アホの一馬と優斗君
馬主人生が始まって、早3年。
最近ちょっぴりメンドクサイ。
何がメンドクサイって、幾つかあるんだけど……。
その1
セリで、私に便乗してくる人が増えてきた。
まぁ、私が買った安馬がガンガン重賞はおろか、GⅠまで獲ってるからね……。
仕方ないといえば仕方がないのかもしれない。
でも、予算内で買えない仔馬が続出してきて滅茶苦茶ストレス。
その2
根岸一馬がうざったい。
他の馬主のおっちゃんの息子で、2つ年上の15歳。
なんでかしらんけど、馬主席で観戦してるとやたらと絡んでくるんだよ。
滅茶苦茶うざったい。
毎回毎回、同じセリフで良くもまぁ……って感じだ。
「暫くぶりだね、忍君。」
噂をすればナントヤラ。
イケメンヅラして、前髪ぶわさとやりながらいつものイケてるポーズでご登場したのがソイツだ。
ジャ○ーズ系とでも言うんだっけ?
まぁ、多分美形なんだと思うけど、それ以上に粘着っぽいこの性格のせいで全てが台無しだと思う。
「今日は、君のシノビスターが出走だったね。」
「……。」
「だが、うちのカズマベイビーには敵うまい! 覚悟しておきたまえ!!」
私が返事をしないのもお構いなしに、ヤツはそう言って高笑いと共に去っていく。
うん。
色々と残念だ。
ウチの馬の名前もだけど、カズマベイビーって何だよ……。
自分の赤ちゃん?
それとも、自分が赤ちゃん??
なんか、後者の様な気がしてきた。
根岸のおじさんが、申し訳なさそうに頭を下げるのに、身振りで気にしない様に返しながらパドックの方に注意を向け直す。
今日は、いつぞや牧場であった牧童君だった八重樫 優斗君のデビュー戦なのだ。
爽やか系の細マッチョに育った彼とは、アレからせっせと文通を続けていてすっかり仲良くなった。
18歳になった彼は、何と言うか私好みな程良くワイルド系。
一馬のアホとは大違いなのだ。
優斗君が乗っているのが勿論私の所有馬なのは当然と言えば当然と言えよう。
流石にお手馬にしてくれてる騎手が居る馬は回せないけど、早いうちに勝利数を積み重ねて欲しいと思う訳だ。実際、学校での成績も悪くなかったらしいので期待できるとも思ってる。
将来有望な騎手には、今の内からツバを付けておくに限るのだ☆
珍しく、手に汗を握りつつ観戦した初出走のレースで、優斗君は見事初勝利を飾った。
「優斗君、おめでとう~!」
「忍お嬢さんもおめでとうございます。」
初勝利の喜びに頬を染めながら笑いかけてくれる優斗君が、めっちゃ可愛い!
「優斗君はモテそうだねー?」
そう言って肘で突くと、彼は苦笑を浮かべる。
「本命にモテなかったら、何の意味もありませんよ。」
「……確かに。」
一緒に初勝利のお祝いの写真を撮りながら、こっそりと『本命』が気になった。
どこのどいつだ。
私の可愛い優斗君の心をゲットした不届き者は。
「僕は諦めないぞー!!!!」
なんか、どこかのアホの声が聞こえた気がするケド、きっと気のせいだろうと思う。