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ピュートドリスとティベリウス  作者: 東道安利
第二章 呪われし者
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第二章 -5





 夜が明け始めたころ、二騎は歩みを止めた。下馬し、ピュートドリスはアントニアを抱いて木蔭に横たわった。辺りを十分に警戒してから、ティベリウスも傍らに来た。三人はしばし目を閉じて休息した。

 目を覚ましたのは、頬に冷たい感覚を覚えたからだった。重い瞼をこじ開けると、明るくはない景色ばかり映った。空がどんより曇っていた。

 すでにティベリウスは起きていて、海岸線を向いてわずかに顔をしかめていた。南の空は、果ての見えないほど大きくて薄黒い雲を送り出していた。ピュートドリスは目をしばたたいたが、睫毛に雨粒が落ちて、景色がゆがんだ。確かにこの時期には珍しい天候だが、そうそう毎日晴天に恵まれるわけにもいかないだろう。それともなにか、不都合があるのだろうか。

 ゆっくりとだが、雨足は強まってきた。二騎は再び西に向けて駆けた。昨晩に劣らず歩度を速めた。降り増す雨粒の中、アントニアはティベリウスの背中で、彼のマントにすっぽりくるまっていた。ピュートドリスからは顔は見えないが、そろそろ限界であろうことは察せられた。まず休息が足りていない。そのうえで皮紐に縛られているとはいえ、この速さで乗り続けるのも辛いに違いない。挙句にこの雨だ。空気も冷えてきた。

 それでもやむを得なかった。ティベリウスもできるだけのことをしてくれていた。旅をはじめて何度目かわからないが、今一度ピュートドリスは胸中娘に詫びた。

 昼には、アブデラという都市に着いた。馬の預り所があり、料金を払って、引換証となる木の札を受け取った。けれども下馬してなお、雨は横殴りに打ちつけてきた。もう嵐だった。

 旅人に慣れているのだろう。預り所の老人が、宿がある区画を教えてくれた。三人は足早に通りを進んだ。左右には露店がずらりと並んでいたが、天幕から滝のように雨水を流すばかりで、人は見当たらなかった。商売にならないので、家の中に引き上げてしまったのだろう。それでも宿を見つけると、ピュートドリスはすぐに近くの露店に入って店主を呼び、乾いた衣服を三着手に入れた。

 宿の一階は食堂だった。むしろ本業は食堂であり、上階の部屋がたまたま空いていたという事情らしかった。利用するのは旅人よりも、食事がてら逢瀬を楽しむ男女なのだろう。

 それでも、ありがたかった。昼にしてはしっかりとした食事を、三人は腹に収めた。思えば、ピュートドリスについて言えば、昨日の暮れからなにも口にしていなかった。ティベリウスとアントニアは携帯食を食べたことだろうが、それでも物足りない夕餉だったろう。そもそも旅となれば、どうしても固く乾燥したもので食事を済まさねばならない日が多くなる。

 新鮮な野菜、焼きたてのパン、肉汁のしたたる豚、あたたかな豆のスープ、大粒の苺。王宮の晩餐には及ばずとも、十分に満たされる料理だった。

「ここまでひどい雨は珍しいわ。真夏なのに」

 料理を運ぶ若い娘が、そう話してきた。昼であるのに夕食並みの料理を頼んだことを最初は不思議そうにしていたが、嫌な顔はしなかった。大雨のために客足が鈍り、暇をしていたらしい。

「川が氾濫しないといいけど」

 言われてみれば、この市はネストス川の近くにあった。トラキアとマケドニア属州の国境だ。

 若い娘は、オリーブ油をふるった魚も勧めてきた。父親が今朝早く、海がしける前に急いで水揚げした品であるらしかった。うなずいてから、ティベリウスは口を開いた。

「もう船は出ていないのだろうな?」

「定期船のこと? 嵐が止むまでは無理よ」

 ピュートドリスはティベリウスを凝視した。一瞥返してから、ティベリウスはキュウリの漬物をかじった。じっくりと咀嚼し、肉の油からの口直しを済ませ、正面の焦れったがる視線を十分に浴びたあとで、ようやく言った。

