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05-01:カピターレトゥリズモ

絢爛豪華の街並みも今は昔。

白と淡褐色の風景は歴史の跡。





朝の王都を2人で歩く。さすが王都と言うべきか、早朝でも人が多い。

帝王国の王都である帝王都。なんともまあそのまんまなネーミングだ。

普通の町みたいなカタカナ語の名前とどっちが覚えやすいだろうな。


「ちなみに、帝王都の名を冠する都は2つあるんだ」

「ぅん? ……おい、まさかそれって」

「そう、新帝国の王都も帝王都だ。区別する必要がある時には新帝都などと呼ばれたりもするけれど、正式名称は帝王都だと言って譲らない。そして帝王国はそれを別段問題視していない」


はっはっは、バカみてー。

帝王国から分離した新帝国が、自分たちの都こそ帝王都だと主張しているのか。

しかもスルーされてるし。帝位も僭称じゃなく普通に認められてるんかい。


「だがそれも対外的な姿勢に過ぎず、実情は口煩い家臣を無視して両国間の王族が裏で連携を取り合っている、などとよく噂されているね」


……なんだそりゃ。


「北東の未踏破ダンジョンは非常にモンスターの漏出が多いのだけど、被害が特に多くなったら新帝国からの援護砲撃がすぐに来るんだ。本当に国際情勢が危ういならそうはいかないだろう。いやはや、人命が尊重されるのは良いことだね」


いや援護砲撃って何。砲って。

え? 狩人クラスの帝王が上級攻撃コードぶっ放してる? 弾道ミサイルかよ。


帝王国側からしたら自治権やるから前線は任せるぞって感じなのかねえ。

かといって新帝国でそれが表立つと色々面倒だから表面的には対立姿勢を取るフリをしている、と。帝王国側にはあまりメリットはないが、もしかしたら裏取引には未踏破ダンジョンでの収穫物とかで返したりしてるのかもしれんな。


四方山話をしながら歩いているとこの街のギルドが見えてきた。

とりあえず任された情報収集だけはさくっと終わらせておきますか。



驚いたことに収穫あり。っていうか帝王都で捕まって保釈されてたよあの女。

だがそれも国境での騒動だけの容疑であり、物流麻痺の情報が揃う頃には届け出られていた制限住居からとんずらされていたとのこと。

捕り物劇もそれはもう幻術で派手にやらかしたらしく、王都での話題を盛大にかっさらっているようだ。完全におちょくってやがるじゃねえか。


「つーか1度捕まったってのも怪しいもんだ」

「おや、自分では捕まえられなかったから悔しいのかい?」

「うるっせえ。そういうのが無いとは言わんけど、そう簡単に捕まる奴には思えねえんだよ」


ふむ、と考え込むフェイ。あんたのほうがこういうの考えるの得意だろ。

何かないのか。捕まる利点的なのとか捕まるに足る状況とか。


「この国の警吏が特別優秀とは聞いていない。捕まったのが偶発的要因でないとしたら、捕まることか騒ぎを起こすことのどちらかが目的だとみていいだろう」

「んー、もっとヤバい奴から逃げてて牢屋の中のほうが安全だったとか?」

「それなら捕まる時に抵抗せず大人しく捕まればいい。『トロリンガー』の時のように陽動だったか、今回は別の目的があったか……まだ情報が少な過ぎて結論は出せないな」


考えても無駄か。あの飲んだくれのことだ、どんな斜め上の理由でもあり得る。

推察を諦めて手元の杯をあおる。お、この赤いオレンジジュース美味いな。

昼間からでも酒が飲めるギルドの酒場部分だが、さすがに客はまばらだ。

待ち時間に軽く朝食代わりを済ますにはちょうどいいが、帝王国出身の人だと朝は飲み物だけってことも多いらしい。もったいないぞー、このブルスケッタっぽいのも香ばしくて美味いのにー。

