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第六話


          *


 キョウトにきた!

 新幹線に乗ってキョウトにやってきた!

 妙なテンションでの状況説明は興奮しているからではなく、新幹線内で閲覧していた動画サイトで、とある二人組みコメディアンのコントばかり見ていたから、その喋り方を真似したくなってしまって、つい。

『またかよ! ここもか! ここもかよッ!』

 コメディアン名は難しい発音のニッポン語だったので憶えていないが、行く先々でトラブルに遭い、その都度面白可笑しく大声で指摘するツッコミ担当の男性が見ていて楽しくて思いのほかハマってしまって、新幹線内ではコント動画ばかり見てしまった。本当はキョウトの美味しい食事やお店を検索して探すつもりでいたのだが。

『ここもかよッ』

 頭の中でコントの台詞を復唱しつつキョウトの地に降り立ち、白く異質なタワーを見あげながら大きく息を吸いんで、天候に恵まれたことを感謝した。

 キョウトについては、でかける前にネット検索して、一ページ目に表示されたサイトを見た程度の知識しかもっていないが、千年もの歴史のある美しく素晴らしい街であると理解している。今日の予定は、釘を一本も使わずに組み立てられているらしいキヨミズの舞台という場所に行ってみて、そのあと美味しい食材がたくさん集まっているニシキコウジというところへ行き、そうしているうちに夕方になっているだろうから、仕事を終えた父とまちあわせているシジョウカラスマの交差点で合流して、それから夕食をとるつもり。

 端末のアプリを駆使してどうにか乗るべきバスに乗り、運転席に近いシートに腰掛けた。流れ行く外の風景に目を向けると――あれ? なぜ? なぜだろう。なぜか不思議なことに、キョウトにきて、バスに乗ってはじめて、いまわたしはニッポンにいることを実感したのだった。思えば越してきてからずっと家にこもって荷物の整理ばかりしていた。そんなところへ緊急警報がでて、巨大怪獣にガレージを押し潰されて――あぁあ、あの怪獣はいまごろどうなっているだろう。チャウ氏によって、すでにバラバラにされてしまっただろうか。解体されたパーツはどこへ運ばれる? 宇宙からきた生物だから研究機関とか航空宇宙局とか? だけれどもチャウ氏から聞いた話によれば、個人の顧客がたくさんいるみたいだから、細かく解体されて個人向けの小売り用として小箱や瓶に詰められた怪獣の姿が――

 あぁあ……いやだ。

 いやだ、やめよう。

 気持ちを切り替えて端末を手に取り、地図アプリを起動させる。

 バスの現在位置を示すアイコンは、キヨミズの舞台のそばにあった。


 どうやら〈キヨミズの舞台から飛び降りる〉ということわざがあるらしく、ビルの四階の高さに相当する舞台の先端から実際に飛び降りた人が数多くいたという情報をネットで見つけて、興味を惹かれた。気になって仕様がなくなる。早くこの目で見てみたい。朱色の門へと向かって石段をのぼる。舞台はもうすぐ。どこからか独特なにおいが漂ってきていて――香だろうか。気持ちがさらに高ぶってくる。

 よかった。

 本当によかった、キョウトにきたのは正解だった。

 家にこもって怪獣が解体される音を聞いていたら、きっとわたしは理性を失っていただろう。嫌な現実から離れて、歴史と文化を感じさせる美しい建物を目のあたりにして――それはわたしのイメージしていたニッポンとは違っていたけれども、心が躍る。ドキドキしている。本当にきてよかったと、心から思う。

 石碑。灯篭。朱色の門。すれ違う観光客の間をぬうようにして聞こえてくる鳥の鳴き声までもがニッポン的な響きを兼ね備えているように思える。三重の塔。緩やかなカーブを描いた石畳。厳かな入り口の門の前で立ちどまって、わたしはひとつ、大きく息を吐いた。

 さあ。

 いよいよキヨミズの舞台だ。

 門を通り抜けるなり、右手に晴れ渡った空の青が。そして絶壁の舞台が。ゆっくり歩を進める。板を踏みしめる音。低い山の稜線と緑とが舞台の先に広がっていて、すぐ近く、十メートルほど先に黒くてスリムな二本の足が。足? え? 逆立ちしていると思しき巨大な二本の足が舞台の下方から突きでていて――

 あぁあ。

 死んでいた。キヨミズの舞台でも怪獣が。


「ここもかよっ!」

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