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Episode2 「休息」

ひとまずの危険地帯から抜け出した。

その先で待っていたのはいかにもな休憩スペースだった。

大きなソファ、ウォーターサーバー、観葉植物、薄くオレンジ色に照らす電球。

私は彼女の方へ視線を向かわせた。

まだ座り込んでいる彼女の姿。


「…、少し休もうか」


「ご…ごめんね」


どうやらさっきのことで腰がすっかり抜けたらしい。

初っ端からこれで大丈夫なのだろうか?


「やっぱり帰ったら?」


正直、なぜこんなにも危険な場所までついてくるのか不思議でたまらない。

彼女は怖がりだ、そしてここはあまりにも現実から離れている。

普通じゃない場所、普段ならあり得ていいはずのない場所、自分がこんなに冷静なのが我ながらに怖いと思うほどには非日常。

そんな場所で子鹿のように震える彼女。

彼女は死にたいわけでもないのに。

目的があるわけでも。

なら、今からでも引き返したほうが賢明だ。


「すいは…?」


「帰らないよ、まだ目的を果たせてない。」


「じゃあ、帰らない」


「なんで?」


一度入ったら出られない。

そんなのは都市伝説ではよくある話。

けれど今この場所からならまだ引き返せるかもしれない、むしろこれ以上進めば恐らくは…。


「ねぇ、少しお話しない?」


「…少しならいいよ」


私は彼女をソファまで座らせ、その横に私も腰を掛ける。

ソファとはなんだろうと疑問を抱くほどに硬い。

見た目ばかりのソファに私達は腰を掛け、一歩相手の内側へと踏み込もうとしている。


「硬いね」


控え目な笑顔をのぞかせる彼女は少し緊張していた。

息を呑み込み、口を開く、どこか確信のある言葉を私に向けようとした。


「………。

目的…本当にここで果たせるのかな?だって目的って…」


…私は知っている。″本当は″そんなことなんてどうでもいいはずだ。

それよりももっと…。

けれど結局は踏み出せない。

私も同じだ、本当はとうの前から分かっている。

それでも、私は踏み出せない。

それを知ってしまったら、きっと元には戻れないから。


「さっきのサメ怖かったね」


「そうだね」


「ねぇ、どうしても帰らない?」


「うん、どうしてもかな」


「なんで?」きっとそんな顔をしているのだろう。

けれど、私は床を見ている。

目を合わすことなく、彼女にも寄り添うことなく。


「やっぱり帰ったら?」


「いやだ」


「…そう、なんで?」


「なんでって、すいが帰ってくれないからじゃん」


「そうだね、私は帰らない」


「私はすいと一緒に帰りたいの。だから、私もまだ帰らない」


「怖がりのくせに、」そう言おうとして止めた。

きっと彼女は私のことを大切に想ってくれている。

それなのに彼女のことを否定するのは私自身がいやだった。

すると、手に感触がした、私の手に誰かの手が乗っている。

その手は私の手を少し強く握り、どこか震えていた。


「ねぇ、悩んでいることは分かるよ…。でも、1人で抱えないで教えてよ…。私、話を聞くことぐらいならできるからさぁ…。」


手の震えはまだ収まらない。

そっとその手を握り返す。


「ごめん、なんでかはわからないけど言いたくない。それに、言ってもしかたないことだと思う。聞いてもらったところで、"きっと"何も変わらない。」


「私じゃ力になれないってことだよね…」


「悔しいな」そう小さく呟いたように感じた。

しっかり話し合うならきっとこのタイミングなんだろう。

けれど、この期に及んで私は話すことを怖がっている。

もう、どうでもいいことのはずなのに。

彼女には帰ってもらわなきゃいけないはずなのに。

ついてきてくれることが、少し嬉しいと感じてしまう。

私は、最低な人間だ。


「そろそろ行くよ」


「私もついて行くよ?」


「知ってる」


ぎゅっと離そうとした手を握られる。


「まだ握ってたい」


子どものように甘えてきた。

仕方がないから握り返して、


「特別だよ?」


そう応えた。

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