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01-04:絵具狩り日和

街で起こるモンスター絡みの事件は大事になることが少ない。

いつでも本当に怖いのは同じ人間なのだ。





         “大通りに出没する幽霊の調査依頼”

『最近ケルナーの街中央を縦断する大通りにて幽霊の発見報告が多発。

 危険性は不明。被害は出ていない。

 出没時刻は正子前後。

 大通りの上空に浮遊し、行動を起こさず消える。

 降霊は不完全な術陣による可能性が高い。


 依頼内容は発生原因の調査。

 害を出さない限り退治はなるべく控え、原因を特定しギルドへ報告。

 発生原因の排除が可能ならその場での判断に任せる。


 調査には大通りに面する夜見会館からの監視要員を1名選出すること。


 外見的特徴を下記に記載

 性別:女性 身長:平均 顔:長髪、目・鼻・口が欠如 服装:白色の長衣』



翌日ギルドの張り紙をよく読んでみれば確かに優先は原因究明のほうらしい。

幽霊関係だけで無く、街中で起こる根の深そうな事件は調査を重視するとのこと。

もちろん被害が出ないと判断されているうちは、だが。


「これもあんまり危険視されていないって感じの書き方だね。重大な事件に繋がる可能性がある場合は直接声を掛けて調査隊が組まれることもある」

「へえ、じゃあこの依頼を」

「ちなみに【ギャンブルコイン】は探索対象を思い浮かべないとダメだから効果が無いよ。

昨日は毛色と首輪の色が合う猫を無作為に調べて最初に当たったのがたまたま正解だったから幸運だったけど。

でもこっちの幽霊は日中だと消えているから追えない。発生原因は不明だから思い浮かべようが無い。

それとこの手の調査は大体1週間くらいは拘束されるかな。危険度が低いわりに報酬が割高に見えるけど日割りをすればそうでもない」

「よーし今日は討伐依頼やるぞー」


そうそう上手くは行かないらしい。【ギャンブルコイン】の弱点まで発覚してしまった。

通常は依頼書に依頼者名が記載されているのだが、幽霊騒ぎの依頼書は署名が無くギルドの判だけが押してあった。

これはギルドから直接の依頼、もしくは街などの公的機関からの依頼だ。今回は後者。


「そういやさっきの依頼書に書いてあった夜見会館って?」

「ジアセチル卿が建てた多目的ホールのことだね。定期的に演劇やコンサートみたいな芸術関係の催しが行われている施設だよ。

2階のバルコニーからは大通り全体を見渡すことができる。監視にはうってつけだろう」

「ふーん、そのジアセチルってのは貴族とかそういう?」

「……一昨日に私たちが護衛していた方だよ」


げっ、あの豚か。受注しなくてよかった。

奴はこの街の顔役とかそんな感じの立場らしい。金儲けの才能はかなりあるようだ。

いや貴族としてそういう俗っぽいことに熱心なのはそれはそれでどうなのか。



特定のモンスターが何か問題を起こしたのでそれを討伐、といった依頼はあまり無い。

街の出入り口にはダンジョンに張られていた結界と似たものが設置されている。

人々も不用意に外には出ないし、別の街に行く時は護衛を雇った乗合馬車を利用する。

それでも起こってしまう村や町規模の被害には騎士団が出動するとのこと。


「誰かがピンチだから助けてくれ、って状況自体が起こらないようになってる?」

「そうだね。帰って来ない冒険者の救助や、街道を塞ぐモンスターを倒してほしいという依頼なら時折出ることもあるけれど」


討伐依頼は基本的にギルドがある街近辺のフィールドに生息するモンスターの素材回収が目的だ。

低レベルのモンスターなら普通の獣と同じく食肉目的や毛皮の加工、雑貨の材料あたりが主な使い道。

精錬用の素材が欲しいからと冒険者が自分の倒せないモンスターの討伐依頼を出すケースもある。

『ホーンボア』は家畜より劣った味なので肉は安価でしか売れないが、角は結構な値段になっていた。

種別によるが高レベルのモンスターの素材は高く売れる。

ならひたすら狩り続ければいいのかというとそうでもなく、そういった稀少な素材は需要が少ない。

上質すぎる素材はあまりに多く持ち込んでも買い取ってもらえないことがあったりするそうだ。


俺がこちらに来た時にいた『霊下窟』のような高レベルダンジョンは封印されていた。

しかし適正レベルが100以下のダンジョンへは立ち入りが可能。

そういったダンジョンでの討伐や採取依頼なら結構貼り出されているようだ。


「……湿地帯奥地も一応ダンジョン扱いのエリアなんだっけか」

「霧に包まれた奥地はそうだね。ダンジョン専用のコードが使用可能になっていたはず。

モンスターはあまり強くないけど足場に加えて視界まで悪くなる厄介な場所だ。