「タソス島」

 ああ、なるほど。そういうこと。

 そうなれば確かに、この雨は不運だった。ただでさえピュートドリス母子を連れ、予定より遅れているに違いないのだから。

「もうじき収まるかもしれないわ。待つんでしょ?」

 嵐とは、きっと長くは続かないものだ。

 アントニアは料理を最後まで食べきれなかった。小さいおなかが満ちるや否や、こくんこくんと船を漕ぎはじめた。眠っては起こされをくり返したので、当然だった。母の膝に頭をうずめ、もう身じろきもしなくなった。

「可愛いお嬢ちゃん」

 なにも知らない若い娘が、食卓に魚料理を置きながら、にっこり微笑んだ。

「私も結婚したら娘を産みたいわ。あなたがた理想の家族ね」

 一方、ピュートドリスのほうは、理想の妻とも母とも言えないあり様だった。昨日汗と土にまみれてから、ろくに体を洗ってもいなかった。そのうえ打たれた雨は、汚れをぬぐってくれるどころかそれと混ざり合い、不愉快な臭いとべたつきを生んでいるように感じられてならなかった。髪もぐしゃぐしゃだ。こんな姿をさらして、愛おしい仮の夫にはどのように思われているだろう。

 若い娘に尋ねると、彼女は通りを挟んで数件先にある、小さな浴場を教えてくれた。日中は仕事上がりの父親たちがよく利用するそうだが、今日はしけのために空いているだろうとのことだった。彼女の父親もすでに部屋でぐうすか眠っているそうだ。

 ティベリウスにアントニアを任せ、ピュートドリスは浴場へ出かけることにした。雨足がわずかに弱まったと見えたところで外へ出て、足早に通りを横切った。

 ところが、気配を感じた。振り向くと、アントニアをマントで念入りにくるんで抱き上げたティベリウスが、水のあふれる側溝をまたいでいた。そのまま通りを渡り、浴場まで来て、廂の下に入った。そこには、湯上りの客が葡萄酒片手に語らうためであろう椅子が置かれていた。彼はそこに腰を下ろした。ピュートドリスが湯につかり、体を清めて出てきても、まったく動いた様子もなかった。眠ったきりのアントニアを抱え、だれもいない雨の通りをひたすらににらんでいた。

 浴場にほかの客はいなかった。新たに入ってくる者もいなかった。

 上体をかがめ、濡れた髪を押さえ、ピュートドリスは彼の頬に接吻した。拒むようなそぶりはなかった。





 その後宿に戻り、三人は二階の部屋に落ち着いた。ようやくアントニアを寝台に横たえてあげられたが、その傍らにピュートドリスもたちまち伏せってしまった。認めたくはなかったが、母もまた困憊していたのだ。

 どのくらい眠っていたかはわからない。だが次に目を開けた時も、辺りは同じような暗さだった。窓を見ると、相変わらずの重たげな曇り空だった。けれども雨はだいぶ小降りになっていた。

 ティベリウスは寝台に寄りかかって床に座っていた。すぐにピュートドリスが目覚めた気配に気づいたようだ。立ち上がり、グラディウス剣を腰に下げ直した。それからピュートドリスの耳へ顔を近づけてくる。

「港を見てくる。ここを動くな」

 そう言い置くや、すたすたと部屋から出ていった。

 寝ぼけがちに、ピュートドリスは彼の背中と、それが消えていった扉を眺めた。漫然と、かすかになった雨音を聞きながら、しばし動かなかった。それから思わず微苦笑をこぼした。