っと、窓口の係員から呼び出された。水都の女将さんから依頼された件だな。


「冒険者の確認は取れましたが、その者が所属するパーティーは神話群ダンジョンに現在挑戦中のようですね。荷物はこちらで預かっておきましょう」

「どーも。あ、割れ物らしいんで注意してください」

「承知しました。では代理の依頼完了処理をします……はい、お疲れ様でした」


息子さんに直接会うことはなかったがこれで依頼完了だ。

まずはゆっくり観光するぞー。




闘技場や凱旋門などのわかりやすい観光地を回ったが、驚いたことにそれらは遺構としてではなく現在も保全され使われ続けている施設として人気だった。

流麗な彫刻を施された建造物は非常に美しく、それでいてこの国に住む様々な人の営みによる歴史の重みを感じさせる。さすがに作られた当時と違って色は褪せているのだろうけれど、こういうのはむしろそのほうが情緒があって良い。


そわそわ。


広場ではジェラートを食べた。公共施設には大抵設置されている【ピュリファイ】の術石のおかげで汚れがすぐ綺麗になるし自由に飲食できるのが良いね。


そわそわ。


「……ダンジョンに挑みたくて仕方がない、といった様子だね」

「やー、だってさー。すぐ近くって聞いたらそりゃ行きたくなるってもんすよ」


もちろん観光も楽しいんだけどな。こう、な?

気持ちはわかるけれど、と同意するフェイもやはり冒険者なのだ。

近郊に有名なダンジョンがあると知っていて気にならないはずがない。


だがまあ思い立ったが吉日とはさすがにいかないようで。


「とりあえず今日は僕の鎧探しに付き合ってくれないかな」

「あ、そういや壊れたまんまだっけか。残骸どうする?」

「『精錬店』で鍛錬素材に変換できて次の装備を強化する足しになるんだ。ザックに入れてくれたおかげで助かったよ」


通常なら重いガラクタを持ち歩かねばならないのだが、壊れた時点でストレージザック内での分類が制限のある通常アイテムでなくほぼ無制限に入る素材アイテム扱いになってくれたから労なく運べている。

っていうかそろそろ整理せんと土産物とか色々突っ込み過ぎてヤバいな。



以前に入った時は適当に短剣を買っただけの『武具店』をじっくり見て回ったが、所狭しと置かれた武器防具はかなり迫力があった。剣や槍などはもちろん蛇腹剣や大鎌まで網羅しているあたりさすがファンタジー世界だ。


「しっかしまあ奮発したもんだな」

「これまでと違って神話群ダンジョンでは身を守るのが精いっぱいだろうからね。せめて足は引っ張らないよう出し惜しみ無しで行かないと」


高値で購入した質の良い鎧を『精錬店』で強化して仕上げるため前の鎧の残骸などの素材を預けて濃縮鍛錬素材を発注したのだが、なんとその他にも『ホーンボア』や『フォレストゴート』から取れた素材を使って強化を行っている。

黒山羊はともかく巨大猪の剥ぎ取り後に素材を確保してたとは抜け目ない奴だ。

融通してもらうために結構払った上、鎧の購入費用と精錬費用で手持ちはほぼすっからかんとのこと。気合入ってんなあ。


「それで、こんなのはどうだい? たまには明るい色もいいんじゃないかな」

「こちらのチュニックもよろしいですよ! 新作の柄ですの!」

「……人で遊んでんじゃねえよ」


ソックスとかの消耗品を買いに来たはずなんですがねえ!?

精錬にしばらく掛かるらしいので時間潰しを兼ねて『服飾店』に寄ったらオモチャにされてます。

店員さんまで混じって着せ替え人形状態。単なる服屋と違って防御力などを重視した冒険者用の製品を取り扱う店なのに普通のアパレル店員化してるよ。


「コーディネートの考え甲斐がありますわね……!」

「妹たちで慣らされてるからセンスは悪くないと思うよ。ほら、こっちのティアードとかもどうかな」


うるせえスカート穿く勇気はまだ出ねえよわかっててやってんだろテメエ。

まるっきり無駄に疲れた。明日は思いっきり暴れてやるー。

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