01-07:二人の旅立ち
曇天を昇る流星。鮮烈に。可憐に。
焼き付いたその姿を追うと、そう決めた。
幽霊騒動から数日経ち、街はようやく平穏を取り戻していた。
【ブレイクゲート】の効果が切れたとはいえこちら側に来た幽霊はそのままだった。モンスターではなく幻影のような害の無い相手ではあったが流石に放置する訳にはいかない。
冒険者や自警団が総掛かりになって駆除作業を行い、あらかた片付け終わったのが昨日のこと。俺は『バンシー』撃退の最大の功労者なのだからそれには参加しないでいいと言われていた。
まあ何もしないのは居心地が悪いので作業に携わる者の武器にエンチャントを掛けたりしていたが。
なお、『霊下窟』B1Fは再発防止の措置が取られるらしい。
「にしても事後処理に団長さんまで来るとはねー」
「幽霊退治にこちらが動くと判った時点で連絡しておいて良かったよ。街から逃げ出すのは止められなかったけど街道で捕まえられたそうだ」
廃墟マニアが言っていた馬鹿な貴族。まあ例の豚だ。
億万長者になれるとかそういうベタな誘い文句で騙して街の道を術陣にさせたらしい。元からこの街はそれに適した道の形状をしていた。少し手を加えればいいだけだったとのこと。
まんまと利用された豚は手を貸した術が幽霊を誘い込むためのものだと知ってすぐに逃げた。
しかし奴のことを怪しんでいた傭兵団が本隊と連携して包囲網を敷して確保。
最初に出会った時に奴を護衛してたのも調査の一環だったらしい。
それでガチに死に掛けてたのは間が抜けてるけど。指差して笑ってやろうか。
ナイスミドルな傭兵団の団長さんはこちらに到着した直後、俺のところに来て手合せがしたいとのたまった。
断ったらもの凄く残念そうな顔をしていた。どんな報告しやがったんですかねえ。
2度3度と頼みこまれて面倒になったので現在はいつぞやの軽食店に退避中。
対面席には当たり前かのようにいるイケメン。
事件以降さらにキラキラした眼差しを向けるようになってきた。予想はしていたがウザい。
手合せを願ってくる団長さんが面倒だったので、試しにコードアコードのことについては話してみた。
あれは単純にメインクラスとサブクラスのコードを融合させるだけの技術である。
しかしやはり高レベルの者が少ないこちらではサブに掛ける労力はメインにまわしたほうが良いようだ。
サブクラス習得を教導する熟練冒険者自体がいないためそこに時間が掛かり、コードアコードはそもそも概念が存在していない。
こちらでレベルが100を超えてくるのは熟達した壮年程度の者ばかりなので新しい技術を覚えるのが難しいという問題もあるらしい。
頭が凝り固まっていない団長さんは素直に教わりたいと手合せを含めて頼んできたのだが、なし崩しに長時間拘束されたり入団するハメになりそうなんで逃げた。
そろそろこの街を出ようかな。
顔に出易いということもないだろうに、そう考えた気配を読んだイケメンが口を開く。
「私も連れて行ってくれないか」
「言うと思った。隊長だろ、簡単に放り投げんなよ」
「後進は充分に育ったから大丈夫。そろそろ退団しようかって元から思っていたし」
「だとしてもオレにあんたを同行させるメリットが無い」
「異世界の歩き方は現地人に尋ねるのが一番良いよ」
「――――は」
いや何でバレるよ。おかしいだろエスパーか。
茫然と見やると向こうも少し驚いた顔をしていた。自爆か、ちくしょお。
「注目すべき点は躊躇すること無く簡単に万という金額が出せるその懐具合だね。
金持ちのお嬢さんという可能性はまず無い。あんなにも強くなれるのはおかしいし、家ぐるみで秘されていたと考えるにも君の様子が無防備すぎる。
数年前に新しくなったばかりの白銅貨を持っていた。しかし通貨の価値やレートを知らない。これで過去からの異邦者という線も捨てられる。
一応は未来人というパターンも残っていたけど、価値が全く判らなくなる未来で現状と同じ通貨が使われているとは思えない。
まあ自動的にこの時代の通貨に変化したという可能性も考えはした。
今回の幽霊騒動が未来では重大な事件になっていてそれを改変するために、と一瞬よぎったけど君自身があの事態に驚いていたから違う。
結局いくら考察しても確証は得られないから直接聞いてみよう、でも試しにもしそうだったら一番面白そうだなって思った答えでかまを掛けみようかなって」
最初の晩に開き直って色々聞きまくったのでボロを出していたらしい。
まあ別にいいよ知られてもあんまり不都合無いし。
無理して隠し通す理由も無いので話してやることにした。
そうして説明しているうちに自分でも判らないことを発見する。
この世界がゲームの中なのか、俺の世界からこの世界をゲームとして認識していたのか。
あちらにいる俺は行方不明や意識不明とかになっているのか、それとも今の俺は複製された人格なのか。
……とりあえず現状が楽しめればそれでいい、と楽観視しておこう。
考えても仕方ないことで悩むのは性に合わないしな。
かいつまんだ説明が終わる。
当然というか難しい顔をしているようだ。
「……君が体験していたこの世界を模した遊戯と、実際のこの世界は時代が同じなのかな」
「んー、そういうのも考えてなかった。でもゲームの歴史表とか覚えてねえし」
こんなことがありましたみたいな感じの表になってはいたけど見なくても支障は無かったしなあ。
もしかしたら旅をすることでそういったことも何か判ってくるのかもしれない。
というかこれ聞いてもついて来る気あるのか?
決意は変わりませんかそうですか。
にしてもこんな簡単にバレるとはなあ。
「ああ、でも自信を持って見抜けたことは他にあったね」
「いやもう逆さにしても何も出てこねえよ……」
「君、元は男だったよね?」
何でそんなことまでバレる!? いや一人称も変えてないし仕草とかでも判るだろうけどさあ!
自業自得だが恥ずかしい、いたたまれない。
別にいいじゃん女性キャラ使ってても。誰に文句を言われるでもなく言い訳をしたくなってくる。
対面の男は責めるような表情はしていない。むしろ俺がヘコんでるのを見て凄く楽しそうだ。
つーかホントにこれでもついて来るのか!?
「この上なく面白そうだ。女性の体になったことに関するフォローもしてあげられるよ。姉や妹も多かったから」
「……………………もう、好きにしろ」
俺の返答に隊長さんは笑みを深めて立ち上がった。
改めて、と手を出してくる。
はいはいよろしく、とそれを握り返す。
シォラとフェイの旅はここから始まる。
行く先に待ち受けるのは大冒険などでは無く。
名を残すこともなく、ひっそりと人々の心に残る旅路。
けれどたまには厄介なことに巻き込まれたりもして。
楽しいに決まっている。
気楽に行けばいい。
どんな人たちと出会うのか。
どんな事件に出くわすのか。
それはまだ、誰にも判らない。
進んで行こう、気の向くままに。
歩いて行こう、風の吹くほうへ。
二人の道がアコードした。