ワルキューレ4、fox2!fox2!
突然だが、私、幸田 幸は自分の名前が嫌いだ。それは同級生の『こうだ ゆき』に由来する。
人並みの容姿、平均点な成績、どこにでもいる平凡な人間、それが私だ。
そんな私と対照的な人物が、『こうだ ゆき』である。
香田 幸。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、明るく優しいクラスの人気者、それが彼女だ。なぜこんな田舎に住んでいるのか不思議でならない。
同じ『こうだ』と読む家名。
読みは違うが『幸』と言う名前。
同い年。
そんな訳で、彼女と私は幼い頃から比べられてきた。ちなみに小学校は1学年1クラスの小さな学校で、比べられても仕方がない環境ではあった。
まあ、中学に上がりクラスが増えても、何も変わらなかったが。
本来、平凡な私が目立つ事などそうそう無い。しかし彼女が目立つと、比較対象として、私も目立たされてしまう。悪目立ちと言うやつだ。
そして高校一年生、彼女との出会いから十年目、十回目の同級生である。
なにかしらの因縁でもあるのだろうか、泣けてくる。
ちなみに、私のあだ名は小中と9年間変わる事が無かったが、高校でも「さちこ」のまま続投の様だ。足りない私に一文字足す、なんともウィットに富んだあだ名である。
そんな私の趣味はゲームである。
ゲームの中では彼女と比べられる事もない。どんな動きだってできるし名前だって変えられる。特に最近のフルダイブVRゲームなんて。
だから今、学校をサボって最新のVRハードと新作ソフトを買いに来ている。
今日の夜中、土曜の0時がサービス開始。
放課後買いに行くのでは遅い、サービス開始に遅れてしまう。だからこれは仕方ない事なのだ。
それに、こんな事をするのは今回が始めてなので大目に見てほしい。私だってこれっきりにしたいのだ。
それにしても。
あぁ、楽しみだ。
帰ったらハードの設定や、ソフトのインストールをしておかなければ。時間がきたら直ぐに遊べるようにしておこう。
フルダイブVRゲームをプレイするのは初めてだ。故に万全を期す!
あぁ、楽しみだ。
3、
2、
1、
0時!
サービス開始!
VRハード起動!
一瞬、意識が跳ぶような感覚。
目を開けるとそこは、明るくまっさらな空間だった。
目に付くのは、ARのように浮かんでいるパネルのみ。いろいろ触ってみたいのを我慢して、まずはゲームだ。
インストール済みになっている『人外オンライン』のパネルをタッチ。
意外としっかりした手応えを感じる。
ギュッと押しこむと、パネルが広がり扉に変化した。両開きのやつだ。
なかなか凝っている。
これに入ればゲーム開始だろう。
「人外オンラインの世界へようこそ!」
「先ずはステータスを割り振りましょう。そのステータスに最も適した種族があなたの種族になります」
ステータスは全部で9項目。
HP 1000
MP 1000
物攻 100
物防 100
魔攻 100
魔防 100
技量 100
速度 100
幸運 100
さてどうしようか。こないだ迄プレイしていたのは、据置ハード用ソフトの、魔法を撃ちまくるゲームだった。魔法による飽和攻撃は飽きた、それにちょっとだけ虚しい。今度はこっそり近づきざっくりなステルスプレイがしたいかな。
…………
…………
…………
そんな訳で私のステータスはこうなった。
HP 1000
MP 1000
物攻 150
物防 50
魔攻 50
魔防 50
技量 100
速度 200
幸運 100
守りは捨てて速さと力で一撃必殺、な感じにしてみた。
そうして選ばれた私の種族は。
「あなたの種族はハーピーになりました。おめでとうございます。」
……………………
……………………
まるで忍者っぽくないのきた。どうしよう?
……………………
……………………
あ、でも、ふくろうは忍者っぽいかな? 夜行性だし。
うん、ふくろうハーピー、悪くない。モデル変更の項目でふくろう型のハーピーにしよう。
と思ったら。
見つけた。
見つけてしまった。
言わずと知れた、時速300㎞で飛ぶ最速の鳥類。
そう、ハヤブサだ。
その瞬間から私の頭の中は、『ハヤブサ型による急降下ドロップキック』一色に染まってしまった。
いやいやいや、ふくろうで行くって決めたし。
そもそもハヤブサは全然忍者じゃないし。
でもステルスプレイじゃ空中キルは基本だし。
それにふくろうだと夜しか忍べないし。
あぁ……
ああ……
嗚呼……
…………
もう駄目だ。欠点が目につく。
…………
…………
決めた! 私はハヤブサ型ハーピーで行く!
「続いて容姿の編集に入ります。」
容姿にこだわりはないのでここは適当。『コンプレックス全開! ウルトラ美少女!』なんて作るだけで疲れてしまう。
先ずはVRハードのセンサーを使い私の顔を取り込む。
そうすると、プリセットのラインナップが私に似た顔だらけになるのでそこから適当なのを選択し決定。
なけなしの個性としてアクセサリーの項目をいじる。
蝶のタトゥーを選択し、縮小し泣きぼくろの位置へ設置。
最後に髪と羽根の色を淡いピンクにして容姿の編集完了。
ちなみにハーピー族の胸はまな板で固定、編集できず。
「チュートリアルを開始しますか?」
あれ? もう? 早くない?
