02-06:越境ゲーエン
いざ行け冒険者。山を越え、川を越え、国を越え。
辿り着いた先には、また新たな目標が待っている。
目の前にはグロッキーな男2人。
「調子に乗ってバカスカ飲むからよ」
格闘家の女性が相方さんを迎えに行ったところ、合流した男性が豪快に笑いながら貰った謝礼金をぱーっと使っちまおうぜと持ちかけてきた。そういう金の使い方にちょっと憧れるところがあったから即了承。
宿の酒場は持ち込み可のようだったので、名産や輸入など手当たり次第にどっさりと買い漁った酒をテーブルに並べて飲み比べと相成ったのだ。
「な、情けないじゃねえかニイサン……あの程度で、二日酔いかあ……?」
「……耳元で、喋らないでくれ。そちらも、虚勢を張る余裕はない、だろう」
んで調子に乗って飲み過ぎた男どもがぐったりしてるんですよ。
笑い上戸の絡み酒でガバガバ飲みまくってた男性はともかく、フェイまで弱いとは思わなかった。思考が鈍るタイプのようでぼーっとしてはいたが普通にペース守って飲んでたと思ったらいきなりぶっ倒れたのだ。
肴に手を付けながらちびちびと飲んでいた女性はもちろん元気だ。眉を寄せて相方さんを小突いている。
「……ってーか、信じらんねえのは嬢ちゃんだよ」
「君があれほどまで酒に強いとはな……」
「ん、オレもびっくりだ」
元の世界ではべろんべろんになるほど飲んだ経験がない。
ちょうどいい機会だしどれだけ飲めるのか試す意味でも思いっきり飲んでやろうと意気込んだのだが、気が付いたら2人がダウンしてて持ち込んだ大量の酒は全部空になっていた。これはこれでちょっとつまらんな。
まあ飲んでる時はほろ酔い気分にはなれるから酒の楽しさ自体は知れているということでいいだろう。この体だからなのか元からここまでだったのかはわからんが。
「あー、昨日の記憶が曖昧なんでもう一度名乗らせてもらうぜ。俺は旅の冒険者やってるアレックスだ。」
「では私も改めて、ディタよ。よろしくね」
2人が律儀に名乗りなおしてくれたのでこちらも再度挨拶しておく。
飲みながら色々話して一番意外だったのが、中年手前だと思った男性がまだギリギリ三十路に届いていなかったことだ。
念のため1年の長さを聞いたら10日で1週間、4週間で1ヶ月、9ヶ月で1年とのこと。こちらの感覚からすると変則的な区切り方だが、合計360日に年末の閏日が5日でしっかりと365日になっていた。
つまりガチ老け顔。貫禄が出るから信用を得るにはいいけど地味に心は傷つくらしい。
「ハゲるのは遅いといいな」
「てめえ自分が童顔だからって……あたたたた」
不調時に弄るのはこれくらいで勘弁してやろう。
にしても閏年は無いのにズレが起こっていないのは星の軌道とかが関係してるのかねえ。
「今日は、あの女に関する、調書を、取る、の、だったか……」
「あんたは休んでろよ。出かけられる体調じゃねえだろ」
「そういう、訳には……」
歩くこともままならない状態で何を言っているのかこのウザイケメンは。
そして苦しそうな表情まで映えて見えるのが何となくイラッとします。
「だったら私が代わりに着いて行きましょうか?」
「しかし……」
見かねたディタが提案してくれた。美人さんと一緒に歩けるのは大歓迎ですよ。
「はあ……仕方ない、頼むよ。じゃじゃ馬だから、注意して」
「大人しく休んでろ薄らとんかち」
じゃじゃ馬なんてどう翻訳されてんだよ。良い感じにファジーだなおい。
青い顔の男2人を置いて出発。
「髪は桃色で、瞳はオレンジだったかな。昼間は大道芸やってて薄着だった」
淫乱ピンクの指名手配書作りです。
聴取を受けて質問に答えていく。さほどの情報は持ってないが役に立てるかな。
なお、昨日の昼に見た大道芸は許可を取った団体にあの女が途中から飛び入り参加して混じっていたようで、そちらの団体からは有益な情報が得られなかった模様。
「夜は常に酒瓶持って酔ってた。べろんべろんに見えたけど【レビテーション】で浮いてるのには問題なかったみたいだし、他の術もしっかりと使ってたな」
語尾を延ばした喋り方は演技なのか素なのかよくわからん。策士タイプは苦手だ。
「使ってたコード的に精霊術師だと思う。」
「精霊術師か……少々厄介だな」
精霊術師クラスの適合がある者は結界術師より少なく召喚術師より多い。
だが企業や富豪のお抱えになるのが通例の他の術師と違い、自然と密接に関わる術体系なゆえか奔放な性格でひとところに留まらない者ばかりだからコードなどの実態が把握し難いとのこと。
死霊術師すら薬などの研究で勤めることが多いのに精霊術師は凄い自由人らしい。
さもありなん。あの女を見た後ならすんなり納得できる。
「協力ありがとう。少ないが情報提供の報奨金だ」
あざーす。ブランチ買って帰るかな。
ちょっと驚いたのが聴取に使っていた道具だ。
質の良さそうな植物紙から始まり、インク瓶に浸さなくても書き続けられるペン、電子辞書のように検索して情報を見れる書籍、ホログラフが投影されるテレビ電話っぽい連絡装置と色々凄かった。こっち来て最大のカルチャーショックだ。
あと天井はまるでシーリングライトのように光っていました。
感心しながら詰所を出てディタと合流する。お待ちー。
あ、屋台でお薦めとかある?
