子弹光速 3
──エレキネシス──
概要
その名の通り、電気を操る超能力の総称である。大気中の電気や静電気を蓄積させ放電させる。
シナプス同士の通信手段として電気が使われており、人間は潜在的に電気を操る力や方法を知っていると言える。
蓄積方法
基本は自動で細胞に蓄積される。特に乾燥している冬は静電気から蓄積をするので、定期的な放電作業が必要となる。蓄積を目的とした静電気に痛みはないが、許容量を超え、流れ出た場合の静電気はとても強い痛みを伴う。
発現条件
多くの場合、幼少期に落雷被害で細胞を流れる電気量が一時的に多量に流れることで松果体を刺激し、覚醒することで発現する事が多い。そもそも松果体は普段眠っている脳の器官であり、そこを覚醒させるのがすべての超能力覚醒に通ずる第一歩とされている。
鍛錬、熟練
第一として自らがエレキネシス会得者であると自覚し強くそれを意識することから始まる。長らく無音の状態を維持し、外部の刺激より内部の意識に集中させることで松果体を刺激、活動が活発になるに従い電気の蓄電が可能になる。
・・・
ベスパはマスターから言われたことに、いくつかの心当たりがあった。
小さい頃に落雷にあったことが実際にあったし、冬場になると人一倍静電気が発生し、メンバーはベスパに触りたがらなかった。こう考えるととっておきの材料が揃っているではないか。手元の資料を閉じベスパはデスクに放り投げて目を閉じた。そして大きくため息をついた。
強く意識することで能力の強化ができるという。自分の能力を認識することができて、あとは強化なのだが、その方法まではマスターは言わなかった。というよりも、マスターも本来は自分でそのエレキネシスの存在に気がつくべきだという考えであったし、あまりPSに関しては調査が進んでいないという現実があった。こうなればベスパは電気の使い方を自分で使い方模索するしかない。
目を開け、デスクのPCのキーを叩き、電気の戦闘利用を検索した。
・・・
数時間後、ベスパは射撃場にいた。ベスパの結論は、自身の拳銃をレールガン化することであった。それは至極単純な結論で、至るべくして至った結論だった。
電気が銃に纏わりつく様子。閃光が迸り白く光る拳銃。ジリジリと音を立てる拳銃。そしてチャージされた電気を纏い、銃口から不可視の磁力帯を通過して加速する弾丸。それを強くイメージした。
・・・
「ヤミだ」
モニターを監視していたラオが声を上げた。出現場所はシステムの近くだった。キャップが全員に集合をかける。しかしカオルは外部パトロール中で現場には時間がかかる。ラディも同様だった。こうなるとシステムにいたベスパとラオが一番早い。
「ひとまずラオ、お前が向かってくれ。ベスパは俺が現場へ急行させる」
「了解しました」
一言告げるとラオは司令室を飛び出し、キャップは射撃場のベスパへ内線を繋いだ。しばらくのコールの後、ペスパは憔悴した声で応答した。
「ベスパ。まだそこにいるんだな。ヤミが現れた。どうだ、向かえるか?」
『それはグッドなタイミングですね。ちょうど試したいことがあるんですよ。ここから直接向かいます。場所のナビを送ってください。あと、先に向かったやつがいたら、トドメは指すなって伝えてください』
「了解だ。だがラオが一人で向かってる。カオルとラディでは時間がかかる。急いで援護に向かってくれ」
了解、と言ってベスパは内線を切った。
・・・
「……これは話に聞いた以上だな」
素早い動きと、軽く打ち出される一撃一撃の攻撃の重さに、ラオは苦戦していた。現場はシステム近くの公園エリア、夜だったので人的被害はないが、このままではラオが第一人的被害となってしまう。
呪印の施してある警棒で攻撃した際、相手に打撃以上のダメージが見受けられた。やはりヤミはこの世のものではない、その反応がそれを証明していた。呪印や祈祷や加護を受けた武器や兵器を用いれば、一般人でもなんとか対抗はできそうだ、とラオは戦闘のさなかにそう感じていた。
しかしラオ本人も人間だ。正直、一対一での戦いになると、やみはとても脅威だった。警棒で防ぐ攻撃はすべて重く、受けるたびに体が軋んだ。そして何よりそのスピードが恐ろしかった。かいくぐりダメージを与えているつもりではあるが、それ以上に返ってくる攻撃のほうが多かった。
このままではやられる。
「ぐっ!」
そう考えた瞬間、油断したラオは横腹に蹴りを食らう。膝をつきまではしなかったが、呼吸ができなくなり酸欠に陥った。この圧倒的不利の状況に、ラオは戦慄した。
「しゃがめ、ラオ!」
自分の名を呼ぶ注意喚起に、とっさにラオは身をかがめた。そして光り輝く、超高速の何かがヤミを撃ち抜いた。体の真ん中に大きく風穴をあけ、その場に立ちすくむヤミをラオは目撃した。
「とどめだ!」
走り駆けて来るベスパの右手の拳銃は電気を帯びたように光り、その銃口からは雷の刃が伸びた。ラオを飛び越えその刃を振り、ヤミを一刀両断にした。右肩口から左脇腹までを切られ、ヤミは倒れ動きを止めた。
呼吸を整えていたベスパは、倒れたラオに肩を貸し立たせた。
「大丈夫か?」
「あぁ、助かった。それよりさっきのは?」
「レールガンと、うーん、ライ○セーバーかな? 名前なんてまだ考えてないよ。でもどっちも電気だ、エレキネシスさ」
「……よくわからないが、それがお前の新しい力か」
「そういう事だな。これでお前らに引けは取らないぜ」
そう言ってベスパはニコリと笑い、ラオは良かったな、と返した。そして、それがベスパの新しい力であると言うのを理解した。
・・・
このエレキネシスを体得してからベスパはさらに帯電体質となり、他のメンバーはさらに彼に近づかなくなった。特にヘルメットを被ったキャップは頭全体に電気が走り、殺されかけたと言ってベスパがしばらくトラウマとなった。
「ベスパ。キャップが死にかけたらしいですね」
マスターがクスクスと笑った。
「ちょっと触っただけなんですけどね。大げさなんですよ、あいつは。電気流し続けたら、あいつも超能力に目覚めるんじゃないですかね」
「あらら、恐ろしいですね。でもあの人は超能力は必要ないくらい強いですよ」
「そういえばあいつが戦っているとこ、見たことないんですけど、強いんですか?」
マスターは湯気の上る湯呑の上部を持ち、一口啜った。
「まだシステムができてほんとに間もないころの私と二人しかいなかった時は、彼は先頭に立って戦ってくれました。メンバーが集まってからは、陣頭指揮がメイン業務ですね」
ベスパは見たことがないキャップの意外な姿だった。自分が加入した頃、既にキャップはこうだったからだ。
「まぁ、これで俺も足引っ張らなくて済みそうなんで、あいつの出番はお預けです。腹に贅肉つけないように運動だけはしてもらって」
「ふふ、そうですね」
二人はキャップの話に花を咲かせ、そして夜は更けていった。




