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第86話:要塞の「パーティ・ナイト」。~「雨をバーボンの香りに変えたら、魔物たちが陽気に踊り出して攻略が中止になった件」~

ハードボイルドな世界観を追求しすぎた結果、地上には渋いジャズが流れ、全人類がサングラス越しにニヒルな笑みを浮かべるという奇妙な静寂が訪れていた。カナタは仕上げとばかりに、空の【環境パーティクル】の設定画面を開いた。

「……なぁテツ。ハードボイルドと言えば、やっぱり土砂降りの雨だよな。……でもただの雨じゃ芸がない。……よし、雨粒の『成分テクスチャ』を、最高級バーボンの香りに書き換える。……アルコール分は飛ばして、香りだけを抽出レンダリングだ。――適用!」

 カナタが指を鳴らした瞬間、漆黒の空から琥珀色の雨が降り注いだ。

 世界中が芳醇でスモーキーな樽の香りに包まれる。すると、それまで殺伐と争っていた地上の光景が、劇的に変貌した。

「……おいテツ。あそこでマンモスを追い回してた原始人と、牙を剥いてたドラゴン……なんで肩を組んでステップ踏んでるんだ?」

『……カナタさん。香りが良すぎて、魔物も人間も戦う意欲を完全に失いましたよ! 見てください、ダンジョンのボスだったはずの『デストロイ・ベア』が、雨に打たれながら陽気にタップダンスを踊り始めました!!』

「……あら。……ふふ、愉快ですわね、カナタ様。……殺意の代わりに酔いしれるような香りが満ちる世界。……わたくしも、この香りに誘われて、貴方の隣で永遠に踊り明かしたくなってしまいましたわ」

 ルナが琥珀色の雨を指先で受け、うっとりとカナタの首に腕を回す。彼女の執着は、バーボンの香りと共に、より深く、逃げ場のない甘さへと変質していた。

「……主様。……世界、ベタベタ。……雨の、成分が、不純物。……でも、酔った、貴方は……隙だらけで、可愛いから……。……今のうちに、私が、中身まで、徹底的に、磨き直して、あげますね……ッ!」

 セレスティアが、雨に濡れたカナタの服を「脱臭・研磨」するため、瞳に怪しい光を宿しながら詰め寄る。彼女にとって、主が「香り」で無防備になる瞬間は、最高のリセットチャンス(磨き時)だった。

「あはは! ライバーさん、見てよ! リスナーたちが『攻略中止して飲み会始まったw』『魔物と一緒にカンパイとか神回すぎるw』って、おつまみのアイコンを投げまくってるよ! 同接数が宇宙の限界を超えて、システムが嬉しい悲鳴を上げてる!」

 ノアがゲラゲラと笑いながら、地上の「魔物と人間の大宴会」にスポットライトを当て、強制的にパーティ用のBGMへと切り替えていく。

 

 カナタの「演出」は、ダンジョン攻略という概念を完全に破壊し、世界を一つの巨大な「祝祭の夜」へと塗り替えてしまった。

「……よし、テツ。……次は、おつまみ代わりに『黄金の枝豆』を空から降らせてやるか。……もちろん、最高に磨き上げられたやつをな」

『……カナタさん。それ、もう攻略ライバーじゃなくて、ただのイベント設営会社ですよ……』

【次回予告】

第87話:『要塞の「二日酔い」。~「宴のあと、世界中の人間が『昨日の記憶』をロストして、俺が指名手配された件」~』

「……頭が痛い。……って、なんで俺の要塞が囲まれてるんだ!?」

宴が終わり、我に返った人類が「神に弄ばれた」と激怒!?

怒れる原始人と現代人の連合軍に対し、カナタが放つ「記憶の再編集」とは――。

「主様、大丈夫。……怒っている、彼らの、脳みそ……。私が、綺麗に、漂白して、あげますから……ッ!」

【作者よりお願い】

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!

第86話、バーボンの香る雨で魔物すらも踊り出す、カオスなパーティ回をお届けしました。

もし「魔物と原始人が踊る光景がシュールで面白い!」「セレスティアの『磨き直し』のタイミングが怖すぎるw」と思っていただけましたら、

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