そういった点を考慮して報酬は適正レベルに比べて高めだけど……剥ぎ取りで選んだのかな?」


手前のフィールド扱いな湿地帯では鳥類型や両生類型のモンスターが多い。

ぐちょぐちょとした足場にカエルっぽい敵とテンションがた落ち必至。

だがダンジョン扱いになる奥地に行けば幻想的な風景が広がる。

光る苔や藻、それを反射して瞬く霧。

そこに生息するモンスターは霧の中を泳ぐ色とりどりの魚だ。

空中を漂う不定形。絵の具を空間に垂らしたような姿。

立ち寄った者を排除するために寄ってくるそれらは生物らしさを持たない。

途切れること無く湧いてくる魚型のモンスターは、倒すと絵の具をドロップする。しかも瓶付きで。

獣から剥ぎ取るような苦労をせずとも楽に稼げるのだ。これを利用しない手は無いだろう。

普通の冒険者ならじゃらじゃらと溜まる瓶のせいで大した数は持てないのだが、俺にはポーチがある。


「慣らしは簡単なのからやってくべきだろ。しゅっぱーつ」

「やれやれ。また僕は役に立てなさそうだな」


せっかく意気込んでフルアーマーで来てくれた隊長さんに着替える間も与えず発つ。

あんたは付き添いだから見てるだけでいいんだっての。



「……大したものだ」

「ん? 何か言ったかー?」

「予想以上の凄さに感嘆しているよ。これほどの盗賊クラスは見たことが無い」


そうだろーもっと褒めろー。まあ俺自身かなり驚いているんだが。


湿地帯に架けられた橋を走破して奥地まで一直線に来た俺たちはすぐに寄ってきた魚との戦闘に入った。

自分でも無駄なあがきと思いつつ汚れないように極力橋の上で戦うようにしていた。

一体誰がこんな形にしたのか、奥地に架けられた橋は碁盤目状になっている。

前後だけでなく左右や斜めの動きもできるので跳び回っていたら足を踏み外すことなく戦えたのだ。

最初は隊長さんも剣を振っていたのだが、今はドロップした絵の具の回収に専念してもらっている。

もしケルナーの街に定住するのなら安定した収入源として頼れるほどだろうこれは。

今のところ冒険の誘惑が勝っているのでそういったことは考えていないのだが。


「もう依頼の分の倍くらいは確保できたね。まだ続ける?

絵の具はケルナーだけで消費せず流通に乗せるから大丈夫だけど、価値が暴落する前に控えてもらいたいかな」


乱獲はやめましょう、と。さすがに今日1日で激変するほどではないが何日も続けたら問題ありそうだ。

モンスターが寄ってこないあたりまで退避する。ポーチに入れるため既に数回行っている作業だ。

渡しておいた俺の鞄に詰まった瓶をポーチに移して隊長さんも身軽になった。

ついてこれるほどでは無いだろうけどまあ見たいんなら頑張れ。


「という訳で最深部まで行く」

「ああ、ボスも倒しておくのか。それなら私が先に行って雑魚の気を引き付けておくよ」


走れば余裕で振り切れるんだがな。やはり俺のコードが見たいらしいこの変人イケメン。

隊長さんが戦士クラスの突撃用コード【プルーフ・アーマー】を使って文字通りの雑魚を跳ね飛ばしながら突き進む。

しばらく待ってから俺もそれに続いた。


奥地は横に広いが直進すればわりとすぐに最深部まで到達できる。

入口から真っ直ぐ行った先に待ち受けるのは絵の具の池だ。

綺麗なのだがちょっと環境汚染を思い起こすような水が神秘さと不気味さを醸し出している。

その池に接近すると絵の具が蠢く。水が勢いよくせり上がり湿地の主の姿を――――


「【ファニング・フリング】! はいしゅーりょー」

「まあ、レベル50程度のボスだからねえ……」


回転させながら投擲した短剣が姿を現そうとしていた主を1撃で倒す。

このダンジョンのボス『ティンジタイタン』は池の水がそのまま巨大な人型になったモンスターだ。

戦闘中に雑魚を出しまくるのが鬱陶しい点だが瞬殺してしまえば何の問題も無い。

くるくる回って帰ってきた短剣をキャッチし、ボスがドロップした瓶を拾いに行く。

ボスが落とした絵の具は七色に輝いている。このファンシーなアイテムはそこそこ価値があるらしい。

特に娯楽イベントなどで重宝されているのだとか。式典に使われることもあるとのこと。


ユニークモンスターの湧く間隔はゲームと異なっているようだ。

ゲームではダンジョンボスならボスエリアに入る度に沸いていたし、フィールドボスは1日1体だった。

しかしこちらでは前者が1日1体で後者が数日に1体程度。つまり総じて湧く間隔は長くなっている。

このままここにいても収穫は無いので街に戻ることにしよう。


陽はまだ中天にさしかかってもいない。

さて、昼からは街をぶらついてみようかね。

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