02-05:御破算エンデ
同胞達に自由を。罪なき彼らの苦しみを知れ。
圧制者に鉄槌を。咎なき我らの憎しみを知れ。
そのまま降りたら花降らしの犯人だと思われそうなので細い路地にこっそり着地。
何食わぬ顔で大通りに出た瞬間に警鐘が鳴り響いた。思わず身構えてしまったが、女の言う通り正門に襲撃があったのだろう。
軽く避難誘導をしてから正門に向かうつもりだったが、花で起こった混乱が存外に大きいようだ。
もう花は消えかかってるのにオーバーリアクションで騒いでる人までいるし。外国人だからなのかやたらと芝居がかってるように見えてしまう。
背後から物音がすると思えば集団でざっかざっかと移動している。
あーあー路地裏でそんな走ると危ないぞ。まだ完全に花は消えてないんだから滑りそうだし。
こりゃすぐには正門に行けなさそうだな、色んな意味で。
夜に響く金属の音。それは警鐘のものであり、剣の打ち合うものでもある。
闇を切り裂く刃の煌めき。それは果たしてどちらのものだろうか。
正門では守衛に加え、駆け付けた冒険者が野盗との戦闘を開始していた。
混乱の中を急襲されたとはいえ相手は所詮冒険者を続けられなかった奴らなのだ、決して野盗側が優勢にはならない。
だが町に侵入される訳にはいかないことに手間取り、場は膠着状態にあるようだ。
「装填完了!デケぇの行くぜオラァ!!」
「おっしゃコードかましたれ!!」
弓を持った後衛の野盗がコードの準備を終える。
大多数は戦士クラスだが、狩人など他のクラスも少しは混ざっているようだ。
前衛が敵を押し留めて後衛が高威力のコードを使う。たかが野盗の集団と侮ることなかれ、最低限の基本的な戦略くらいは知っているらしい。
とはいえ……
「んじゃ景気付けに。{コードアコード}――――【“フェイク・ワークス”】」
「ほ、ほわぁーーーーーー!?」
そう簡単に大技出すのを許すもんかっての。
鮮烈で儚い光の祝砲。夜に咲く花は、何も煌びやかな幻影の花びらだけではない。
轟音を伴う急激な閃光が炸裂し、照らし出された男たちが悲鳴を上げて転げ回る。
放ったのは花火打ち上げコードに猫騙しコードを混ぜた広範囲怯ませ技。コードの使用停止だけでなく目を眩ませることもできたようだ。ゲームでは真上にしか飛ばなかった花火を水平に撃つの楽しい。良い子は真似すんなよ。
意外とワイルドに男たちを蹴り飛ばしたりしてるフェイに合流。防衛乙です。
「……随分と時間が掛かったね」
「悪い、女は取り逃した」
やー、メンゴメンゴ。ありゃ意外に高レベルっすわ。
ああいった手合いとはやり合いたくないね。酔っ払い的な意味でも。
男たちはすぐに起き上がった。どうやら魔術コードによる花火は火薬などの化学反応とは違った原理の光なようで外傷はない。転んで擦り剥いてるバカ以外は。
あれが攻撃コードの威力だと思ったのか、気を大きくした下卑た笑い方がキモい。
「さっさと終わらせるか、一気に叩くぞ」
「では先にあれを片付けておくとしようか――【スロワー・スラスト】!」
おお、振りぬいた剣から飛んでいった剣閃が後衛の弓だけを壊した。器用な。
俺も張り切るとしますかね。
「【グレイズ・ランペイジ】――――!!」
刹那、俺の姿を見失ったのは野盗どもだけではないだろう。
足を止めてから幾拍か遅れ、意識を刈り取られた野盗たちが地に伏す。
攻撃力を激減させ通常攻撃よりも弱くなる代わりにスピードを極限まで上げ広範囲を切り刻むという盗賊クラスの中級攻撃コードだ。今回は殴って気絶させたけど。
その場の誰もが捕捉しきれないほどの高速、これこそがAGL極振りの真骨頂。
「……さすが、だね」
基本ウザいけどやっぱ感心されるのは気持ちいいなー。
まあぶっちゃけこの技、防御力高い相手には完全ノーダメージになるんだけど。
ざっ、と足音が響く。後衛よりさらに後ろから体格の良い男が出てきた。
「ふん、1人増えたからって調子乗んじゃねえぞ。今にテメエらは仰天して命乞いするハメになんだよォ!」
リーダー格なのだろうか、前衛的な剃り込みの男が吼える。
若干足が震え気味なのは見て見ぬふりをしてあげたほうがいいのかな。
