新たな仕事
こんにちは。 STBです。
今回からやっと魔術的要素が出てきます。
まだまだ稚拙な文章ですが、引き続き温かい目で読んで頂ければ幸いです。
北欧某国。 15時09分。
しんしんと降り続ける雪。特に音は無く、それが逆に心地いい。
そんな中、降る雪のように白い髪の少年―ヘンゼルは微動だにせず、黒光りする銃器を構えていた。
それは、ヘンゼルの新たな装備の一つだ。
主力兵装、H&K HK33。
ドイツの銃器メーカー、ヘッケラー&コッホ社のアサルトライフルである。
さらに予備兵装として、同じくH&K社のUSPハンドガンとMP7サブマシンガンがヘンゼルの横に置いてあるアタッシュケース内に入っていた。
その三つの装備は、全て契約金代わりのものだ。
ある『魔術師』の護衛をするという契約の。
二日前。
「魔術?」
それを聞いたヘンゼルは怪訝そうな顔をする。
「信じられないか? まあそうだろう。表社会はおろか裏社会にも知る人間はそういないからな」
知らなくて当然、という風に少女―リズは説明を進めた。
「魔術というのは、世界の歪んだ部分から生まれたものだ。仮にこの世界が神によって創られたものと考えると、魔術は『神が世界を創った時に生じたバグ』ということになる」
神という単語が、ヘンゼルの脳内に強く残る。
今までにヘンゼルが赴いた戦場、特に中東地域では『我等が神の為に』と言って戦っていた兵士が多かった。
もし彼等に『神にも誤りがあった』と言ったらどんな反応をするだろう。
「そんなバグを力として使用しているのが『魔術師』だ。当然普通の人間では出来ないような芸当が出来る。....ちなみに、私も魔術師の一人だ」
「じゃあアンタも、指から火を出したり周りを凍らせたり出来るのか?」
「生憎だが、私の使う魔術はそんな低級のものではない。....私の魔術、見てみたいか?」
「いや、別に」
ヘンゼルの即答にリズは残念そうな顔をした。
「ま、まぁいい。いずれ君も私の魔術を見ることになるだろう。それより、魔術の説明が終わったところで本題に戻ろう。君を襲った『謎の勢力』について」
二日後。 15時10分。
望遠レンズ片手に、リズは家の2階から一人の少年を見ていた。
少年は微動だにせず、アサルトライフルを構え装着されているスコープを覗いている。
「クラン、ヘンゼルは何をしているのだと思う?」
本当にヘンゼルが何をしているのか分からないリズはメイドであるクランに尋ねる。
「新しい銃器の性能チェックではないでしょうか。先程ヘンゼル様に『この家の裏にある山には何か動物がいるか』と聞かれましたので、キツネなどが生息しているとお教えしましたから」
「つまりキツネ狩りか。これから彼が相手にするのは魔術師だというのに」
「あら、キツネを狩るのも意外に大変ですよ。それに新しい玩具で早く遊びたい子供みたいで可愛らしいじゃないですか」
その言葉にリズは溜息をつく。
「私がヘンゼルに求めているのは可愛さではない。魔術師相手でも対等にやり合える戦闘能力だ。言うならばクラン、君が『修道会』にいた頃と同じレベルのものが欲しい」
修道会。
その単語はクランにとって懐かしく、自分の血生臭い過去の象徴だった。
「あれはいい思い出です。『血祭り屋クラン』と呼ばれて世界中を飛び回り、標的の魔術師を狩り続けた。そんな私が今や魔術師のメイドをしているなんて、運命とは皮肉なものですね」
何処か遠くを見ながら言うクランを横目に、リズは再びヘンゼルの方を見る。
「運命なんて分からないものだ。私がヘンゼルを拾ったのも運命だったのかもしれない」
「お嬢様の口から運命なんて言葉が出るなんて。ちょっと意外です」
確かに、魔術師は運命などという不確定なものを信じない。
それは自分自身が魔術という不確定なものを使っているが故でもある。
当然リズもその手の魔術師の一人のはずだ。
「私も自分で言って驚いている。しかしその言葉以外に私がヘンゼルを拾った理由が思いつかない」
「....食屍鬼に襲撃されながら、たった一人生き残った兵士だからではないのですか?」「それも確かにある。だが違うんだ。彼は―」
