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04-03:浮寝鳥カッロ

町を繋ぐのは人の思い。

様々な事情を乗せ、明日へ向けて走り出す。





元冒険者だという大衆食堂(トラットリア)の女将さんが言うには、ここのところ流通が少し滞っているとのこと。……なんとなく心当たりがなくもないなあ。


「うちの息子も冒険者やってんだけどね。もしこれから王都に行くならついでにこれを届けてほしいんだよ」


こちらで修理に出していたガラスペンだが、本人が受け取りに来る時間が取れないようになったらしい。そして宅配網も若干麻痺していることからこのような配送方法に気を配る荷物はしばらく運べないようだ。

そういうことならちょうどいいし請け負いたいものだが……。


「……こういうのって勝手に受けていいのか?」

「市民証とギルドカードで簡易の依頼手続きができる。大きな金額が動くと違法だが、届け物くらいなら問題ないだろう」


おおそりゃ便利なことで。

カード同士を合わせてちょいちょいと弄れば手続き完了。

簡単すぎて気が緩んでしまうがこれはれっきとした依頼だ。受取人から受領手続きをしてもらわないと報酬は受け取れないのだし、恙なく遂行しなければなるまい。


「ありがとね。王都で何か困ったことがあったらうちの子を使ってやっとくれ」

「客なのにこんなこと頼んで悪いな。こいつはサービスだ」


旦那さんの筋骨隆々な体格と置かれた繊細なドルチェとのギャップに吹きかける。

濃厚なクリームとエスプレッソの香り立つティラミスは非常に美味でした。




戻ったギルドの裏側に巨大な木が生えていました。

なんだこれ。


「2人とも良いところに! あれの伐採を手伝ってくれ!!」

「……やあ、お2人さん。面倒な時に戻ってきてしまったな」


屋根に上って弓を引いているヴィーナと、こめかみを抑えて嘆息する情報通さんに迎えられる。よくよく見れば枝はギルド内部にも伸びて入口を塞いでいるようだ。

いやいやいや、街中で何故こんなことが起こるんだよ。


「薬か何かの原料になる木らしいんだがな。運んできた奴が種を落として、それがあの予測不可能生物の手元だったもんだから訳がわからんうちにこうなった」


ヴィーナってほんとヴィーナだよな。


「わ、私のせいじゃないぞ! 魔力を吸い取られる感じがしたから誰の手に渡ってもああなってしまう種だったはずだっ!」

「そっかー。運が悪いなー。いつものことだなー」

「こういう時に確実に手元に引き寄せてしまうのがヴィーナがヴィーナたる所以なのだろうな……」


俺たちのつぶやきに情報通さんもしみじみと頷く。

いいから手伝ってくれー!と本気で苦戦しているヴィーナがさすがにかわいそうなのでそろそろ取り掛かってやるとしますか。

ギルドにいた冒険者の多くは根本の切り倒しに回っているようだ。被害の拡大を防いでいればそのうち解決するだろう。


「お嬢さんは身軽そうだしあいつの援護をしてやってくれないか」

「そうだね。僕たちはギルドの中の枝を切っておくから、シォラさんは上を頼む」


りょーかい、女将さんから預かった荷物はしっかり守っておけよー。

壁を蹴り屋根へ上る。【レビテーション】とか使うよりこの方が手っ取り早いな。


どうやらヴィーナが苦戦しているのは成長の際に魔力を吸い取られたからコードが使えないせいのようだ。伸びている枝自体は攻撃すりゃ折れる程度の脆さらしい。

一気に燃やしたい気もするけど延焼が怖いな。綺麗に剪定してやりますか。


「【ウインド・スラッシャー】!」


風の刃が隣家に延びようとしていた枝を切り落とす。

地味に便利なコードだなこれ。人相手に使うには手加減とか注意しないといけないけど。


「……あれっ? シォラって魔術師だったか?」

「あー……あれだ、口より手を動かせー」


そういやこいつにサブクラスのこと言ってなかったな。まあいいか。

魔力の籠ってない矢でちまちま枝を落とすヴィーナはこれの相手に向いていないようだ。もちろんコードが使えるなら範囲攻撃でどうとでもできるのだろうけど。

他の屋根に登った者も荒事にはさほど慣れていないらしい。まあ観光地だしな。

自警団とかはまだ来ない。木の爆発的な成長速度は看過できないし、やるか。


「んじゃまあ手っ取り早く片付けてやるとするかね。

{コードアコード}――――【“ウインド・ランペイジ”】!」


暴れ回る低威力コード+下級風の刃で攻撃範囲増強の雑魚散らしコンボです。

一瞬の【エリアル・ステップ】も使いつつ空を蹴り乱雑に跳ね回る。

これだけ枝を落としてやれば大丈夫だろう。後は下の奴らに任せるか。


「凄い! なんだかよくわからないけど凄いぞシォラ!!」


ふはははー。褒め称えよー。

調子に乗ってたら後でフェイに、サブクラスはともかく{コードアコード}で目立ってしまうと追及が面倒だからあまり派手にやり過ぎるなと言われた。ぅむう。



詳しい発生原因などを調べるためにヴィーナがドナドナされて行った。

