今日の料理 紅白の海鮮丼
コクウ警備艇の甲板で開かれている勝利の宴は、月が真上になってもまだまだ続く。
この戦いで大活躍した猫人族の子猫たちも船に乗り込んできた。
子猫たちは興味津々で警備艇の中を探検したり、大人たちの宴会に混ざり、また甲板からカエルを餌に釣り糸を垂らしている。
SENと、ティダが逃げ出し入れ替わりに竜胆が座るテーブルに、ハルは大きなどんぶりを運んできた。
「この風香十七群島は、海の幸がとても豊富なんですよ。
ということで、是非SENさんと竜胆さんは絶品の海の幸を味わって下さい!!」
「海の幸、ということは……ゴクリ、もちろん刺身だよな」
砂漠のオアシスも高原の鳳凰小都も、めったに魚は食べられなかった。特に鳳凰小都は塩辛い料理が多く、たまに食べられる魚も塩気の強い干物で新鮮な魚が出ることはない。
「そうですよSENさん。新鮮な魚と捕獲したモンスターで作った究極の海鮮丼を毒味、いえ、食べてもらいたいんです」
その時SENは少し酔って警戒心が緩んでいた。
あのハルが作る料理だという事をすっかり忘れてしまっていた。
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今日の料理 紅白の海鮮丼
【材料】
★海鮮具材
赤身の魚切り身&砂漠竜の肉
白身の魚切り身&蒼牙ワニの肉
風香黄金ウニ
風香海ぶどう
イクラもどき
おにぎりの実
三月蜜柑ビネガー(スシ酢)
ナノハナ海醤油
天願山わさび
【1】炊いたおにぎりの実を冷ましながらスシ酢を加えます。
【2】どんぶりにご飯をよそおい、海ぶどうを乗せます。
【3】海ぶどうの上に、砂漠竜と赤身魚の切り身を花びらのように重ねて盛りつけます。
【4】白身魚と蒼牙ワニの切り身も同じように盛りつけます。
【5】黄金ウニを中心に乗せて、イクラもどきを周囲に散らします。
【6】わさび醤油で頂いて下さい。
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どんぶりの蓋を開けると、中には緑の海ぶどうの上に紅白の刺身が花のように飾り付けられ、色鮮やかな黄金色のウニと艶やかなオレンジ色のイクラが乗っていた。
まるで花束のように色鮮やかな海鮮丼、ゲテモノは砂漠竜とワニ肉だが味は保証済みだ。
「では一口、はむっ、おお、米は薄い酢飯で柔らかくてまだ温かい。米が温かいから、海ぶどうを敷いてその上に刺身を乗せているのか」
「そうですSENさん。島の浅瀬には海草の海ぶどうが生えているんです。刺身と一緒に食べるとプチプチした食感が美味しいですよ。
あっ、竜胆さん!!せっかく飾り付けた刺身をグチャグチャに混ぜて食べないでよ」
「なんだよハル、せっかくの砂漠竜の肉ならもっと分厚くしろよ。いくら飾り付けても腹の中に入れば同じだろ」
ハルと竜胆が言い争いを始める横で、SENはどんぶりを持つとそのまま口元に運ぶ。
三口ほど食べると、どんぶりに飾り付けられた具材の位置が変わっている事に気がついた。
「赤身の砂漠竜は大トロ味で、他の魚はシコシコと噛みごたえがある。白身の蒼牙ワニは柔らかくてほのかに甘いな。ウニと一緒に食べると、もぐもぐ、濃厚で贅沢な味だ。
なんだ、おかしいなぁ。ウニの隣に並んでいたイクラが白身魚の上に移動している?」
「あっ、SENさん。ウニとイクラは多めに乗せているから、新鮮なうちに食べて下さい」
SENの言葉に少し慌てた様子のハルは、海鮮丼を早く食べろと急かす。
そういえばイクラって鮭の卵だが、こんな暖かい海で鮭なんて穫れないよな。待て……それじゃあこのイクラはなんだ?
SENは考え事をしながらも海鮮丼をむしゃむしゃと食べ、ふと、喉奥で何かが動いた。
「なんだ、喉に違和感が……骨がささるワケ無いよな。
ウニやイクラに骨はないハズだが、うわっ、マジで喉の奥でなにかが動いているぞ!!」
SENは驚いて手にしたどんぶりを落としそうになる。
その中身を目を凝らし見ると、今度はイクラがどんぶりの中から飛び出してきた。
小さな赤い卵にしっぽが生えている。これはまさかオタマジャクシ!!
「SENさん、早くどんぶりの蓋を閉めて。イクラもどきが逃げちゃう。
これは海赤カエルの卵です。味はイクラと全く同じだけど、時々おたまじゃくしに孵化したのが混じっているんですよ」
「この、イクラがにせもの、まさかカエルの卵だと」
一気に血の気の引くSENに、ハルは平気な顔で熱いお茶を差しだした。
「この島の珍味で、猫人族の漁師は海赤カエルの卵が動いている方が新鮮で美味しいって言いますよ。
本当はにぎり寿司にしたかったんだけど、このイクラもどきが跳ねるから、諦めて海鮮丼にしたんです。どんぶりならフタをしてイクラもどきが逃げないようにできるしね」
まだどんぶりを見つめているSENの隣でハルが熱心に説明をしている。
竜胆はおかわりと空のどんぶりを差しだし、萌黄と猫人族の子供たちがやってきて、自分たちも同じ料理が食べたいとねだる。
「まさか、イクラのニセモノがカエルの卵なんて、きっと遺伝子操作で作られたモノだろう。
ううっ、カエルの卵を食べちまったよ。旨かったけど、美味かったけど、だがカエルの卵だ!!」
離れた場所でティダが複雑の表情で眺めている。
文句を言いながらも結局完食したSENに、ハルは瞳をキラキラと輝かせながら話しかけた。
「SENさん、次はどんな料理が食べたいですか?
僕がんばって、この世界の食材で料理を再現しますよ」
「ハル、俺としては毒味役を卒業したいんだが。竜胆に食わせればいいじゃないか」
しかしSENの願いは、料理オタクのハルに聞き届けられることはない。
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【海赤カエル】
風香十七群島の浅瀬に住むカエル。体長三十センチほど。色鮮やかな赤い体をカモフラージュするため、背中に海草を生やしている。
海の上をジャンプで移動することもあり、干潮時に海から砂浜に現れ、小さなカニや小魚を食べる。
沖での大型魚の釣り餌に、このカエルがよく使われる。
カエル自体はとても渋くて食べられないが、卵は色かたちがイクラによく似ていて、味もほとんど同じ。
猫人族の漁師が酒のつまみとして、カエルの卵をよく食べる。
食事中の方、すみませんすみませんっ!!
えっ、海鮮料理なのに両生類と爬虫類、言われてみれば確かに……テヘッ!!