そこでリズは言葉に詰まる。
そこから先、どう言えばいいのかリズには分からなかった。
「申し訳ない。どう言えばいいか分からないんだ」
そんなリズにクランは優しい声で言う。
「焦らずゆっくり考えればいいんです。時間はありますから」
「....そう、だな」
その時リズは自分が今、少し笑ってることに気づいた。
二日前。
「君を襲った『謎の勢力』あれは食屍鬼という化け物だ」
食屍鬼。
その存在をヘンゼルは聞いたことも無かった。
しかし、やはりあの化け物が人ではない何かだったということは分かった。
「食屍鬼は魔術によって創られる。私はあの国で、アレを創った魔術師を追っていた」
「捕まえたのか? その魔術師」
「いや。私も奴をあと一歩のところまで追い詰めたが、直前で製作途中の食屍鬼を解放され逃げられてしまった」
それがあの地獄絵図の理由らしい。
「奴はあの国を出て、今はアフリカ地域にいるらしい。....そこで君に頼みがある」
リズは突然、ヘンゼルの手をしっかりと握った。
ヘンゼルが数年ぶりに感じた人の手の暖かさだった。
「私の護衛になってくれ。奴を狩るには君の力が必要だ」
二日後。15時17分。
ヘンゼルはスコープの十字の中心に、キツネがやって来るのをただじっと待つ。
引き金に指をかけて約十秒。その瞬間がきた。
指に力を入れ、キツネの頭を撃ち抜く。
「これで三匹、か」
食すわけでもなく動物を殺すその行動は褒められたものではないが、ヘンゼルはそんなことを気にするような人間ではない。
ヘンゼルの新たな仕事は護衛任務。
今まで経験したことが無いものであったが、契約金を貰ってしまった以上断るわけにいかない。
再びHK33を持ち直し、新たな目標を見つけようとするヘンゼルだったが、
「何だ、あれ」
70メートル程先に、奇妙な何かを見つけた。
全身黒に覆われていてはっきりと分からないが、人型であるということだけは判別出来る。
ソレは周囲を警戒するような行動を見せ、次の瞬間およそ人間とは思えないスピードで走って行く。
その先にあったのは、リズとクランのいる城のようなあの家―エンフォート邸だった。
「あれは....まさか!?」
魔術師。または魔術によって創られた化け物。
確信は無かったが、ヘンゼルはHK33と予備兵装の入ったアタッシュケースを持ってエンフォート邸へと急いだ。
15時29分。
装備一式を抱えて家の方に走って来るヘンゼルをリズもクランも見ることが出来た。
「何だ一体? 全速力で走って来るぞ」
ヘンゼルが家に入るのを確認して一分経たずに、彼は二階のリズの元へやって来た。
「どうしたヘンゼル。そんなに大慌てで」
「どうしたじゃない! 今、森の方で黒い人型の何かがこの家に向かうのを見た。あれも魔術で創られた化け物じゃないのか!?」
「黒い、人型?」
どうやらリズに心当たりがあるらしい。
「お嬢様、もしや使い魔ではないでしょうか」
クランの方が少し焦りを含んだ声で言った。
「ヘンゼル様に使い魔が見えたということは、既に実体化しているものと考えられます。実体化したものに対してこの家の周囲に張った結界の自動防衛機能は発動しませんので....」
「容易に家の中へ侵入出来る、か」
勝手に納得するリズとクランだが、ヘンゼルには訳が分からない。
「おい、何なんだよ。結界とか何とか」
「取り敢えず説明は後です。私はお嬢様の護衛を。ヘンゼル様には使い魔の迎撃をお願いしたいのですが」
「それは構わないが、使い魔に銃弾が効くのか?」
ヘンゼルが聞くと、リズの方から説明があった。
「実体化しているなら物理攻撃が通用する。君の持つ銃器でも対処出来るはずだ」
「それさえ分かれば問題無い。ならここから先は別行動だ」
ヘンゼルは二人と別れ、使い魔狩りに向かった。
室内戦となった為、ヘンゼルは装備をアサルトライフルであるHK33からサブマシンガンのMP7へ変える。
まだ家の中を全て廻ったわけではないが、大体の間取りは分かった。
