第一話
帰宅すると怪獣が死んでいた。
我が家のガレージを、頭で押し潰して。
被害箇所はガレージと庭の一部だけなので、全壊したほかの家々と比べるとまだましなほうかもしれないが、まさかこんな――ニッポンにきて一週間も経っていないのに、怪獣の襲撃に遭うなんて想像していなかったし、しかもうちのガレージに頭を載せて死ぬってなに? なんなの、ニッポン。
父へ電話しているが、全然でてくれない。
最後に話したのは昨夜の十時ごろで、父は良い感じに酔っ払っていた。
『――避難しているんだろう? だったら大丈夫だよ、アガサ。ニッポンの対怪獣防衛組織は優秀だし、シルバーの巨人もいるからね』アガサというのがわたしの名前。アガサ・ローナン。生まれたのはアメリカのニューヨーク市だけど、六歳のときにアイルランドへ移り住んで以降ずっとアイルランドで暮らしてきた。父からニッポンに家を買ったと告げられるまでは、トラブルとは無縁の穏やかな日々を過ごしていたのに。『アガサも知っての通り、来週の木曜日まではキョウトに留まって仕事をしなきゃいけないんだ。家のことは頼むぞ。悪いな、アガサ。なにかあったら電話してくれ――』
だから電話しているのだが、まったくでてくれない。
父は昨夜、建築関連の知人と会って遅くまで呑んでいたようなので、ひょっとするとまだフトンの中にいるのかも。とすれば父に頼ることはできない。
わたしは端末の通話アプリを終了し、接続端子Aにマイク付きイヤホンを繋いで、翻訳アプリをたちあげた。
わたしが、わたし自身で、問題解決へ向けて行動しなくては。