「味と食べやすさならどっち優先?」
「もちろん味で」
だよねー、と笑いあう。
男どもにどってり食べ応えのあるお土産を買ってやろう。じゃじゃ馬ですから。
串焼きを無理やり詰め込ませてから苦ーいお薬飲ませたら結構治ったようだ。
ちょいつまらんな、とか思ってたらバレたらしく半眼で溜息つかれた。
こりゃそのうち反撃が来るかもしれん。用心せねば。
「しっかし嬢ちゃん、お前さんホント大した奴だな」
「酒の強さが?」
「まあそれもあるけどよ。昨日の怪しい動きしてた奴らをぼこったあれだ」
さっくり片付けたのは確かだけど、昨日凄かったのあんただろ。
俺がやったのは倒しただけ。怪しい奴を見抜いたのは殆どアレックスだった。
「まーそこはあれだ、熟達した冒険者の勘ってやつだな」
「そうね。あなた8割方はそれで何とか冒険者やっていけてるようなものですし?」
ディタの茶々入れにひでえ、とごちるアレックス。
これぞパートナーって良い雰囲気だ。ああいう感じになれるだろうか。
「君は最初から遠慮がなかっただろう……」
こまけーこたぁいいの。
しかし8割方が勘ね。なんとなーくそれだけじゃない気もするのだけど。
能ある鷹が隠しているのは爪かそれとも……。まあこの場でつつく気はない。
「依頼受けてなかったら俺らもお前さんらと一緒に旅してみてえんだがな」
「残念ね。帝王国へはやっぱり神話群ダンジョンに?」
神話群ダンジョン、前にゲームでも聞いたことがあるダンジョンの種類だ。
帝王国南部の巨大ダンジョンもそれに分類されるらしい。
予定を変えてアレックスたちと一緒に美芸国に行ってもいいと思っていたが、朝鮮したことのないタイプのダンジョンがあると聞いたらやはりそちらへ行ってみたくなる。
うーむ、どうしたものか。
「我慢していられないだろう。美芸国は文化の国だ。君はすぐに暴れたくなるよ」
「ひでえ。でも的確」
やっぱ行きたいよね特殊なダンジョン。
予定通りに相成りました。今からワックワクです。
「思いっきり楽しんできな。きっとお前さんでも暴れ甲斐があるぜ」
そこまで脳筋じゃないつもりなんだけどなー。しかし否定する材料が見当たりません。
「んじゃ、達者でな」
「また会えるといいわね」
機能が回復した国境線を越えるのは簡単だった。ギルドカードは身分証明書にベストらしい。あっちでの運転免許証くらい便利っぽい感じ。
国境の町を出てアレックスたちと別れる。大きなダンジョンの内部を進みながら東にある美芸国の王都へ行くらしい。依頼主が調合する新しい絵具の材料を道中で採取する必要があるのだとか。
「いつかきっと、また会おう」
「じゃーなー」
別れの挨拶を交わして別の道を進む。
南下する俺たちの前には山脈がそびえる。
フィールドを抜け、もう一度国境を越えたら帝王国だ。
晴れた空にいつかの先を想う。
どこかで道は繋がっている。
そう思える出会いだった。
手を振り別れ、俺たちは歩いていく。
笑顔を浮かべ、未来の歓びを期待しながら。
2章終了です。3章と4章はちょっと短めで2月中の投稿になると思います。
タイトルに付け加え&サブタイトル入れました。
あとシォラとフェイの容姿の描写が足りなかったので序章にちょこちょこ追加してます。




