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02-03:路地裏アルプ

路地の裏。潜む影が呼ぶは小さな事件か、大きな出会いか。

起こる場所が変われば異変の意味さえも変わってくるのです。





「国境……線だな」


目の前に広がる不思議現象。

視界を横切る1本の線。

一旦外に出て町の外周沿いに南を目指した先に現れたのは謎の線でした。


なんだろうねこれ。上から見れば泉にでも見えるのだろうか。


「これが国境線だよ。この線からこちら側が新帝国、向こう側が美芸国」

「いやマジで線だとは思わんかった」


左を見れば町の家屋。右を見れば小山に連なる坂。鬱蒼とした森は線の向こうにもに続く。

見上げれば空を覆い隠す木々の切れ間から日の光が差し込む。森林セラピーって良いよね。


人間だけは通れない不可視の国境線と聞いたが、線は見えてるぞ。

黒とも白ともつかない変な色の線が肩くらいの高さを横切っている。

地形に沿って上下しているようなので単純に張られただけの糸ではないのだろう。

矯めつ眇めつ見てもどういったものかわからん。つまり不思議現象ってことだな。

ファンタジーは深く考えちゃダメってことで説明ぷりーず。


「前にも言ったけど人間が通れない線……以上の説明はできないのだよ。そのまんまだから」

「ってことはモンスターとかは通れんの?」

「大抵のフィールドモンスターは縄張りを持ってるからわざわざ移動したりしないけどね。常に移動し続けるモンスターもさほど珍しくはない。そういった種は色んな国を巡っているよ」


