらの娯楽に使えるほど残っていないのはちゃんとわかっている。現状をキチンと把握すること、それも自分の仕事の一つなのだ。海外派遣組よりは楽ではあるが、一ヶ月の長期任務は流石に疲労困憊だった。時折仄かな揺れが彼女を眠気に誘っていた。
ふと目を開けるとそこは東都駅だった。新幹線を下車し、キャリーケースを引きながら南下り口を降りると、夜の帳が降りたターミナルへ出た。タクシーを拾って彼女は組織へのルートを運転手に指定した。
ラオはまたもやタクシーから見える景色を眺めた。さっきよりもゆっくり流れる景色は、今度は繊細に景色を映し出す。多くの企業の看板が残像を引きながら後方へ流れていく。ラオの瞼はゆっくりと重たげに下がり、そして彼女はいつしか眠りに入った。
夢を見ている。ラオは、そう思った。
ラオの産まれは誰も知らない。ラオ本人にも。いつ産まれたかもはっきりしないが、両親の顔と生業だけは知っていた。
東南アジア、インドネシアでシャーマンをしていた両親とともに多くの村々を周り、そして彼女もその後を継ぐつもりでいた。しかし二年前の仕事であたった悪霊が悪かった。母は死に、父は重症を負い今でも病院で意識を失ったままだ。命からがら逃げ出した彼女はたった一人で山の中を彷徨い、約二日後に救出され、完治する前に病院から逃げ出した。
意識のない父と死んだ母に、かつての悪霊への復讐を誓い鍛錬をしているときに組織にスカウトされた。
そんな彼女の背景のためか、他のメンバーとの交流は少ない。覚悟が違うのだ、といつも彼女は自分自身に言い聞かせながら、身体に鞭を打って過酷な任務に勤しんできたのだ。
そうして夢から覚めるとちょうどそこは組織の入るビルだった。ラオはクレジットカードで運賃を払い、タクシーのトランクから出したキャリーケースを引き、そして建物へと消えていった。