傭兵の出会い
皆さん初めまして。
STBと申します。
今作が初投稿であり、小説も今まであまり書いたことが無いのでまだまだ稚拙な文章ですが、どうか温かい目で読んで頂ければ幸いです。
―自分がその目で見たもの以外は絶対に信じない。つまりそれは、自分の見たものは信じるということ。
だから少年は信じた。
その魔術師の存在を。
中南米某国。11時29分。
日常という言葉がある。
ごくありふれた日々の事をそう言うのだと少年は教えられた。
普通、彼の歳なら「高校」と呼ばれる教育機関に通い真っ当な教育を受けているはずだ。
しかし彼は今、ドラグノフSVD狙撃銃のスコープを覗いている。
その目に映る人物の頭を十字の中心に合わせ引き金を引く。
狙った人物は頭を撃ち抜かれ倒れた。
彼が今いるのは紛争地。
周囲では銃声と悲鳴が虚しく響いていた。
「あー、もしもし。聞いているか少年兵?」
通信機から聞き慣れた声を聞いた白い髪の少年は、すぐに返答した。
「はいよ。どうした」
「お前のいる場所から200メートル先にある赤いレンガの家、見えるか?」
少年は辺りを見回す。
「あぁ、見つけた」
「そこにスナイパーが一人いるだろ。始末してくれ」
「了解」
ドラグノフを持ち直し、しっかりと目標に照準を合わせ、再び引き金を引く。
目標は頭から鮮血の花を咲かせて倒れた。
「ナイスショット。相変わらずいい腕だな」
通信機からの賞賛の声を無視して、少年は戦場に目を向ける。
戦闘開始から30分。
少年の通信機から声がした。
「本部より戦闘中の各員へ。6キロ先の敵勢力基地に敵の増員を確認した。この兵力を殲滅するのは不可能と判断。至急撤退せよ」
本部からの命令は絶対である。
少年はドラグノフを持ってその場を去ろうとする。
しかし、
「おい! 何だあれ!」
驚愕の声が通信機から聞こえてきた。
「ば、化け物! あ、ああっ!」悲鳴と同時に、通信が切れる。
「化け物」とは、一体何が起こっているのか。
スコープ越しに少年が周囲を見る。
すると、そこには信じられない光景が広がっていた。それはヒトの形をしている何か。抵抗する兵士を襲い、喰っている。
地獄絵図という言葉が相応しい光景。兵士として生きて数年経つ少年だが、ここまでの恐怖したことは初めてだった。
一刻も早くこの場を立ち去ろうと走るが、化け物達はそんな少年を逃がそうとしない。
少年も化け物を撃ちつつ走るが、追ってくる数はより多くなる。
そして。
一瞬の判断ミス。
少年は化け物に腹部を突かれた。
遠のく意識。
深い海の底に沈むような感覚と共に、少年は意識を失う。
2日後。 8時54分。
「――っ!」
恐怖の中で少年は目を覚ます。
少年はベッドに寝かされていた。
負傷した腹部には丁寧に包帯が巻かれている。
「どこだ...ここ?」
この場所は少年の記憶に無かった。
何処かの部屋だということは少年にも分かったが、少なくともここは少年のいた中南米の国ではない。その証拠に、部屋の窓からはしんしんと降る雪が見えた。あの国は雪など降らない。だとしたら、ここは―
「あら、お目覚めですか」
部屋の扉が開き、誰かが入ってくる。
「ご気分は? 痛むところはありませんか」
入ってきたのは20代くらいの女性。服装から考えると彼女はメイドのようだ。
「あ、いや...それよりも、ここは?」
「申し訳ありませんが、北欧のある国としかお教え出来ません。あ、少々お待ち下さい。今お嬢様を呼んできますので」
そう言うと、メイドは部屋を出て行った。
「....北欧? あの国から運ばれたってことか」
一人部屋に残された少年は考える。
頭の中に残っているのは、中南米のあの国で意識を失う直前、突然現れた謎の化け物に襲われた記憶。今までどんな戦場でも見たことの無いアレは一体何だったのだろうか。
そして、自分は一体誰に助けられたのか。
様々な憶測が浮かぶが、結局答えは出ない。
少年は考えるのを止め、もう一度眠りに着いた。
「おい! 少年、起きろ!」
何かに体を揺すられ、少年は目を開けた。
「クランが君と会話してまだ10分も経ってないぞ。そんなに眠いのか」少年の目に映ったのは、金色の長い髪に蒼い目をした少女。
年齢はまだ15、6歳といったところだろうか。
「誰だ、アンタ」