渡り鳥みたいなもんかねえ。え?数ヶ国の平原を高速疾走する奴もいる?うわすっげえ見てみたい。


ガサガサと鳴った音に、すわモンスターかと思ったがただのウサギさんでした。

そしてただのウサギさんかと思ったがモンスターでした。口めっちゃ開いたよ牙あったよ齧歯類じゃねえのかよ。

倒すの忍びない低レベルモンスターだったので適当に投げ飛ばしといた。もふもふだし大きな怪我はしないだろ。


「……こんな町の近くにまでモンスター出るんだな」

「町の中には入れないようになっている。結界を構成する魔導具は国境線の物とは正反対に、人を通してモンスターを遮断するものだね」


外との境界に遮断する幕を作るようなものなので、この間の事件のように内部にゲートを作ると通れてしまうらしい。

それを利用した事件はたまに起こっているが、完全にモンスターを侵入させなくする方法は存在していないとのこと。


「そろそろ触ってみたらどうだい? 何が起こるというようなことはないよ」


なんだかんだ考えて線に触れなかったことを見抜かれている。

だってちょっと怖いじゃん。有刺鉄線柵とか電気フェンスとか。


恐る恐る線に触れてみる。うん、何も起こらない。

押しても線は全く動かないので引いてみよう。


「……ぅん?」


線の上下から摘まもうとした指が先へ進まない。

ぺたぺた触ってみても、力を込めて押し込んでも、わりと思いっきり殴ってもびくともしない。手が痛い。

きっと向こうから見ればパントマイムのようになっているのであろう。


「……なるほど。“不可視”の国境線、ね」


確かにこれはしっかりとした見えない壁だ。

線の上下から向こうには指1本たりとも通れなくなっている。飛行系の術などもあるし遥か上空までこの不可視の壁は続くのだろうな。


「あまり大した物ではないだろう? ただ単に通れなくなるだけしか効果は無いんだ」

「規模がデケぇだけで、ただの見えないバリアだなこりゃ……」


国境線勉強会はあっさりとしたオチで終わったのでした。




お八つ時くらいだったので有り余る時間をちょっと狩りに勤しむ。

慣れなきゃいけないのは倒し方じゃなくて剥ぎ取りのほうなんだよなあ、ってことでぐさぐさやっても心が痛まない感じのモンスターを探した。

リアルに獣な感じだとやっぱり血の気が引くので、まずは水辺の怪みたいな不定形だったり変な生物だったりする奴らで練習です。

実は結構感覚的にも新鮮。ゲームだと平原や森のフィールドの後はダンジョン潜ってばっかりだったからなあ。

ちょくちょく水属性ダンジョンもあったけれど、水没した神殿っぽかったり滝の裏側の洞窟って感じだったり綺麗なところが多かった。


「でもやっぱ『湿地帯奥地』みたいな幻想的なモンスターがいいよー」

「湿地帯フィールドにいくらでもこんな奴らはいたと思うけど?」

「あー、新帝国来る頃にゃあのあたりは倒す意味もなくなってたし」


ゲーム開始地点は神聖国。低レベルダンジョンが密集している国でチュートリアルを受ける。

そして中級まで育ったプレイヤーは新帝国に居を移す。帝王のレベルに並ぶLv250までは新帝国で活動するのがセオリーだ。


「しかし世界最強の王が神聖国の女王ってのはどうなってるんだか」

「五大国の王族は謎に包まれているからねえ。強大な力で威光を示すけれど顔を晒すことは一切ない。不老不死で代替わりしていないって噂もあるくらいだ」


新興国である新帝国の帝王なら普通に顔を見て謁見できるし、色々知ってるだろうから聞いてみりゃ答えてくれるのかな。

まあそんなコネはフェイにもないだろうし王都に行きたがらないのでやめとこう。

下手に突っついたらまた反撃が来そうだ。こういうのは多少間をおいてからじゃないと。


「ぅへえ、触手出た触手」

「ローパーだね。どうかしたのかい?」

「触手っつったらほら、女騎士でエロエロだろ常識的に考えて」


真っ当なことを言ったはずなのに呆れられた気配がする。解せぬ。

自分がこんな雑魚の餌食になることはないが用心に越したことはない。こういった種類のモンスターには注意しておこう。18禁展開はのーせんきゅー。



暗くなってきたので町に帰ろうと思ったのだが、現在位置は先ほど国境線を確認した場所の近くの川。

つまり正門に行くにはまた外周をぐるっと回り込まないといけない。めんどくせ。


「ふぁいとー」

「子供の頃以来だよこんなの……」


低めの塀を乗り越えることに決定しました。ほーら頑張れ重装備さん。


「フルプレートやめたほうが良くね? めっちゃ重そうなんだが」

「君と行動するなら軽い鎧に買い替えるべきだったな。はぁ……」


人間の通行は阻まない結界を抜けたのはいいが何処だろねここ。

まあ真っ直ぐ進めば大通りに出るっしょ。イケイケゴーゴー。


「待ってくれ。警戒もせずそんな速足で進むものではない。足元に注意をだな」

「オトンか……ああ、そういやあんたは【暗視】コード使えねえのか」


夜でも行動が阻害されないのは盗賊職の特権だ。習得コードをソロ用に選択してるとこういう時に面倒が出るな。

【暗視】のコードレベルをMAXまで上げているので俺の視界はとってもクリーン。

ゲームでの夜は暗くなるのとモンスターの名前や体力が表示されるポップアップゲージが見えなくなっていた。

他職の人でも前者はモニタの輝度を上げたら問題なかったが、後者が見れるようになるには【暗視】コードが必要だ。

そういやこちらでの【暗視】コードはゲームみたいに単純に明るくなるんじゃなくて暗くても見えるって感じなんだな。

赤外線スコープよりも鮮明に見えるけれど、かといって昼と同じって訳でもない。何とも妙な感覚だ。


「はよ歩けー……ぇう?」


ほんの少し欠けた月の明かりに照らし出される小さな影の数々。

足もとを無数に蠢く地の黒はぞくりと背を凍らせる。

見上げた空に戯れる天の黒はぞくりと肌を逆撫でる。


ひらひらと降り積もる。

世界の五季は小雨季。銀世界の雪季は過ぎたばかり。

凝らした目に映るは六花ではなく色とりどりの花弁。

路地に舞う花びらの先。


窓に腰掛け妖艶に笑むその姿。

仄暗い路地裏の中ほどに――


「あら、さっき振りね~」


大道芸のかわいいお姉さんがいた。

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