表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/52

ケルベロス・システム 1

「おねぇちゃん。ぼく、ずっとおねえちゃんの側にいたい」

「大丈夫よ。カリムがそう思い続けてるから、私はずっと側にいるよ」


 嘘つきだ。お姉ちゃんは死んだ。僕の側にいると言いながらいなくなった。真っ暗なんだよ、僕の周りは。昔、あれだけ光に当てられてたから,

とても余計に暗く感じるんだよ。


お姉ちゃん……。


・・・


 システムは新たな監視デバイス、ケルベロス・システムを手に入れ、ヤミの発見をいち早く行うことができるようになった。先日のベスパの倒したヤミも、発現から何十分と立たないうちに発見し、迅速な撃退を行うことができた。このシステムは、東都中を縦横無尽に飛び回る監視ドローンを一括管理しているシステムであり、システムに移管されるまでは、防衛庁の管理下であった。

 これだけの膨大な情報量を常に監視してメンバーに的確な指示を出しているのが、カリムだった。彼は一日自室でモニターを行い、司令室の職員へ情報を流している。彼の一日は自室に始まり自室に終わる。不健康そのものの彼の血色がいいのには、それなりの理由があった。


「カリム、お疲れ」

「カオル」


 休憩時間にカオルがやってくると、彼の血色はとたんに良くなる。彼はカオルが好きなのだ。


「今日は平和のそのものだよ。ケルベロスにも何にも映らないし、今日は僕の出番はないかもね」

「それならいいけど、監視はちゃんとしてよ。あんたがちゃんとしないと、他のみんなではこのシステムは使えないんだから」

「分かってるよ」


 車椅子を動かして、ソファに座るカオルの横に移動する。いつもカリムはこうする。一分一秒、カオルの傍で過ごしたいのだ。

 韓国時代に家族からの愛を充分に受けていた彼が体験した事故後の愛情の格差は、切れ味のいいナイフで身を切られるほどに辛かっただろう。そして彼に唯一人愛情を注いだ姉も死んだとき、彼はこの世の地獄を味わった。もう何も存在しなくていい、自分というものが瓦解していくを音を彼は聞いたのだ。


()()()()()()()()()()()


 彼がシステムにスカウトされ日本でカオルに会ったとき、今まで崩れていった自分というものが再生していった。失われた愛情をカオルは注いでくれた。同じシフト能力者のペアとして、能力の解明を進めていく中で二人は同郷者として親睦を深め、相棒となり家族となった。

 かけがえのない時間を共に過ごしてい中で、カリムは心を開いていくことが出来たのだ。


「今度さ、遊びに行こうよ。休暇とってさ」

「キャップが許してくれるかしら。ただでさえヤミが頻発してるのに」

「そうだけど、それを言ってたら何にも出来ないよ」

「まぁ、それもそうね。聞くのは自由だものね」


 そうそう。と言ってカリムは喜んだ。


「ところで、ケルベロス・システムはどんな具合なの? 私は全く見てないからさっぱり分からないんだけど」

「万全だよ。日本政府はとんでもないものを作ったなって思うよ。だってこれ、これだけの性能があれば、充分に戦争利用できるんだ。もしかしたら自衛隊で既に技術の部分によっては使ってるかもしれないよ。自衛隊は軍隊まがいで、世界の軍事力の十位以内に入るくらいだもの。ケルベロスの基本システムは、東都中を飛び回ってるドローンが自動で情報を編集して送ってくれるというものだけど、ドローンに組み込まれてるAIシステムにヤミの様々な情報をインプットするんだ。そうするとその情報に似合う対象物が現れたときに、この部屋へアラートを鳴らしてくれる。その索敵精度は、ヤミの情報が入れば入るほどに進化するから、現れれば現れるほど強くなるんだ。しかもドローンの数は数えきれないほどあるから、抜け目なしってところだね」


 カオルは良く分からなかったので、へらへらと聞き流した。カオルは頭が悪かった。


・・・


「さて、休憩も終わるからそろそろ戻るね。ちゃんと監視してなさいよ」

「大丈夫だよ。僕にもケルベロスにも、全く隙はないよ」

「あんたの頭がいいのは知ってるけど、物事は全て、【油断大敵】だからね」

「分かってるよ。カオルは心配性だなぁ」

「しすぎて損はないからね。じゃあね」


 カオルはそう言って手を振って部屋を後にした。

 自分だけになった自室は妙に静かになった気がした。カリムは孤独が一番嫌いだった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