01-02:お買い物です
焼き付いたその姿はまるで星。
闇に紛れるはずの動作は、しかしとても煌めいて見えた。
「要するに私は、君のコードに惚れてしまったんだ」
いきなり何を言ってるのだろう。この薄ら笑いイケメンは。
ああいやここまでの流れもちゃんとあったんだ。
街に着いて解散になり、まず一旦鎧などの重い装備を置くために部屋に戻ってからすぐ再出発。
それから朝食が重かったので昼食は軽く済まそうってことで軽食の店に入った。
帰りに倒したモンスターから剥ぎ取った素材は戦闘班に入っていた俺も分け前が貰えるという話を聞く。
しかしその話の途中に昨日のことや今日の帰りでの戦闘を褒める文言が多く感じた。
訝しんだ気配を察したのかこいつは飾る言葉を捨ててストレートで来やがった。
うんやっぱりいきなりだこれ。
「……だから、何」
「団に勧誘する訳じゃないけどね。しばらく一緒に行動させてもらえないかなって」
いや別に提案自体は良いんだけどさあ。ギルドで依頼を受けるのはしばらく慣れが必要だろうし。
分隊が解散するというなら全体の行動について回る訳にもいかない。
ならば誰かに指導してもらうのがベストなのは理解できる。
この紳士に変な意味の下心が無いのも判る。純粋に俺の戦い方が評価されたのだろう。
好意を正面から示してくるこいつには勝ち負けとかもう意味が無い。
例え自分がやり込められてもそれを喜びそうな笑顔で提案されたら、断る理由が無い身としてはどうしようも無いんだ。
だからと言って素直に受け入れるのも癪というか、ぶっちゃけちょっと気持ち悪い。
「キモい」
「君の言葉も充分に直球だよね。それはそれとして返答は?」
「よろしくお願いしまーす」
まあいいか。
変な先輩さんだが頼りにはなりそうだ。俺のほうが強いけど。
軽食店を出て街をぶらぶら歩く。ファンタジー的な凄い施設なんて無いのだがそれなりに面白い店が目に付く。
この街は中級者の拠点になっていただけあって基本的な店は殆ど揃っているはずだ。
とりあえず『武具店』を目指して歩きながら尋ねてみる。
「オレの短剣ってどれくらいの価値があるんだろ?」
「……とりあえずうちの団長が持ってる竜殺しの槍よりも数段強そうだよ」
へー、団長さんは槍使いなのか。槍の専門職がある訳ではないのでクラスとしては戦士だろうけど、コード構成が気になるところ。
若干遠い目になった隊長さんを後目に大通りの店を見渡す。
ゲームの時と比べて街全体の規模が大きくなっているだけでなく、若干様変わりしている店もあったりするようだ。
例えばドロップアイテムを売りさばいていた『買取店』。
{アコードオンライン}ではモンスターが落としたアイテムは何処でも売れる訳では無く、専門の店で無ければ買い取ってくれなかったのだ。
インベントリ(プレイヤーがアイテムを収納する欄)は装備アイテムや消費アイテムなどが共通になっていたが、ドロップアイテムは別だった。
無制限に持つことが可能なドロップアイテムは金策が必要ないなら溜まってから一気に売ればよかったのだが、こちらでは剥ぎ取った素材の処理が少々面倒な模様。
『ホーンボア』の素材ならそれぞれ肉は肉屋、皮はなめしの専門業者、角などの使用方法が多岐に渡る物品は中間業者と売る先が細分化されている。
まあ当然なのだがこれは結構面倒である。しかしギルドにまとめて預ければ手数料は取られるが全部判別して売ってくれ、後で金だけ貰えるらしい。
安値で買い叩かれることも無いので交渉能力が無い冒険者としても大助かりで、ギルドとは持ちつ持たれつの関係が大きい。
おや、見慣れない店がある。
尋ねてみれば通常の素材を武具強化用の鍛錬素材に加工し、その素材を武具に合成する『精錬店』とのこと。
その場で加工する店なので小ぢんまりとしており、加工専門なので素材の売買などはしていないらしい。
店主はなんと女性である。ふくよかな外見と癒しオーラがありそうな笑顔で特に接客するでも無く椅子に座っている。