まあ種を落とした冒険者側の過失だろうし放っておけばいいだろう。


「とりあえずこれだけの情報が集まった。ここ数日の動きは妙だが、結論から言えばその精霊術師の現在地は南の王都だと思っていいだろう」

「帝王都にいるのか……動きが妙、とは?」

「それが何でもヴィーナが護衛してた商隊で起こした事件と同様の犯行を繰り返しているらしい。ああ、そちらのお嬢さんの姿は使っていないようだ」


そこらじゅうの商隊に紛れ込んで酒盛りしてる、と。何がしたいんだあいつ。

やはりトラットリアの女将さんから聞いた流通網の麻痺もあれの仕業らしい。

俺に迷惑かからんならいいけどさー。


「あんたたちも真面目に追うのか? アレが無駄に意気込んでるだけに見えたが」

「やー、あんまりないっす。まあこの情報で懸賞金上がるなら考えるけど」

「警吏は曖昧な情報では動けないが、駅馬車を使ったとしてもあんたたちが帝王都に着く頃には情報も整理されて懸賞金の学も増えているだろう。ヴィーナは急ぐ予定のようだから、今のうちに付き合ってやるのかどうか決めておくといい」


どーするよって聞くまでもなくいつも通り丸投げですよねわかります。

まあそろそろダンジョンも行きたいし急ぎで王都に向かうのは問題ない。着いたら一応あっちでも観光がてら情報集めて、後のことはその結果次第でいいかなあ。


「終わったー! 行くぞー!!」


……いちいちこの勢いに逆らうのも面倒だしな。


放っておくと走り出して行きそうなヴィーナの首根っこを摑まえて駅馬車を待ち、急行のそれに乗って水都を後にする。今度来たらもう少しゆっくりしたいな。

ご丁寧に街の出入り口にある駅まで見送りに来てくれた情報通さんに手を振って別れ、馬車は帝王都へと一路走り出した。



ギルド内を掃除している時に見つけた枝に引っかかっている資料。

その目撃情報は二百年前。よく似た精霊術師がいたという記述。


「こいつはさすがに関係ないか……ま、もしかしたら子孫とかかもしれんが」


情報通の冒険者が1人ごちた言葉を拾う者はいなかった。




流通関連と違って何の問題もなく運行されていた、都市間を結ぶ駅馬車。

これは急行でも丸一日以上かかる。俺にはツラい時間だと思ったが……


「こいつは楽だなー。船でも使っておけばよかった」


馬車酔いでぐったりしていたところ、ヴィーナに【レビテーション】を使ってみたらどうかと言われたのだ。ふよふよ浮く術が出せる全速力は馬車の速度にギリギリ合わせられたから快適に浮き続けています。


「……しかしそれだと馬車を使う必要がないんじゃないかな」

「かもしれん。まあ旅の荷物は置けるしこの預かり物も安全だしでいいじゃんよ」


着替えなどが入った鞄は置いて、女将さんから預かったワレモノ注意な荷物だけ持って浮いている。一石二鳥ですな。

それに全部の荷物持ったら速度が落ちるし馬車に乗る価値はあるということで。

発案者には大感謝だが、当人は揺れるキャビンもお構いなくすやすや眠っている。


「確か【スリープ・シープ】だったか。いつ見ても妙なコードだな」

「ま、コードが無くてもこいつは好きな時に寝れそうだけどな」


狩人クラス専用の睡眠用コード。何ともアホっぽいが意外と有用なのだこれが。

ゲームではHP(生命力)MP(精神力)、に加えてLP(活動力)があり、これが減少するとHPMPの自然回復力が格段に落ちてしまうという要素だった。通常では座るコマンドで一定時間何もせず待つか食品系消費アイテムで回復しないといけないが、狩人クラスだけは寝ることで高速回復ができたのだ。

こちらでは好きな時に好きなだけ眠れるという効果になっており、馬車での移動時間全てを睡眠に回せる上に寝過ぎで体調が崩れることがない便利なコードだ。


まあ何より良い効果なのは、この騒音装置が静かになってくれることだが。

ただし起きた後は拡声器の性能が当社比何倍になるかは想像できないけれども。



途中にあったここでもゆっくり観光したいなあって感じの街で一泊した翌日の夜には王都が到着した。遠くに見えるのは水道橋だろうか、あれも見に行ってみたい。

門の駅で降り、まずは今日の宿を探そうかと思った時だった。

何かを嗅ぎ付けたのかヴィーナが横道に逸れる。そして敬礼のような挨拶。


「街での情報収集は頼む。私は狩人のコードで痕跡を追ってみる! では!!」

「は? ちょ、おい……行っちまいやがった」

「……もう二度と会えなくても不思議ではないね」


…………まあ、いいか。同行の約束は王都までだったし。

パーティと合流する方法はあるらしいから放っておいても大丈夫なのだろう。

気が済むまではどこかで誰かに迷惑かけてるかもしれんが、うん、まあいっか。


何はともあれ帝王国の首都である帝王都に到着。

珍獣はいなくなったがあの酔っ払いを予定通り追うべきか否か。


もう夜も遅い。明日は明日の風が吹くということで、気の向くままに行こうか。

4章終了です。5章は少し書き溜めします。

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