「……悪いが、お仲間なら捕まえたぞ」
「くっくっく、あんな酒飲み女が捕まっても俺たちには関係ねェ。今頃町の中じゃ目的達成って寸法だ!」
「潜伏してた奴らが7人と別働隊が12人」
「な――――何ィ!!?」
要するに2段構えだったって訳だ。
精霊術師の女が花を降らして町を混乱させ潜伏犯がそれを過剰に煽る。
頃合いを見て合流した潜伏犯に別働隊が武装を渡して一気に目標を叩く。
無い知恵絞ったにしては中々良い作戦だな、協力者にやる気がなかったのは致命的だけど。
「な、何でわかったんだ!?」
「いやぁ、たまたま怪しい動きしてた奴らを見つけたんでな。多分オレが女を少しだけ早く撤退させたぶん、別働隊が丸見えになってしまった……みたいな感じ?」
「くっ、クソっ!! あの女、散々ふんだくった癖に半端な仕事しやがって!!」
「端金とか言ってたぞ」
「クソがあああああああああああぁぁぁ!!!!」
良い女は安くないんだろうなあ。いやはや怖いものを見た。
地団太踏んでる男に先ほどまでの余裕は全くない。企みは潰せたとみていいようだ。
「まあわからないことがあるにはあるんだがね。狙いは昨日オレらが捕まえた野盗の解放だろ? でもしっかり尋問して仲間はいないって確認したんだよなあ」
「そういえばそうだったね。嘘を言っているようにま見えなかったけど……」
「ほう、あいつらを捕まえたのはテメエらか。そんなら良いことを教えてやろう」
落ち着きを取り戻した男が口角を吊り上げた。腕を組み声を張り上げる。
「俺たちゃ野盗互助組合の一員! もしどこかで野盗団が捕まることがあれば他の野盗団が助け出す! 集団の枠を超えた支え合いの精神で繋がっているのだ!!」
……この世界の犯罪者はこんなんばっかなのか。
ちゃっちゃか倒して晩飯食いてえ。そう思ったのは俺だけじゃないよな。
「はああぁっ! 【パーム・ストライク】!!」
向こうのほうで他の冒険者とやりあっていた男共が一気に弾き飛ばされた。
人垣が崩れた先に見えるのは昨日一緒に晩ご飯食べた女性だ。腰を落とし掌底を放った姿勢でゆっくりと息を吐いている。気功を使う格闘家クラスっぽいな。
「ふぅ、こっちはあらかた片付いたわよ。まだ続ける気?」
「ぐ、こ、このォ……」
「こちらも終わった。残るは貴様らだけだ、大人しく投降しろ」
どうやら他の冒険者も受け持っていた野盗の鎮圧が完了したようだ。
中に侵入されないよう注意して慎重に戦っていただけで、やはり力の差は歴然。
というかこの程度の奴らだったら正門の守衛だけでも倒せてたかもしれん。
拳と剣を突き付けられた男が崩れ落ちる。
「お、俺たちの完璧な計画があああぁぁ」
「というか結局はまともに冒険者続けられなかった低レベルの寄り合いなんだから弱いことには変わりないわよね。普通に勝ち目なかったんじゃないかしら」
「上手くことが運んで挟撃になっていたとしても負ける要素が見当たらないね」
見えない刃が野盗の心にグサッと刺さる。そこらへんにしといてやれ2人とも。
完全に消沈した男たちはもう抵抗の意思がないようだ。勝ち鬨とかあげられる空気じゃねえなこれ。
「あ、ところでうちの相方知らない?」
「向こうで一緒に戦ったぞー。今は捕まえた奴らを詰所に連行して貰ってる」
「あら、そうなの。急に正門は任せたとか言うから何かと思ったら」
そうそう、偶然見つけた俺以外にも気付いてる人いたんだな、って感心したら昨日の男性でちょっと驚いた。こういうことに鼻が利く人はどんなふうに察知してるんだろ。やっぱ人生経験とか重要なんだろうなあ。
正門の守衛や冒険者たちと野盗を縛り上げながらつらつらとそんなことを考えてみる。俺にもそれだけの経験が身に付く日が来るのだろうか。
とりあえず今はこいつに頼っとけばいいか、とロープを切って逃げようとする野盗に一撃入れているフェイを見ながら肩を竦めた。やっぱこういうことは手馴れてんのな。
さすがに第3波は無いかしっかりと尋問した後に解散の流れとなりました。事態解決にあたった者には多少の謝礼が出たので今晩は美味いもん食うぞー。腹減ったー。