まだ寝ぼけ眼の少年が聞く。「そういうのは自分から名乗るのがルールだろう。逆に君の名前は?」その上から目線な言い方に苛立ちを覚えた少年だったが、話を早く進める為に仕方なく名乗った。
「....ヘンゼルだ」
「それが君の名前か」
「そうだ」
少年―ヘンゼルは自分が名前を名乗った時、相手の反応は二つに分かれると知っていた。
一つは名前を聞いて不思議な名前だと言う反応。
もう一つは、『ならグレーテルは何処行った?』と聞いてくる反応。
そして、目の前の少女の反応は―
「ヘンゼルか。じゃあ君、お菓子の家はどんな味だった?」
少女の反応はどちらでもない。ヘンゼルもお菓子の家の味を聞かれたことは無かった。
「アンタ、俺をバカにしてるのか?」「冗談だ。私の名前はリズ。リズ・エンフォート」
リズと名乗った少女は笑いながら言う。
「アンタが俺を助けたのか? あの国から」
「そう。そこで君に質問だ。君はあの国で何をしていたのか。あの国が今どういう状況か分かっているだろうに」
戦場に人がいる理由。
民間人が逃げ遅れたという可能性もあるが、大抵の場合は違う。
「...戦争をやってた。兵士だからな」
「その歳で?」
「少年兵って言葉は知ってるだろ。俺は8歳の頃から戦場を走ってた」
と、ここまで話してヘンゼルはリズのある発言に気付く。
「....その歳で。って、アンタ何で俺の歳を―」
「君が寝ていた二日間で調べさせてもらった。....ヘンゼル。本名不詳、四年前から各国PMC(民間軍事会社)を転々としながら傭兵として生きている。戦闘能力は非常に高く、狙撃に長けている。三ヶ月前からイギリスのPMCパスカヴィル社に所属。中南米の各国で戦闘を続けてきたが二日前に謎の勢力に襲われ負傷。現在に至る、と」
リズはまるでヘンゼルの人生を見てきたかのように話す。
だがヘンゼルは驚かない。情報化の進んだこの時代、一個人の人生を探るなどそう難しくないと知っていたからだ。
それよりもヘンゼルには、全て知っていながら自分が戦場で何をしていたのかを何故リズが聞いたか不思議だった。
「君は今、私に質問したいことが二つあるはずだ。まず一つは、何故私が君の過去を知っていながら君に戦場で何をしていたかを聞いたこと」
「何で分かった」
「私が話した内容の中で君の気になりそうなものは二つしか無い。それだけだ」
言われてみればその通りだが、ヘンゼルは心を読まれているように思えた。
「....じゃあ聞かせてもらう。何で俺が傭兵だと知っていながら、あの国で何をしていたか聞いたんだ?」
「君が兵士だと再確認させたかったからだ。戦場で信じられないものに出会うと二度と戦えなくなる兵士もいるからな」
「別に俺が兵士として生きていけなくなってもアンタに関係ないだろ」
「いや、あるんだ。それが」
そう言うとリズは顔をヘンゼルに近づける。
そしてヘンゼルの耳元で呟いた。
「では君が知りたい二つ目のこと。君を襲った謎の勢力について、知りたくはないか?」
その一言で心臓が高鳴るのをヘンゼルは感じた。
今自分が最も知りたかったことを向こうから聞いてきたのだ。
彼女はアレについて何か知っている。
確信したヘンゼルの返答は一つ。
「教えろ。アレは一体何なんだ」
それを聞いたリズは悪戯な笑みを浮かべる。
「教えるのは構わない。そのかわり、聞いてしまえば君は元の世界に戻れないぞ。それでも知りたいか?」
「今まで普通の生活をしてた訳じゃない。今更どんな世界になろうと変わらないな」「....いいだろう。では話すとするか。この世界に存在する、魔術というものについて―」
この日、この瞬間。
少年の『世界』は大きく変わる。
魔術という、世界の歪んだ存在によって。
皆さん初めまして。
STBと申します。
まずこの稚拙な文章を読んで頂き本当にありがとうございました。
自分が本作を書こうと思ったのは『銃器と魔術が出てくる話が書きたい』
という理由です。
....ホントにそれだけです。
まだ主人公、ヘンゼルの使用銃器は決まっていませんが、銃器メーカーH&K社のもので揃えてみたいと思います。(今回の話で彼が使っていたドラグノフ狙撃銃は恐らく登場しません。ドラグノフ好きの方はお許し下さい)
それでは今回はこの辺で。文章内で直した方がいい部分などがありましたら感想に書いて頂けると嬉しいです。