おそろしいもの
それは不明瞭な道を、まるで行き場のない赤子のように歩いている。そのうちカタチを持って、すなわち少年となり現れたのである。それはかつて幼い少女であり、もう少し遡ってしまえば男でも女でもあった。かれらにカタチなどはなかったが、日ごとに、何ともわからないような肉を貼り付けるようにカタチを持ったのだ。私たちはかれらがどういうものか判らぬというのに、さながらバケモノのような興味でまた、かれらに肉を与えたのだ。
後悔している。私はそれに力を貸したのだ。あの彼らのように語ったことはあらねど、傍観などは最もおそろしいものだった。ただ興味のないフリをしながら、かれらが肉をつけていく様をみていたのだ。おそろしきは人であった。
陽は赤く、血のように紅く、私を嘲るがごとくその手を広げていた。広げていた、はずだった。まばたきをしたその刹那、私は理解の追いつかぬ世界に引きずりこまれた。上も下も、違う、見える光景のほとんどすべてが暗黒であった。唯一不明瞭な道が続いているだけだ。私は行き場もなく這うようにその道を歩くしかなかったのだ。暗い。全くの無音だ。時折聞こえる水の落ちるような音を除けば全くの無音なのだ。声はうまく出なかった。寒くも暑くもないことが救いだった。理解不能、否定しようもなく体験していた。ふと下を見る、四つん這いになって進んでいたはずだ。
そこには何もない。なぜ私は今こんなにも焦っている?無い、何もないのだ。そこにあるはずのカタチは、私は、どこに行ったというのだ。いや違う、どこにも行っていない、私はここだ、思考している、こんなにも滑稽なほど焦りに呑まれながら!……無音だ。私は今直面している状況に耐えきれず地面を殴ったはずである。やはり何も無い。進む先ももう望めなくなっていた。そして、私は___
彼は不明瞭な道を赤子のように歩いていた。彼もまた不明瞭だ。まるで点滅しているかのごとく現れては消え、また少し進んだところに現れる。彼が何なのかは判らない。そもそもここが何処なのかすらもわからない。今日だって何もしていない。彼らの可笑しく話す様を観ていただけのはずだ。今だってまばたきをしただけで、それ以外何もしていなかったはずだというのに、何故こんなにも居心地の悪いところにいるのだ。下を向いて考えこんでいたが、一向に答えは出なかった。ふと前を見ると、赤子のような彼はいなかった。ほんの数秒だけいなかったのだ。結局ここについての答えは出てこなかったが、一つだけ理解していることはある。
僕はここで___