現在ヘンゼルがいるのは二階の長い廊下だった。
壁にはいくつか絵画が飾られている。
ヘンゼル以外に誰もいない廊下にはヘンゼルの足音だけが静かに響いた。
が、しかし。
「....いるな」
誰もいないはずの廊下の先に向かって、ヘンゼルは呟く。
そして、MP7の引き金を引いた。
銃口から放たれた弾丸は天井を貫き、さらに天井にいた何かを貫く。
『―――――ィィィッ!』その何か―使い魔はこの世のものとは思えないような声を上げ、ヘンゼルへ飛び掛かった。
だが、再びMP7から放たれたボディアーマーすら貫く弾丸を正面から喰らい、漆黒の使い魔は猛スピードで逃げて行く。
「逃がすか」
容赦なく、ヘンゼルは逃げる使い魔に弾丸を叩き込んだ。
『―――ィィィッ!!!!』
断末魔の叫びを上げて、使い魔は動かなくなった。
魔術によって創られたものであっても、銃で倒すことが出来る。
今のヘンゼルには、それが分かっただけで十分だった。
次に会った時、クランはベネリM3ショットガンを持っていた。ヘンゼルは初めて会った時に彼女の目を見て思ったが、やはり彼女はただのメイドではないらしい。
「あの、ヘンゼル様。それは一体?」
クランが聞くのも無理はない。
ヘンゼルは右手にMP7を、左手には狩った使い魔の死骸を引きずっていたからだ。
「ああ、これか。取り敢えず殺したという証明が欲しいと思ってな」
それを聞いたリズは腹を抱えて笑いだす。
「はははっ! 面白い、面白いぞヘンゼル! それでこそ私が君を拾った甲斐があったというものだ!」笑うリズの横で、クランがはぁ、と溜息をついた。
「さて、じゃあヘンゼルの手土産を少し調べてみるか」
すっかりご機嫌のリズがヘンゼルの持つ使い魔の死骸に近づく。
その時だった。
最初にその『異変』に気づいたのはクランだ。
『修道会』−その裏の部隊に所属していたクランだからこそ、背後から迫るその存在に気づいた。
M3の銃口をソレ―もう一体の使い魔に向けるクランだったが、それよりコンマ数秒早く使い魔の方がリズへ飛び掛かる。
そして。
響いた銃声はショットガンのそれではない。
サブマシンガン特有の連射音だった。
弾丸を頭部に喰らい、使い魔は後方に跳ぶ。
だがクランはもう逃がさない。
M3の弾丸を二発撃ち込み、使い魔を息絶えさせた。
「お、お嬢様! ご無事ですか!?」
慌てて安否を確認するクランとは対称的に、リズは何事も無かったような顔をしていた。
「ああ、問題ない。ヘンゼルがいい働きをしてくれたからな」
そう言い、リズはヘンゼルの方を見る。
連射されたMP7の銃口からはまだ煙が出ていた。
「今回は命を助けてもらったな。礼を言おう」
「別に感謝される程のことはしてない。....アンタを護衛するという仕事の一つだ」
こうして、ある一日の騒動が終わる。
だが、これはまだ全ての序章に過ぎなかった。
ソマリア。 16時24分。
街の市場を、一人の男が歩いている。
男は『魔術師』と呼ばれる類いの人間だ。
「放った使い魔は二体とも死亡、か。まぁエンフォート家の魔術師に『血祭り屋クラン』が相手なら当たり前の結果だろう」
男は愉快で仕方がなかった。
採らぬ狸の皮算用と分かっていても、男にはあのエンフォート家の魔術師を自分が創りあげた『食屍鬼』によって自らの物に出来る確信があったからだ。
「さて、どのように使わせて頂こうかな。リズ・エンフォート」
男の目の前では、無数の食屍鬼達がまるで不死身の兵士の様にうごめいていた。
こんにちは。STBです。
魔術師とタイトルに書いてあるにも関わらず一話ではほとんど魔術が出なかったので、今回は魔術的要素を少し出しました。
リズの魔術については次回にご期待ください。
前回の後書きで書いた通り、ヘンゼルの装備はドイツ銃器メーカーのH&Kで揃えました。....完全に自分の趣味です。
また今回の敵である使い魔ですが、人型と書きましたが天井に張り付けるところはバ○オハザードシリーズのクリーチャー、リッカーを元にしました。
それでは今回はこの辺で。感想などを書いて下さると嬉しいです。