チュートリアルでわかったことだが、ハーピー族の足は人間の手並みに器用だった。
そして、思い付いたことも1つ。
「このキャラでゲームを開始しますか?」
ここは「いいえ」だ。
ステータスの割り振りに戻る。
多分、技量を上げると飛びやすくなるんじゃなかろうか。それとせっかくハヤブサなんだし速度も目一杯上げちゃおう。
「特化特化、特化ですよ」
そうして特化した私のステータスがこちら。
HP 500
MP 0
物攻 200
物防 0
魔攻 0
魔防 0
技量 250
速度 300
幸運 100
この時点でステータスの項目を0にしてしまうと、レベルアップの恩恵を受けられないとのこと。つまり私のMP、物防、魔攻、魔防は『レベルが上がっても増える事は無い』と云うことだ。
防具に期待するしかない。望み薄な気がするけど。
種族も変わらずハーピーなので、チュートリアルで飛び比べてみる。うん、技量が上がった分少し飛びやすい、気がする。速度は明確に上がっている。速度が上がったので技量の上昇を感じ難くなっているにちがいない。うん、そうに違いない。
「最後に名前を入力してください」
「いつも通り『search』で、いや、やっぱりカタカナで『サーチ』?」
ちなみに、例の彼女はこんな時自身の名前を変化させ、『スノゥ』にするらしい。おしゃれなこって。
こちとら同じく名前を変化させても『サーチ』が関の山だよ!「わしゃグーグルか!!」とか言えば良いのかよちくしょうめ!
「よし『search』で決定!」
「それでは良き冒険を! 行ってらっしゃいませ!」
視界がホワイトアウトしていく、眩しくて目を開けていられない。
徐々に光の弱まりを感じると同時に、人々の喧騒も聞こえてくる。
目を開けると、そこはもう人外しかいない魔族の町だった。
往来を行く様々な種族たち。だが全く人間が見当たらない、NPCですら人間以外の種族だ。さすが『人外オンライン』と銘打つだけはある。
今さらだがこのゲームの世界観を1つ。
この世界には勇者と魔王がいた。しかし半年前、勇者によって魔王が討たれた。その結果、魔王に支配され意識を奪われていた魔族達が解放された、そんな世界だ。
後は全てプレイヤー達に任せられている。つまり、人間と友好を結ぶも、新たな魔王を目指すも、自由なのである。
とりあえず町中を歩いて見よう。ぶ~らぶら。
人の流れについて行くと皆、門から外へと出て行く。早速戦闘を楽しんでいるらしい。
「私はまだいいや」
またぷらぷら歩いていると、最初の位置へ戻ってしまった。
とりあえず目についた噴水をめざして来たのだが、まさか初期位置とは。背中側にあったのだろう、全く気づかなかった。
ところでさっきから私以外のハーピー族を見ない。何故? もしかして人気ない?
そうだ、みんな飛んでるのかも。なんて思って空を見ても誰もいない。
と云うか、何で私歩いてるんだろう、せっかくなんだし飛ぼう、ハーピーなんだから。
バサバサっと羽ばたいて空へ上がると、近くにいた人達から「オオー!」と感嘆の声が上がった。恥ずかしかったが同時に、誇らしくもあった。
空から観光しようと町の上を巡っていると下から声をかけられた。
どこだろうとキョロキョロしても、路上にそれらしき人はいない。
「お~い、こっちこっち」
声の主は路上ではなく、3階建ての屋上、そこに張られた天幕の下だった。
手招きに応じて降りてみる。
「やあやあ初めまして。ボクはハーピー族のハッピーだよ、よろしくね」
「私はsearchです、よろしく」
「君で4人めだよ」
天幕の中を指し示され、覗いてみると2人のハーピー族がお茶を飲んでいた。
手?を振ってくれたので私もふりかえす。この場合、手だろうか羽根だろうか。
「喫茶店?」
「うん、飛べる種族限定カフェだって。飛んでたら見つけたんだ~」
明るくて人懐っこいけど落ち着きがなく見えるな~、なんて思っていたら席に招かれた。断る理由もないし、VRでの味覚にも興味があったのでご相伴に預かる。
そもそも、この手? でカップ持てるの?
恐る恐る、両手で持ってみる。
意外にしっかり持てる、と言うより、生身には劣るがそれなりの握力はあるようだ。
淹れてもらった紅茶も普通においしい。
クッキーも勧められ、1ついただく。
サクサクでホロホロ。おいしい。
「じゃあ早速だけど、この4人でギルドを作ろうよ!」
この一言が、後に、人外オンライン(ZGO)の歴史に名を残す事になるギルド、『ハーピー航空部隊 ワルキューレ隊』結成の契機になるとは、誰も、当の本人でさえ思わなかっただろう。