第65話:要塞の「再起動」。~「目が覚めたら、地上の文明がバグで1000年分退化してた件」~
「スリープモード」という名の一時停止から、数時間(要塞時間)。
カナタは、心地よい静寂の中でゆっくりと目を開けた。
「……ふわぁ、よく寝た。……テツ、おはよう。今、何時だ?」
『……カナタさん、おはようございます。……いえ、おはようございます、で済めばいいんですけどね。……今すぐ、窓の外を見てください。……あ、心の準備はしておいてくださいね』
テツの声が、これまでにないほど引き攣っている。
カナタが怪訝そうにリビングのカーテンを開けた、その瞬間。
「……は? なんだこれ」
視界に飛び込んできたのは、昨日まで広がっていた「定規で引いたような直線的な都市」ではなかった。
そこには、鬱蒼と茂る巨大なシダ植物の森と、その間を悠然と歩く、教科書でしか見たことのない巨大な爬虫類――恐竜たちの群れが広がっていた。
『スリープモード中のメモリリークが原因です。……時間が止まっている間に、地上の「文明データ」が破損して、バックアップされていた「太古の環境レイヤー」が勝手に上書き(オーバーライト)されちゃったんですよ!』
「……文明が退化してるってレベルじゃないだろこれ! 1000年どころか、数千万年分巻き戻ってないか!?」
カナタが慌ててモニターを確認すると、地上の王たちが住んでいた城は巨大な岩山に、ハイテクなダンスで鍛えた超人類たちは、毛皮を纏って「ウホウホ」と叫ぶ原始人へとデグレード(格下げ)されていた。
「……あら。静かだと思ったら、ずいぶんと『自然派』な景色になりましたわね。……でもカナタ様、ご安心ください。……文明がなくなったのであれば、わたくしたちがこれから、主様好みの『新しい歴史』を書き込んで差し上げればいいだけですわ」
ルナが寝起きのカナタの肩に頭を乗せ、妖艶に微笑む。彼女にとって、地上が原始時代になろうが、カナタが隣にいる事実に変わりはない。
「……磨き、甲斐がある。……あの、トカゲたちの、ザラザラした、鱗。……私が、一匹ずつ、洗剤で、磨き潰して……ツルツルの、置物に、してあげます……ッ!」
セレスティアが、原始時代にふさわしい(?)「巨大な骨の棍棒(ただし魔力でピカピカに磨かれている)」を手に、テラスから飛び降りようとする。
「あはは! ライバーさん、見てよ! リスナーたちが『ついに恐竜サバイバル編が始まった!』って大熱狂だよ! 野生の恐竜を編集でペット化する動画とか、絶対バズるって!」
ノアがパニックをよそに、恐竜たちの頭上に「テイム可能」のバグアイコンを表示させ始める。
カナタの「うっかり」が生んだ、史上最大のシステムエラー。
攻略ライバー・カナタの新たな物語は、文明崩壊後の原始世界を「再編集」するという、もはや神話の創世記に近い領域へと突入した。
【次回予告】
第66話:『原始人の「チャンネル登録」。~「言葉は通じないけど、投げ銭代わりにマンモスの肉を持ってきた件」~』
原始人と化したかつての王たちが、空中要塞を「神の社」として崇拝!?
「いいね」の代わりにマンモスの肉が要塞に投げ込まれ、カナタの部屋がバーベキュー会場に!
「主様、この肉……脂身を、丁寧に、削ぎ落として……最高に、滑らかな、ステーキにして、あげますから……ッ!」
【作者よりお願い】
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