「ここを動くな、ですってよ」

 体を翻し、傍らのアントニアへ腕をまわす。娘はまだぐっすりと夢の中にいる。

「カッパドキアに帰れ、はどこへ行ったのかしら」

 娘を抱きしめながら、ピュートドリスは笑い止まなかった。ぎゅっと目を閉じて、悶えて、うつろなはしゃぎ声を噛み殺して。

 うぬぼれてもいいのかしら、とピュートドリスは自身にだけ問い続けた。とうとうあの人の心を動かしつつあると見てよいのかしら、と。

 自分の女の魅力とやらが、ようやく効きはじめたのか。まだ捨てたものではなかったか。今夜が来れば、七日目だ。女としての自信は木端微塵に砕ける寸前だった。

 けれども、そうでなければなんだろう。彼に良くしてもらう理由を、ピュートドリスは思いつけない。

 優しさか。不貞行為があったとはいえ、二番目の妻を顧みもせずに捨てた男が。

 情か。実母と一人息子と継父を置き去りにして六年になる男が、なんの情を抱くのだろう。彼を殺しにきた狂人のごとき他人に。夫と四人の子どもがいるはずの女に。

 ピュートドリスにはわからなかった。

 それでも、ひととき仮初の達成感を楽しむことを、自分に許した。手に入っていないが、もうじき手に入ると確信できる、それを越える心の高揚などないからだ。なんの確証もないが、気分を味わうだけなら自由だ。

 その至福の時は、どこか空虚だった。けれどもしばし浸った。

 寝台から身を起こし、ピュートドリスは窓辺に腕を乗せた。曇り空を見上げ、まだ人の気配のない街路を見下ろし、ティベリウスが帰ってくるのを待ちわびた。胸は躍り、頬が紅潮するのを感じた。早く会いたかった。さっき別れたばかりであるなど、関係なかった。彼を見ているだけで幸せだ。初恋をする少女に戻ったようであるが、彼はその初恋の相手なのだから、まったく間違いではない。少女でだけなくなったが、今は下にいるあの若い娘にも微笑ましがられてしまうほど、無邪気に恋にあこがれているだろう。会いたかった。今すぐに、たまらなく会いたかった。

 そんなひとときも、愛おしいと思った。

 雨は小降りのままで、止みきらなかった。けれども風はまったく荒ぶってはいなかった。これならばタソス島行きの船も運行するかもしれない。そうでなくとも海路一日も要らない距離だ。ティベリウスは自分で船を調達するかもしれない。

 彼はタソス島に手勢を集めているのだ。悪くない作戦だ。偽者連中がもっぱら陸を進んでいたあいだ、彼の仲間たちは海路を西へ向かったのだろう。おそらく各地で傭兵を召集しながら、数人に分かれ、おのおの目立たないように。それならばティベリウスと一緒にいるところを見られる心配がない。昼夜を問わずに航行すれば、陸路の歩みに遅れずにもいられる。

 偽者連中もティベリウスの動きを見張りたかったが、それはティベリウスも同様だった。連中の数と進路を見極め、勝負を仕掛けるに適切と判断したときに行動するだろう。そのためにはタソス島に集まった手勢を、今その目で見ておかなければならなかった。

 そうなると、家族三人旅もまもなく終わりだ。

 彼はピュートドリス母子を置き去りにするだろうか。窓辺で独り、ピュートドリスは笑いながら首を振った。なぜなら彼は、あの短剣と、おまけに荷物も部屋に残していった。アウグストゥスの手紙が袋口から突き出ている。まるで母子への保証だと言うかのように。

 馬鹿とつけたくなるほどの、誠実さだった。

 街路に人が戻ってきていた。ピュートドリスはその一人一人を目で追った。アブデラ市民たちは露店を再開しようとしていた。港や公会堂に取引に出かける者もいるのだろう。浴場へ風雨で冷えた体をあたためにいく者もいるのだろう。子どもたちに囲まれながら向かいの店に出てきた女が、この隙にとばかりに店の品に食いついていた猫を、憤然と追い払った。すると子どもたちが歓声を上げた。母親とピュートドリスがその視線をたどると、北の空に虹が鮮やかに現れていた。