「お嬢ちゃん、冒険者になりたてかい?」
「そんなところ。そのうち利用させてもらうかも」
「必要無さそうだけどねえ」
こちらの話を聞いていたのではなく、一瞬抜いた剣を見てそう判断したらしい。おばちゃんすげえ。
しかしこんな悪目立ちしそうな剣を使い続けているのもアレなんで、今日は『武具店』で何か買うと言っておいた。
それならごひいきにーと商売に熱心では無い態度で送り出される。
競合店はあるだろうにあの余裕、何者だおばちゃん。
すぐ近くに見える『武具店』に到着。見たところ『武具店』はゲームの時より非常に大きくなっているようだ。まあ小さい店に色んな武器が無限に置いてあるのはおかしい。
ああ、おばちゃんの余裕は武器を買ってすぐ強化する客が多いからだったか。立地が良いんだな。
適当に良さげな短剣を数本購入して店を出る。〆て約2万なり。
素材の持ち合わせが無いことになっているのでそのまま別の目的地に向かう。
実際はドロップアイテムが大量にウエストポーチに入ってるんだけどな。
「高価すぎるその短剣はしまっておいたほうがいい。そのポーチなら安全だろうね」
「……ん?」
「昨日熱心に聞いていた中にストレージザックがあったよね。そして今日は昨日と全く違う服を着ている。
手ぶらだった上に服を買う暇なんて無かったのに。つまり君はあれを持っており、その価値を知るためだった。腰のポーチがそうだろう?」
あっはっは、あれでもそれとなく聞いていたつもりだったんだがなあ!
こいつにはバレバレだし、一部の隊員にもただの世間知らずとは違うと思われていたらしい。
気を利かせてそのあたりの質問はしないようにと釘を刺しておいてくれたとのことだ。
ウザイケメン。
昨日見た酒場のメニューや今日歩いて見かける看板などでは、文字は日本語に自動変換とかでは無く知らない文字のままだった。しかし何故かしっかり意味が判る。
そういや話している時も日本語で考えているのに喋ったら口の開き方が違うな。そちらも意識していないうちに処理されてるらしい。便利なもんだ。
金銭の単位はビット。パソコン用語みたいな名前だな。ゲーム中でもbtと表示されていた。メニューの金額的に100btが平均的な1品料理の値段のようであり、1000btあれば安物の剣くらいは買える。鉄安いな。
先ほど購入した数本で約2万の短剣は結構品質が良いほうのようだ。俺が持っていたのとは比ぶべくもないが。
一応物陰で普段の短剣と買った短剣の1つを交換し、残りをポーチにしまって次の目的地に着いた。
宣言通りの『服飾店』である。冒険者用の店では『武具店』で売っている鎧以外の防具を取り揃えている。
ファンタジーらしく戦うためのドレスとかもあるのだがそのあたりに用は無い。
普通の布の服も既に精錬で強化されたものが並んでおり、それなりの防御力があるとのこと。
サイズの合いそうな服を何点か選んで試着してみる。
「こういう時って感想でも求めたほうがいいのか」
「よく似合っているよ。ああ黒髪にはそっちの赤いリボンなんてどうだい?」
そつなく受け答えをこなされてつまらなかった。リボンはいらん。
次はイケメンを追い出して下着の購入。
店員さんに手伝ってもらってサイズを調べた。単位の判らない長さの書いた布を持って店員さんが一言。
「腰細っ!」
こだわりですから。
羞恥心はあるが特に抵抗感は無く女性用下着を着用。これはそのまま会計してもらうことにする。まあ胸当てもワイヤーとか入っていない単なる布の塊である。寄せて上げる文化とかは無かったので楽だ。
他にも多目に見つくろって買っておく。戦ってると破れたりしそうだしな。
ポーチに全部入れてしまうのは出し入れを見るだけでバレるので、肩掛けの大きな鞄も買っておいた。
「おまたせー」
「そろそろいい時間だね。夕食にしようか」
結構待たせたのに全く嫌味が無い。イケメンは得すぎる。いやこの場合は顔は関係無いんだろうけど。
明日は依頼受けてみるぞー。