女性のお尻、胸は、男の手で触れるものだろう?
状況、状況。
今、俺は電車内にて痴漢をしている。
「!」
プーーーーーッ
急ぐの文字はどこにもないが、快速電車に乗り込んだのはお久しぶり。カバンを足元置きつつ、離さんとしていたこの左手。だが、右手は本能に赴くまま、自分の右のちょっと先にいるOLお姉さんの体を捉えようとしていた。女子高生もいいけれど、OLさんもいいもんだねぇ。お客様と出会う手前、自宅で綺麗にお化粧しちゃって、可愛らしさというお花になって通勤してくれる。元気になりやすよ!男って奴には!たとえ、こんなね
ムギュギュギュ
って、
グエーーーッ
なるほど。どぎつい満員電車、この弱い体には堪える状況であってもだ。ただ。
頼むからこれ、締め付けてくる体を、ボインボインなおっぱいに全部変わってくれない?って、神に願いたいんだが。神はほんのちょっぴり優しく、希望をもたらせるように、OLさんを手の届く位置に配置したのだろう。
『女性のお尻、胸は、男の手で触れるものだろう?松代宗司よ……』
その通りだ、神様。二次元だけじゃねぇのよ、女はよ。
手を伸ばさなきゃ、触れることすらできねぇ!!
俺に届け!この手に届け!!
サワサワ
「!!」
と、届いた!!
次の駅まで、残り1分と少しか。どこを触ってる?
……これは太ももか、
「!」
OLのビクンっとした動き。泳ぐお魚の横に石を落としたかのような驚きよう。触ってる。ふにふにできる。
もっと上へ、……ぐっ、しかし。キツイぞ。
列車揺れやがって、お尻まで、パンツまでもう少しなんだ。次の駅で降りられたり、痴漢とか騒がれる前に届け、行けーーーー!!
サワサワ
『尻っ!ゲット!!』
はぁぁぁっ。癒される~~。ありがとう神様!
マジで女サイコー!もう、満員電車サイコーって思えるよ。右手で、こうして、見ず知らずの彼女をイカせられる!
キイイイィィッ
「?」
人の体を触っている快感。違う温かさ、血の巡り。
「?」
満員電車が一瞬解放される停車。
ターゲットにしていたOLさんは何事もなかったかのように、停車駅に降りていった。しかし、松代の手に残るはまだ執拗に続く、感触。
さらに、強い力で手首を掴まれる。
「ちょっとあんた!さっきから、尻とか触んじゃねぇよ!!」
「男だとーーー!?」
馬鹿な!?なぜ!?どうして!?
確かにOLさんの太ももを触っていたはず!?あの満員電車の中、すり替えの術を!?
「ふ、ふざけんなーー!痴漢させろーー!?」
「何言ってんだ、あんたーー!?」
電車は大切な通勤の5,6分。遅延するのであった。
◇ ◇
「で?自分の性欲に耐えらず、痴漢をして。騒ぎ起こして、会社に遅刻したと……」
頬を膨らませながら、松代の遅刻理由を聞いてあげる酉麗子。言い訳も何もなく、事実を言っているので怒る気になれない。
「いや!痴漢したんですけど、男だったんですよ!それって痴漢になるのか!?警察にも議論を求めましたよ!おっさんの尻触ってただけですよって!」
「性別は聞いてないわよ。ただ、お尻を意識的に触られたら気色悪いでしょ。ってゆーか、気付きなさいよ。あと、相手の情報は言わなくてよろしい」
「やべっ!酉さんにしてはまともな返しをされた!」
そんな2人のやりとりを横で聞いている、危ない女性二人は楽しげであった。ニヤニヤしている面は、痴漢と同等というには訴えられそうだが、それに見合う趣向を持ち合わせているのだろうか。達しているのは間違いない。
「イケメン同士の集団痴漢、ありそうですね」
「ネットでよくある。集団で痴漢しようって話題あげて、実はヤッちゃう側的な」
「安西、林崎。お前等、夢の世界に行くな!痴漢はなぁっ、性欲に飢えた奴しかやらん!イケメンばかりが痴漢をすると思うな!」
そんな言葉を聞くわけもなく、真面目にダメ出しをする安西弥生と林崎苺。
「松代さん。40代のおっさんの尻で興奮してちゃ、絵になりませんよ!」
「せっかく、顔だけはまともなんですから!イケメンを選んでください!」
「黙ってろ!腐女子!!」
痴漢未遂をしていたから会社に遅刻しました。とんでもないことである。クビだクビ。会社で働く女性3人がこんな話を聞いて、退かないどころか。許してあげたり、夢を広げたりする。なんなんだよ。
それに言える事がある。
「イケメンってズリーよな……」
きゃっきゃっしているような絵面なので、男性社員にしてヤクザ面した三矢正明には、マジで羨ましいというか、妬ましいところであった。今日だって真面目に泊まり込みなのに……。
いやぁ、ホント。ズリーわ。イケメンってホントずりーわ。
無自覚装うのが、余計ムカつきますわぁ。
三矢の気持ちには自分も同意です。