 母親は顔をほころばせた。道行く人々も次々足を止め、女神の軌跡に見入った。ピュートドリスもそれに倣ったが、やがてまた南へ頭を向けた。これに見とれていなければ、そろそろティベリウスも戻ってくるに違いなかった。

 だがそのとき気づいた。くっきりとした見事な虹を見ようともしない者が街路にいた。家と家のあいだに身を潜め、こちらを見上げてくる男が二人。

 すでに遅かった。お互いに。男の一人と目が合うと、ピュートドリスは慌てて窓から引っ込んだ。

 どうしてここがわかったのだろう。おそらく馬の預り所か。あの老人は特段黙っている理由も思い当らなかったのだろう。連中も極めて何気なく尋ねたのだろう。偽者一行のように下品にではなく、我が国の将軍であるが、妻と娘を連れて先に来てはいないか、とか。二頭も馬を所有していながら奴隷も従えていない庶民などまずいないから、目立つのはしかたなかった。

 ピュートドリスは娘を見下ろした。なんの心配もなさそうに、未だすやすや眠っていた。それからもう一度、確かめるべく外を伺った。

 男二人はまだいた。今や確信を持ったことだろうが、まだ動く気配はなかった。しかしすぐに迫り来てもおかしくはない。ピュートドリスはさらに辺りを注意深く見渡した。するとあと二人、通りの角にたたずんでいるのが見えた。立ち話をしている市民を装っているらしかったが、身なりが明らかに異なっていた。軽装だが、甲冑をまとっているのだ。

 今一度ピュートドリスは部屋に引っ込んだ。あまり時間はなかった。もしかしたらほかにもいるかもしれない。宿の脇や裏手にでも。いずれ黙っていればもっと集まってくるだけだ。完全に見つかったのだから。

 連中はティベリウスの不在に気づいているだろうか。ピュートドリスはその可能性は低いと思った。まずティベリウスが外出した時点で連中はあそこにいなかったに違いない。あれらにティベリウスが気づかないとは考えられない。昨夜は逃げておきながら、今はむしろ見つけてくださいと言わんばかりだ。

 そしてティベリウスが戻ってくれば、連中に気づくに違いない。そうなればいよいよピュートドリス母子を見捨てる決断を下すだろうか。この状況ではそれが最も賢い選択だろう。

 だが、もしも連中がたった今来たばかりならどうだろう。彼が戻る前にいなくなれば、なんの異変もなかったことにできはしないか。

 そこまで考えてから、ピュートドリスは部屋を見まわした。干された三着の衣服。壁際に置かれた荷物。一本足の卓の上に短剣。

 立ち上がり、短剣を手に取った。女神の柄は、相変わらず手にしっくりと馴染んだ。ピュートドリスはそれに笑いかけた。

 わかっていた。必ず戻ってくると。

 そうとなれば、ピュートドリスは取り得る手段を一つしか思いつかなかった。自分が特別に賢い女でないことはわかっていた。ティベリウスはあのように言ってくれたが、統治者としても自分より有能な者は大勢いるだろう。

 女傑、女狐、魔女――言われてみたいと思わないわけではなかった。けれど知性や機転やしたたかさとは結びつかない言葉でばかり評されてきた。甦りしアマゾンとか。

 普通の女だった。幸いにして愛ある裕福な家に生まれた、普通の女だった。

 ピュートドリスはアントニアの額に接吻した。起こすつもりはなかった。それから一言残しておきたいと思い、書くものを探した。ペンは自分の化粧道具で代用できるだろう。あとは紙があれば――。

 皮袋から、ピュートドリスはアウグストゥスの手紙を取りだした。悪いとは思ったが、ほかになかった。

 けれども巻物を解いてまもなく、意図はくじけてしまった。しばしぼんやりとたたずんでから、ため息とともにピュートドリスはまた辺りを見まわした。

 乾ききってはいなかったが、なんとかなりそうだった。





「待たせたかしら」

 ピュートドリスが真ん前に行くと、男二人はあんぐりと口を開けて固まった。ピュートドリスはかまわず急かした。

「あなたたちのご主人様に会わせて頂戴」

 そして男の一人の腕を引き、ずんずんと歩き出した。とりあえずは北の市門へ。しばらく前に入ってきたところへ。途中から、角にいたもう二人も引き連れた。

 はばからず辺りを確認したが、これだけのようだった。四人の屈強な男を従え、ピュートドリスは街路を闊歩した。まもなく、さすがに男たちも囲んできた。北の市門ではなく街の西側へ、ピュートドリスを連れて行った。

 四人とも武装していた。髪はぼさぼさで、髭もたっぷり生やしていた。甲冑の下に着るトゥニカは揃いで、濃い枯草色をしていた。少しも優雅ではなく、無骨に見えた。だが偽ティベリウス一行とは明らかに毛色が異なった。近づかれると、獣皮と汗と雨水が混ざった臭いがきつくてならないほどだった。

 ピュートドリスはティベリウスの短剣を下げていたが、取り上げられはしなかった。やがて見えてきたのは、市の公会堂の一つだった。門の上に、プロタゴラスと刻まれていた。

 そこへ上がる階段に、男たちが腰かけていた。数は三十人ほど。だれもがピュートドリスの周りの男四人と同じような格好をしていた。

 ただ一人、階上に座す男だけが違った。金糸と銀糸で編み上げた敷物を広げ、ほかの男たちに天幕を掲げさせ、その下で腕を組んでいた。確かにそうするどころかそれ以上の身分にあるのだが、そのふんぞり返りぶりは、どこか精一杯に見えて、ピュートドリスはおかしくなってしまった。

 配下たちと同じく、男もまた髭面だった。それでまだ二十歳そこそこである若さを隠そうとしていた。髪は念入りに、アレクサンドロス大王を意識しているに違いない長さに整えているが、夏であるのに、豹の皮をあしらったマントを羽織っているのも滑稽に見えた。焦げ茶色のトゥニカには、光沢ある糸で刺繍が施されているようだが、まったく華美には見えない。せめて首飾りを野獣の牙の類ばかりでなく、もう少し宝石を添えるべきであるように思えた。鎖は黄金色をしてはいたが。傍らでは、刃の長くかつ肉厚の剣が存在感を放っていた。実用にかなうのだろうか。

 ピュートドリスはその若者へまっすぐに歩いていった。周囲の男たちを一顧だにしなかった。すると若者が口を開いた。いかにもおもむろに、懸命に威厳をかもしだそうとしているように。

「お出ましかよ、アマゾン王妃」

 見下ろされるのは気に入らなかったので、ピュートドリスはそのまま階段を上っていった。周囲の男たちが制しかけてきたが、「下がりなさい!」の一言で、逆に止めてやった。

 まだ腕を組んで座ったまま、若者はすでに苦々しい顔をしていた。それでも真ん前に立たれて、ようやく見下ろされていることに気づいたらしい。すぐに立ち上がり、ふんと鼻の穴をふくらませ、胸を反らしてきた。ピュートドリスもまた鼻を鳴らしてやった。

「ご機嫌いかがかしら? 蛮族の王子様」

「もう国王だよ、暗殺屋王妃」

 若者はつっけんどんに言った。





「あの男はだれだ?」

 北の市門には人だかりができていた。わずかに息を乱しながら、ティベリウスはその中の一人に険しい声で尋ねていた。

「ボスポロス王アスプルゴス様だとさ。オリュンピア競技祭に行かれるんだと」

 商人らしき男が答えた。

 ティベリウスの見つめる先で、国王アスプルゴスは白馬に騎乗し、胸を反らして市門をくぐっていった。同じく騎乗した家臣たちを従え、ピュートドリスを囲んで。








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